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ぬくもり
しおりを挟む「実家から送られてきて、食べきれなくてさ」
B5ほどの大きめな保存ケースにたっぷり入った叉焼を持ってきて、矢弦は言う。茶色の煮汁に浸っている肉の塊は四個にも及び、確かに一人で食べるには多い。
「母親がコーラとか色んな炭酸ドリンクで色んな肉を煮込むのにはまってるらしくって、大量に送られてくるんだよ」
色んな炭酸ドリンク、色んな肉、というからには何度も何度も送られてきているに違いない。
矢弦のお母さんには何回か会ったことがある。明るくて、溌溂とした女性だ。
「いいじゃん、美味しそう」
「もうさぁ、年に何度も来ると割と飽きて来てる。だから、斉木食べてよ」
と言いながら、矢弦は何食わぬ顔であがろうとする。
「矢弦は、彼女いないの」
「いないよ」
「じゃあ、好きな子も狙ってる子も」
「いるよ、目の前に」
今のは、人殺しの言葉だよ、と言いたくなった。昨日再会したばかりの相手に、軽薄な言葉を吐ける男。
高校生の頃の矢弦留ってやつは、こんなだったっけ?
会っていなかった数年間の中に、いろんな出来事があったはずなのに、なかったふりをして、殺し文句を吐いてくる。嘘に決まっているのに。この場を取り繕うためだけに、こんな言葉を言えるんだ。
「だから、ウィンウィンじゃん。飯食お」
ウィンウィン?
矢弦はずかずかとあがり込んでくる。
彼女がいたら、好きな人がいたら、追い出せただろうか。
お惣菜とチャーシューを食べて、残ったご飯を食べる。柔らかいお肉には甘みとうまみがしっかりとしみ込んでいて、美味しかった。
同じ食べ物なのに、血液の中に滋養が流れ込んだ気がしたのは、矢弦のお母さんが矢弦のために作った食べ物だからだろうか。
少し元気になり、お酒が進んだ。
「さっきより、顔色良くなったよ」
と私の顔を見て、矢弦は端的な感想を言う。矢弦の頬も少し血色がよくなっていた。
「オレも疲れてたんだけど。斉木といたら元気出てきた」
殺し文句が出て来れば、不本意ながらじわじわと触れたい欲求が生まれてくる。
するつもりはなかった。いや、逆に、するだけの関係の方がシンプルでいい。
感情がともなってしまえば、離れがたくなってしまう。
矢弦がこちらをチラッとうかがうように見つめてきて、セフレっぽいことしよ、と言うのだ。
私は返事できないままに、矢弦のキスを受け入れた。
「昨日はあんまりよくなかった?」
「なんで、そう思うの」
「反応がよくなかったから」
「声出したら、聞こえるかもしれないし」
「隣はオレんちだし、逆側は留守がちだよ。声、出して」
指が分け入ってきたら、やっぱり矢弦の顔を見あげてしまう。
こんなこと、する相手じゃなかったのに。学校で話をして、一緒に遊びに行って、それが幸せな関係だったのに。
あの箱の中から出てしまった今、何が正しいのか分からない。
「斉木ン中あったかい、入りたいな」
昨日とは違って、唇を噛みしめながらそう言った矢弦を見て、あっと声がもれる。
したいとはっきり表情に出ていると、妙にグッときてしまう。
私は矢弦の今を何も知らない。高校生の頃の矢弦のことしか知らないのに。
「来て、矢弦」
手を広げて矢弦を受け入れる。
どんな人でもいいや。温かくて気持ちがいい、それだけでいい。
「斉木」
吐息まじりに呼ばれたら、耳孔をすっかり染め抜かれる。
別にセフレでいいや。
そんな風に投げやりに思ったことで、私は自分を傷つけることになる。
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