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4.ヤリアント目線
しおりを挟む 常人ではない、そう思った。
彼女に与えられた仕事は、王子の婚約者の範囲をゆうに超えていた。それをさらりとこなして見せる彼女は、やはり常人ではないのだろう。
「その、殿下のお仕事なのですが……」
「まぁ、ヤリアント様。ありがとうございます。殿下は今、席を外されていらっしゃいますの。わたくしが、代わりに行うように言われておりますわ」
儚げな姿でそう微笑む彼女を見て、彼女の婚約者である王子への怒りに震えたことは、いったい何度あっただろうか。
「……よろしければ、僕の判断できる部分だけでも手伝わせてください」
「ありがとうございます」
実は血の繋がっている王子の、筆頭執事という役割を与えられた僕。その事実を知ってか知らずか、僕を軽く扱う王子。軽く扱うだけならばまだしも、仕事を放棄して遊びまわる王子。そんな王子を諌めることで、関係は悪化の一途を辿っていた。
ある時から、その婚約者という女性が王子の執務室に現れるようになった。もちろん、その姿は何度か見たことがある。執務室に現れた彼女は、王子直筆の代理権授与書も持参していた。次々と仕事をこなす彼女を見ていたのか、そのうちに、国王の代理権も授与されるようになっていった。
彼女に仕事を押し付けすぎだ。そう思った頃には、彼女から目を離せなくなっていた。王子の婚約者である彼女。そんな彼女の手を取る権利は、僕にはない。
「ヤリアント様。こちらのこの部分について、わたくしには少し難しくて……」
「あぁ、ここですね。ここは、」
「わかりましたわ! さすがヤリアント様。ありがとうございます」
教えたことを吸収する速さは、まさに一を教えて十を知る、であった。
「こちらにも応用可能ですわね?」
そう微笑みを浮かべて、新しい発案を次々とこなした。
しばらくして、彼女は自国の置かれている状況を理解したのであった。
「ヤリアント様。このままいくと、我が国は……」
「それ以上おっしゃってはなりません。ですが、フェイジョア公爵令嬢の予測は当たっていらっしゃいます」
「いったいどうしたら……」
僕が解決しようとも思わなかった自国の問題を、彼女は自分のものとして考え、解決法を模索した。
「この方法なら!」
そう言った彼女は、外交にすら関わるようになっていた。彼女の存在が我が国を支えている。過言ではなく、実際その通りになってしまったのだった。
「ツリアーヌ・フェイジョア公爵令嬢」
そう彼女を呼ぶ各国の重鎮。隣国の王子の眼は恋慕に染まり、別の隣国の国王の目は、尊敬の色に染まっていた。
「ヤリアント・フェイジョアと申します」
そう言って彼女の横にたち、牽制を重ねる僕は、果たして彼女に釣り合っていると思ってもらえたのだろうか? 彼女にそう問いかけると、きっとこう答えてくれる。
「まぁ、ヤリアント様。わたくし、あなたをこの世で一番尊敬しておりますのよ? わたくしの尊敬するお方を、侮辱しないでくださいませ! むしろ、わたくしの方が釣り合っているのかどうか……。無理やり結婚させてしまったみたいなものだし」
「いや、僕もツリアとの結婚を望んでいたんだ」
「本当ですの?」
「本当だよ。ずっとツリアを僕のものにできないかと考えていたのだから」
元フェイジョア公爵領である、新ミリュー王国の繁栄のため、我が身を彼女と王国に捧げようか。
彼女が少しでも好きな小説を読みながら、ゴロゴロできるように。
彼女に与えられた仕事は、王子の婚約者の範囲をゆうに超えていた。それをさらりとこなして見せる彼女は、やはり常人ではないのだろう。
「その、殿下のお仕事なのですが……」
「まぁ、ヤリアント様。ありがとうございます。殿下は今、席を外されていらっしゃいますの。わたくしが、代わりに行うように言われておりますわ」
儚げな姿でそう微笑む彼女を見て、彼女の婚約者である王子への怒りに震えたことは、いったい何度あっただろうか。
「……よろしければ、僕の判断できる部分だけでも手伝わせてください」
「ありがとうございます」
実は血の繋がっている王子の、筆頭執事という役割を与えられた僕。その事実を知ってか知らずか、僕を軽く扱う王子。軽く扱うだけならばまだしも、仕事を放棄して遊びまわる王子。そんな王子を諌めることで、関係は悪化の一途を辿っていた。
ある時から、その婚約者という女性が王子の執務室に現れるようになった。もちろん、その姿は何度か見たことがある。執務室に現れた彼女は、王子直筆の代理権授与書も持参していた。次々と仕事をこなす彼女を見ていたのか、そのうちに、国王の代理権も授与されるようになっていった。
彼女に仕事を押し付けすぎだ。そう思った頃には、彼女から目を離せなくなっていた。王子の婚約者である彼女。そんな彼女の手を取る権利は、僕にはない。
「ヤリアント様。こちらのこの部分について、わたくしには少し難しくて……」
「あぁ、ここですね。ここは、」
「わかりましたわ! さすがヤリアント様。ありがとうございます」
教えたことを吸収する速さは、まさに一を教えて十を知る、であった。
「こちらにも応用可能ですわね?」
そう微笑みを浮かべて、新しい発案を次々とこなした。
しばらくして、彼女は自国の置かれている状況を理解したのであった。
「ヤリアント様。このままいくと、我が国は……」
「それ以上おっしゃってはなりません。ですが、フェイジョア公爵令嬢の予測は当たっていらっしゃいます」
「いったいどうしたら……」
僕が解決しようとも思わなかった自国の問題を、彼女は自分のものとして考え、解決法を模索した。
「この方法なら!」
そう言った彼女は、外交にすら関わるようになっていた。彼女の存在が我が国を支えている。過言ではなく、実際その通りになってしまったのだった。
「ツリアーヌ・フェイジョア公爵令嬢」
そう彼女を呼ぶ各国の重鎮。隣国の王子の眼は恋慕に染まり、別の隣国の国王の目は、尊敬の色に染まっていた。
「ヤリアント・フェイジョアと申します」
そう言って彼女の横にたち、牽制を重ねる僕は、果たして彼女に釣り合っていると思ってもらえたのだろうか? 彼女にそう問いかけると、きっとこう答えてくれる。
「まぁ、ヤリアント様。わたくし、あなたをこの世で一番尊敬しておりますのよ? わたくしの尊敬するお方を、侮辱しないでくださいませ! むしろ、わたくしの方が釣り合っているのかどうか……。無理やり結婚させてしまったみたいなものだし」
「いや、僕もツリアとの結婚を望んでいたんだ」
「本当ですの?」
「本当だよ。ずっとツリアを僕のものにできないかと考えていたのだから」
元フェイジョア公爵領である、新ミリュー王国の繁栄のため、我が身を彼女と王国に捧げようか。
彼女が少しでも好きな小説を読みながら、ゴロゴロできるように。
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