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紅い女とヒーロー参上

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 記憶の改ざんは本当はやってはいけない行為だ。けれど、任務遂行時にやむを得ない場合には、許されていた。後でこっそり記憶の糸を外しておけばいい。

「寧月先生、大丈夫なんですか?ご家族は」
 幸巻先生が動揺した声で尋ねて来た。
「すみません、様子を見てきます。時間内に戻れるか分からないので、午後は任せてもいいですか?」
 と言ったら、
「はい、任せてください。寧月先生はご家族のところへ行ってあげてください」
 と朗らか幸巻先生は言う。

「ありがとうございます」と言い、その場を去る。誰もないことを確認した後で変化を行い、ハヤブサの姿になった。今は市井に紛れることよりも早さ重視だ。
 空いていた窓から飛び出せば、一人の生徒が、「あ。ハヤブサだ」と声をあげる。ぐんぐんと上昇していき、方向を見定めた。

 私は空路から大学を目指すことにする。旋回して急降下をした後で、敷地内の木陰に降りたった。誰にも見られていないことを確認して、変化を解く。白い靄が徐々に敷地内に広がっていくのが分かった。耳の後ろに触れて扇を取りだしてそよそよと靄を集めていく。

 晴天であれば、それほど精神深くに入る込むことはないとは思う。けれど、日中には学生の数も多いはずだ。影響は少なくないと思う。
 この漠は自然発生ではない可能性が高い。あまり想像したくはないけれど、挑文師の仕業かもしれない、と思う。
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