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記憶の中に愛情をみる

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 少女の名前は結野咲綾――――ゆいの さあや。

 融あての通話をスピーカーにして、一緒に聞いていたら、「彼女は親の戸籍から分籍されていたよ」と賢木は簡潔に告げる。
 咲綾が筆頭となる戸籍が作られていたらしい。
「誰か職員や関係者に記憶をいじって、操作させたんだと思う」と賢木は言った。

 咲綾は、結野亮勇と野乃実の元に生まれていたようで、咲梨と咲菜という二人の姉がいるようだ。元の戸籍を探しやすかったのは、姉妹で名前の共通点があったからだという。
 咲綾の本籍は隣町だった。現住所は住民票から調べてくれたらしい。
 外部の人に、個人情報を漏らすのは、本来やってはいけない行為だ。ただ、挑文師の役割と表の仕事の守秘義務が重なった場合には、挑文師の任務が優先される。

「どんどん教えてあげるから、何でも聞いてよ。情報はなんでも横流しするから。多少の操作もできる。任せていいよ」と賢木は言うのだった。
「ほら、配置間違いなんですよ。彼女に職業倫理なんてありませんから。俺たちからすれば、ありがたいですけど」と融は言う。

 今回の件は、記憶の保全の観点から見れば、充分任務の範疇だ。生きている人間の記憶を奪うことは、やってはいけない。そして、その存在をむやみに消そうとすることは、禁忌だ。

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