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過去を掘り返したら、繋がった
しおりを挟むその日、鳥府潤は親しくなった女性とサッサと去っていき、その変わらぬ姿に、私は肩を撫でおろす。改良されていたら、どうしよう、と思っていた。
仕事終わりに慧ちゃんを問い詰めることになる。鳥府潤といつから連絡を取っていたのか、どんな話をしていたのかと。私が気になっていたのは、私の情報や近況を慧ちゃんがどの程度彼に伝えていたのか、と言っていたかだけだ。ただ慧ちゃんはまた別の心境でいたらしかった。
「潤のこと、やっぱ知りたかった?近況も話した方がよかったか?」
と聞いてくるのだ。私は精いっぱい否定する。
「いや、まったく知りたくなかった。話さないでいれくれてありがとう」そう言うと、皮肉としてとったのか、慧ちゃんは笑う。
「潤くんは相変わらずみたいだね。私のことどのくらい話してたの?」
「那々のことは、聞かれれば話すくらいだったけど。付き合ってることは、話してる」
「そっか」
そんな話をしているうちに、慧ちゃんの家についてしまった。今日は紐で結ばれているわけでもないし、一緒にすごす必要もないのだけれど。
自然と足が向いてしまった自分に驚く。エントランスで去ろうとすると、手を掴まれる。
「え?なに?慧ちゃん?」
「潤が言うように、オレが言うのは変だけど。やっぱ今那々と付き合ってるのはオレだから、言っとくわ。潤、つい最近離婚したんだよ」
あまりにも深刻な様子で言うので、何を言うかと思えば、まさか鳥府の離婚報告だとは思わない。
「相手は桜庭先輩だよね?」
「そう」
「でも、潤くんが離婚したのって、そんな大事なこと?」
私が言うと、慧ちゃんは目を丸くする。
「潤くんが何年も同じ人と一緒にいるほうが、不思議だよね」
「でも、那々は潤のこと好きだったし。諦めた原因は結婚だっただろ」
「どっちみち、フラれてるよ。那々巳のすがるような感じがイヤだって。言われてフラれている」
「潤は、あのときから那々が本命だったと思うけど」
「なにそれ。私は潤くんのタイプじゃないもん」
彼は柔らかい口調であっさりと毒を吐く。
「那々巳は何でいつもすがろうとするの、オレの反応を見ようとするの。尽くそうとするの、そう言うのはオレイヤなんだよね」とさんざん言われてきた。
「もし、今潤に迫られてもナイって言える?」
「ナイよ」
「さすがにそれは、嘘だと思う。今日も潤みてぼけーっとしてたし」
「いや、あれは、ファーストインプレッションでの潤くんの特技でしょ。私は秒で戻ったよ」
「好みではあるだろ、潤の顔とか、声、雰囲気とか、好きな部分に関しては、さんざん聞かされてきたしな」
「それは昔の話。今はナイ。好みじゃないってば!」
「あるって」
「ナイ!」
「あるよ。那々が潤のあとに付き合ってきたの、目に影がおちるフェロモン系ばっかだし。潤の影響もろに受けてる。忘れてるわけないんだよ」
なんでそんなに知ってるんだよ、と言いたいけれど、私は誰かと付き合うたびに全部慧ちゃんに話していたように思う。
「忘れてるよ!」
いつになくしつこい慧ちゃんに、だんだんイライラしてくる。必死になって反論していると、ぎゅっと薬指に熱が走った。
ハッとしてみると、薬指に紐が結びついてきていた。
「げ」と私。
「あ」と慧ちゃん。ふたり同時に声をあげる。思わず顔を見合わせた。何を思っているのか分かるので、前置きなく「もう、着替えがないし」と私は言うけれど、「洗濯すればいいんじゃん」と慧ちゃんは言う。
「そりゃそうだけど。慧ちゃん、割りと乗り気だね」
「那々は乗り気じゃないんだよな」
「だって、信用性が今ちょっと、下がってるし」
「うん、知ってる。じゃあどうする?」
「どうしようも、ないよね」こうなった以上は一緒にいるしかない。夜が明ければ、今朝のように紐はなくなっているのかもしれないけれど。
「じゃあ、慧ちゃんが今度はうちに来る?」少なくとも着替えが重要事項だ。それに観葉植物に水をあげていなかったことも思い出した。
「え、いいの?」
慧ちゃんの声が色めき立つ。
「期待に沿えるモノはなんにもないけど、近いし。私も着替え欲しいし」
「じゃあ、オレも着替え持っていっていい?」
「うん」
一緒に慧ちゃんの家に一度入って準備をしてから、私の家に向かった。ついでに夕ご飯を買い物して行く。妙に慧ちゃんのテンションが高いのがおかしかった。
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