上 下
133 / 228
故郷へは妖魔と共に

4

しおりを挟む
 しばらく歩いていくと、強引に外界へ引っ張りだされる感覚があって、私たちは洞窟の外に出る。
 はじめに感じられたのは光で、その次に栄養を多く含んだ泥の匂いがした。
 一面の湖面が眼前にあらわれる。朝の光を反射し湖面は美しく輝いていた。

 足場を確かめると湖のほとりの際に立っていることが分かる。隧道は湖の中央の小島へと繋がっていたらしい。後ろをふり返れば小さな祠がある。祠から出てきたようだ。
 小島から湖の対岸へは朱塗りの橋がかかっていた。
「ここを渡ったら、虹尾だね」と私が言う。
「久しぶりだなぁ」と万理が答えた。

 橋を渡った先には、人通りのある景色が広がっている。
 並木通りには車やバスが走り、通りに沿って立ち並んだビルには、人が吸い込まれていく。
 今しがた渡ってきたばかりの橋を振りかえれば、私たちの後ろにはあの朱塗りの橋はなく、小さな祠があった。祠の前には杯があり、少量の水が溜まっている。

 虹尾の街に着いたらしい。事前に聞いていた佐鶴夫婦の住所をスマホ上に表示させて、確認した。頭の中に地図を入れ込んで、方向を確認して向かうことにする。
 人の姿で出会っても仕方がない。咲菜のときのように、変化をして隙をついてあやとりしたいと思っていた。
しおりを挟む

処理中です...