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ただ、求めて、望む
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スンスンと鼻を鳴らしていた万理は、
「うーん、美景。いやな予感する」と言うのだ。そして、縁側に飛び乗っていく。戸の隙間から部屋へと入っていくのだ。
「万理?」
私は万理の後に続いて中に入っていった。靴を脱いで縁側に乗る。
鼻をつくのは、つんとした酸味を含んだ香りだ。皮膚が粟立って、喉がひりついた。
畳に足の裏が沈み込む感覚があり、私は目の前に黒い塊を見つける。
「美景、来ない方がいいよ」
と万理が言った瞬間に、何かが飛んできた気がした。床に落ちたものを見れば、びくびくっとうごめくものを見つける。
赤黒いそれは、きっと、何かの臓器だ。粘り気をともなった水音がして、しゅうしゅうと何かが抜けていく音がする。
私は思わず口元をおさえた。吐き気が止まらない。けれど、ここで倒れるわけにはいかなかった。
変化をといた万理が肩を支えてくれる。
それは、多分、捕食の瞬間なのだろう。一人の男性が一人の女性を捕食し、また一人の女性が一人の男性を捕食している。
互いに首に噛みつき、互いの皮膚に爪を立てて、内臓を引きずり出しているのだ。
女性の身体からは四方八方に糸のようなものがまき散らされていて、糸の一本一本に映像のようなものが反映されていた。
記憶の糸だ。これは、何?
これまで挑文師をして来て、こんな光景を見たことはない。
ただ、甲子童子や融が言っていた、禁書の暴走に関する供述に近い状況だ、とは思う。
だとしたら、この記憶の糸が、禁書なの?
「すごくいやーな匂いがするんだよなぁ」
万理はなぜかのんびりとした調子で言う。
「今も充分、いやな匂いがしているけど」
「森の中や水の中ではいつもこんな匂いするよ。殺生の匂いでしょ。けど、もっといやな配合の匂いがする」
「いやな配合?」
「そう、歪みの匂い。濁った匂いがするんだよ」
と万理が言ったとたんに、湿気を孕んだ潮風の匂いがした。
「うーん、美景。いやな予感する」と言うのだ。そして、縁側に飛び乗っていく。戸の隙間から部屋へと入っていくのだ。
「万理?」
私は万理の後に続いて中に入っていった。靴を脱いで縁側に乗る。
鼻をつくのは、つんとした酸味を含んだ香りだ。皮膚が粟立って、喉がひりついた。
畳に足の裏が沈み込む感覚があり、私は目の前に黒い塊を見つける。
「美景、来ない方がいいよ」
と万理が言った瞬間に、何かが飛んできた気がした。床に落ちたものを見れば、びくびくっとうごめくものを見つける。
赤黒いそれは、きっと、何かの臓器だ。粘り気をともなった水音がして、しゅうしゅうと何かが抜けていく音がする。
私は思わず口元をおさえた。吐き気が止まらない。けれど、ここで倒れるわけにはいかなかった。
変化をといた万理が肩を支えてくれる。
それは、多分、捕食の瞬間なのだろう。一人の男性が一人の女性を捕食し、また一人の女性が一人の男性を捕食している。
互いに首に噛みつき、互いの皮膚に爪を立てて、内臓を引きずり出しているのだ。
女性の身体からは四方八方に糸のようなものがまき散らされていて、糸の一本一本に映像のようなものが反映されていた。
記憶の糸だ。これは、何?
これまで挑文師をして来て、こんな光景を見たことはない。
ただ、甲子童子や融が言っていた、禁書の暴走に関する供述に近い状況だ、とは思う。
だとしたら、この記憶の糸が、禁書なの?
「すごくいやーな匂いがするんだよなぁ」
万理はなぜかのんびりとした調子で言う。
「今も充分、いやな匂いがしているけど」
「森の中や水の中ではいつもこんな匂いするよ。殺生の匂いでしょ。けど、もっといやな配合の匂いがする」
「いやな配合?」
「そう、歪みの匂い。濁った匂いがするんだよ」
と万理が言ったとたんに、湿気を孕んだ潮風の匂いがした。
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