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魑魅魍魎、ぞろぞろと

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「もし、それが本当なら。禁書を奪うということは命を奪うのと同義でしょうか?」
「そうだ。灯の命は禁書と共に奪われてしまった」
「そうですか」
 融はしめやかに言った。感情の起伏は見えなかったけれど、それがかえって私の胸をつまらせる。けれど、甲子童子はなおも続けた。

「灯は優秀な挑文師だった。だが、禁書は一人でいてはいけない。読み解く者がいなければ、禁書は意味をなさないからな。あの日、灯を一人にすべきじゃなかった。俺は――――」
 言葉を紡ごうとするとらつぐみに、私は手の平を向けた。こちらの事情を無視して、一方的に情報だけを垂れ流しにされるのでは、たまらない。

「悪いけど、甲子童子。過去の心境を述懐するのはやめて。告解も不要。融さんのお母様も、禁書もどれも守り切れなかった。あなたがしたことって、それだけでしょ?何もできなかった、それだけ」
「中々手厳しいことを言うな。お前も惚けているだけじゃあないんだな」
「その後、あなたは、眞下マユさんにあやとりを行って、大罪を犯す。そして監獄に閉じ込められ、そして最近脱獄した。それで時系列は正しい?」

 少しきつい言い方になってしまう。それは過去の物事に関しては、結局私も何も出来ない。その無力さを痛感したからだ。
「美景さん、それは……」
「ああ、おおむね正しい」

「ところで、私の弟は黄昏の監獄で看守をしているんだけど。彼はかなりの反逆精神の塊でね。本局を信じてないの。千景に会った?」
「千景。あいつは、中々話が分かる奴だ。あいつが担当になってからは、やりやすかった。わけあって外に出たい、と言ったらあっさりと手引きをしてくれたよ。ホイ、さっさと出てけ、挑文師業界をかき回してくれよ?とか言って」
「あぁ、やな予感はしてたけど」

 私はため息をもらした。千景らしいといえば、千景らしい。千景が役割を文字通り果たしているところなんて、見たことがない。
 根がシニカルだし、いつでもどんな場面でもギャンブルをするのが千景だ。きっかけを放り込んでみて、どっちに転ぶのかを占う、そんなところがある。そんな彼を看守にされる本局もまた、愚かだとは思う。
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