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語られない死の話

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「佐鶴汐の親か?その後どうなっているのは、俺は分からない」
「もし、佐鶴汐さんのことを覚えているなら。取り替えしたいと思うかもしれない。禁術の上に、さあやさんのご家族にとっては、最悪の方法だとは思うけど」
「禁書の暴走に巻き込まれた以上は、佐鶴汐の記憶を本局の挑文師が消している可能性もあるが」
「一人だけ。消されていない人がいると思うけど。確実に」
「ああ、そうだな」

 甲子童子は、自分の失われた左目を撫でる。
「まあ。さっきの話は、あくまでも、私の想像と仮説だから。根拠は薄いけど」
 私がそう続けると、甲子童子は何やら思わせぶりな視線を送って来るのだ。
「何?」
「お前たちは生真面目夫婦だな。ハヤテの好きそうな縁組だ。だが、進展はしなそうだな。協力してやろうか?嫉妬心を煽るのは効果的だろ?」
 まさか、先日の最悪な行いはそういう意図なの?と思い、甲子童子を睨みつける。甲子童子は肩をすくめてみせた。

「ああ見えて意外に分かりやすいな、寧月融は。お前が奪われる危険を感じれば、恐らくすぐに」皆まで言わせずに、
「余計なことはしなくていい。私たちは充分円満だから」
 と私はくぎを刺しておく。
「分かったよ、せいぜい安寧の時間を楽しめばいい」
 と言い、甲子童子はとらつぐみの姿をとる。そして、リハビリをしてくると言って窓から飛び立っていった。
 そう、安寧の時間だ。

 いつ終わるとも限らない。
 ことが起こればあっという間に壊れてしまう儚い時間だ。
 そう――――。
 壊れるのは一瞬なのだ。
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