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記憶改ざん警報です

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「そのケースは、行方不明になった生徒に関係する挑文師のしわざである、と考えるのが自然ですよね?」
「そう思います。なにか隠したいことがある、のか、それとも」
 融は顎に指を添えて、なにやら考え込んでいる。そして、口を開いた。

「記憶を玉器に入れて、再利用することは可能でしょうか?」
「え?」
「あやとりで奪った記憶を集めて何かに使うことは、出来るのでしょうか?」
「その発想はありませんでした。私は、記憶を消したいがわの人間でしたから」

 私がそう言ったら、融は目を見開く。なるほど、と言うのだ。私にはその思考の流れがまったく分からなかったので、
「どうしました?」
 と聞いてみる。

「周りの人の記憶からある人の存在を消せば、その人の存在を消せますよね。人は記憶によってその存在を認識するものです。出会った記憶、存在していたのを目撃した記憶など」
 融がそう言うので、私は心臓が握りつぶされるような気がした。

 そ、そうですね、とかすれた声で同意する。融が怪訝な顔になった。  
 動揺に気づかれないように、
「たしかに、その線も考えられそうですね」と言い添えておく。呼吸が乱れてきたので、一呼吸をおいた。

 人の存在を消す。それは、禁忌だ。
「二つの線で追ってみましょうか?」
 と融が言うので、私は同意した。

 そして、融は壁に何かが当たる音をさせて、にわかに賑やかになって来た隣室に目を向ける。
 とらつぐみにあてがわれている部屋だ。
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