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禁書の痕跡を探って

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 志野尾の件と、雲井の件に関しては、甲子童子にその真偽を確認する。甲子童子は、10年前と7年前の事件は、禁書の不適合による事案だと認めていた。

 融のいる場所ではしにくい話だったので、学校が休みでクリニックが半日診療の日を狙って尋ねた。
「灯は優秀な器だったんだ。挑文師は世襲制じゃないが、適正は確実に受け継がれる。元々、神事に縁のあった家系だったようだ」と甲子童子は言うのだ。
「家系に関係があるの?」
「それなりに。お前も千景も遡れば神事に縁があったかもしれない」
「神事、ね」
 と私は呟く。
 そして、原因不明の事故に関して、甲子童子にもう少し聞いてみようと思うのだ。

「ここ4年間の事件に関しては、間隔が狭いのが気になる。禁書に適性がある人が見つからないのかもしれない」
 と私は言う。
「そうだな。器の適性がある者は希少だ」
「融さんは、自分がその器として適性があるかもしれない、と言っていた」
「歴史的に見れば器は、女が多いようだ。身体の適性、精神的な適性の意味でも、器には女が多いな」
「なぜ?」

「例えば、子どもを宿せる女は、禁書の力を子どもに託せる。自分の器の他に、力を流す道を持つと言われている。かといって男が禁書を宿せないという理由はない。禁書は人を選ぶ。選ばれるかどうかは、禁書を編みこんでからじゃないと分からない」
「禁書を受け入れると覚悟を決めてから、結局適合できなかったケースもあるんでしょ?」

「そうだな。ここ数年のことは知らないが、何百何千といるはずだ。人知れず人柱となっている」
「それでも、禁書を残そうとする人がいる」
「俺は消したいと思っている。すっかり解いてしまって、自然に還せばいいと思っている」
「そう。でも、それでは今まで受け入れてきた人が報われない」
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