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雛の器、夫と喧嘩する

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「この方は、多分。隣の地域担当の椿木さんの関係者です」
「ああ、アルパカ急便の。定期的に利用させてもらっていますね」
 私は地面に落ちたスマートフォンを拾いあげた。アルパカのような首の長い動物の絵が描かれたシールが張られたスマートフォンケースがついている。

 女性の脇にしゃがみ込んで、あやとりをしようと試みるけれど、
「美景さん、だめです。精神を持っていかれてしまいます」
 融に手で制された。

 女性の目の奥に様々な景色が浮かんでは消える。十二単や直垂を着た人から、軍服を着ている人、洋服を着ている人。
 様々な人が見える。禁書の中におさめられている人の記憶は、膨大だ。たしかに、強引にあやとりを使用すれば、私の意識は、吹っ飛んでしまうだろう。

 でも、このままにすれば、この人はきっと暴走してしまい早かれ遅かれ絶命してしまう。

 そのとき、燕が飛んできて、降りたって来た。

「佐羽!」
 呼び声がして、女性の元に男性が駆け寄ってくる。椿木晃だ。
「これは、一体!?」
 私たちの姿を認め、ぐるりと見まわした後で、私に尋ねてきた。

「禁書の暴走です。この方は、椿木さんの奥さんですか?」
 私の問いに、椿木は頷く。
「禁書?そんなもの、都市伝説じゃないんですか?」
 椿木の言葉により、ぴりっと左右から殺気が走ったのを感じた。そう、ただの都市伝説で人が死んではたまらない。
 椿木はそうとは知らずに、不謹慎な物言いをしてしまっていたのだとは思う。

 けれど、現実は残酷だ。
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