上 下
91 / 126
第四章第一部 春は遅く竹の子は芽吹に恐れる

90話

しおりを挟む



※引き続き我が家で、商業ギルドの課長ヒイキシーと対談中です。

「見込みが甘かったと自覚しました。少なからずそち等の手を煩わせるでしょう」
「・・そうなのですか?」
「ええ、メンドセイ侯爵家も予想に置けてない状況に進んでいます」

 その辺は俺が悪いんだが、ここで自爆したくはない。商人さえも口先だけで動かす商業ギルドの者に、態々弱味を見せるのは宜しくないからな。勘がいいヒイキシーに隠し通せるとは思わないが、事実と虚実のコラボで暫くは欺けると思いたい。

「領公館の手で、メンドセイ侯爵家に伺いは立てて貰いました。こちらから米料理を習得した者を向かわせられる用意があると。メンドセイ侯爵家自らが、神輿に成って米料理を緩やかに波及したかったのです。そこにコノモブ領の料理人が先じるのは良くはなく、双方が遠距離な事を利用して辻褄は合わせます。商人の口に戸は立てられませんが」
「何か合ったのですか?」
「鼻の利く商会の者達が昨日に訪ねて来たました。俺とは関わりが無い商会の者でしたが、領公館の取り組みを引き受けている所です。商会の者とは思えない見切りの良さだ」

「雇用者斡旋・・雇用斡旋商会でしたな。個々の商会が寄り合い、領公館から斡旋所の取り仕切りの許可を貰い新設の名称に変えていました。セブレス様が関わってから、農耕者達も登録するように成ったと聞いています」
「閑散期がある農産を扱う農耕者もいますから、彼等の相談窓口を広げただけです。農地を無駄に遊ばせても仕方ありません。それまで認知してなかったそれ等の資源は、多様な場所でも財貨を生むと解ったのでしょう。ここで率先した行動に出れば、受け渡しの仕事より良い利益に預かれます。後から誰かの介入があるとしても、それまでの優位性を揺るがせません。目地が広く持てる環境には居ませんから、人脈は優先されます」

 交通網など皆無なうえに流通情報程度しか伺えない、そんな地域で一生を過ごす者達なのだ。それに・・ヒイキシーが、この会談から何を捕らえたいのかも解らない。今回の俺の旅程での出来事は、領公館にて俺の対応に伺いを立てた折に聞いている筈だ。それが事細かな内容には成らなかっただろうが、その先にあるコノモブ男爵領での商業ギルドの対応はあちら任せに他ならない。それが双方で築いているギルド支部の在り方だからだ。そこも良くは知らないが。

「商会の者達が先んじての追い込みは功を奏したかは危ぶまれますが、誰が遣るかだけの違いしかありません。農地が余っていても手間が避けないと判断されれば、そこは召し上げか納税を増やされるかのどち等かです。そこへの斡旋者は恵の者に写るでしょう。その手を取る事で豊かにも成れます。農政領は生産量を上げる事で緩やかに上向きになります。領の財政も嵩増しになれば、公共仕事で環境の改善も進みます」

 そこまでが必要になる領の政策だが、先んじた商会のお陰で手掛けに関わらずとも進む。地盤が盤石に傾く場所を嫌がる為政者はいない。頭の悪い統治者ならそれを座視たままにしないが。今は領内の経済を回しつつ、外にも打って出る必要はある。特に不得手な外交貿易は、多様な流通の向上が必須だからだ。

「領の政策は環境改善を優先させるのですか?」
「どちらかと成れば人員の不足があるからです。其れ也の手腕の持ち主を据えても数人でしかないのでしたら、それは商会の彼等に任せた方が賢明です。そして彼等が手間人の選出をして来ますから、環境整備の就労に使えます。街並みの補修程度でしたら、特別な技術を必要としませんから。生活が緩やかでも良くなり、環境が改善されるのを目の当たりにします。自らが収めた税の行方を、しっかり把握出来るでしょう」
「・・統治に興味が無いとおっしゃられたとお聞きしましたが?」

「男爵領に拘っていては、領民を豊かにするのに限界があります。各領の政策を蔑ろにしろとは言いませんが、周りの環境を巻き込んだら面白い事が出来そうじゃありませんか?任せられる所は任せたいと思っているだけです」

 ああぁ・・お茶がめっちゃ冷めてるよ!お茶目だよ。ココア・・キャロブの鞘ココアに成る類似種から作ったキゃロブパウダーでココア感を満喫しよう。羊のミルクが臭いけど俺は負けない。って言うか、領公館へ商会からキャロブパウダーが納品されたんだけど、誰の趣味なんだ?キゃロブの実を使ったチョコレートは、とっても良い値段だったのに。聞いてはいけない奴か?

「レマイア領とコノモブ領の農産品も、流通の改革をしていきます。どちらの過不足も補うのは当然ですが、移動に伴う護衛には冒険者を起用しなければ成りません。現在も使われている契約冒険者が増える状況ですね」
「コノモブ領の冒険者を起用するのですか?」
「主要の発着地がレマイア領であり、起点もこちらですからこの地に滞在出来るかが前提でしょうか」
「それはまた・・コノモブ領の冒険者ギルドは苦しくなりますな」
「街道沿いに作られた王国政策の領ですから、遠くない未来に起こりえる現実でしょうか。大森林から離れ過ぎているので農政領扱いですが、そこにギルドを置く場所が精査されなかったようです」

 そんな主要道沿いに利便性の為の領が作られたが、そのまま通りに冒険者ギルドも建っている。そのギルドから大森林までは3時間以上の道のりなのだ、移動に使える馬車だが置き場に困るので討伐依頼なんて持っての他だ。それに採取した素材も運ばなければ成らないから、立地のせいで討伐に挑む冒険者はかなり少ない。そんな立地を上手く使えているのがレマイア領の冒険者ギルドだ。そこから討伐に出向いても、大森林までは小一時間も掛からないのだから。出来高の素材運びにも力が入るだろう。魔物や魔獣と遣り合って疲弊した体でも、忍耐と根性から考えられる距離だな。俺には関係ないけど。数トンの水とか今も持ってるし!

「定期的に行われる大森林の伐採事業の負担を減らす為にも、より近い場所に宿泊施設や滞在に利用できる所を設置したいですね。流通以外に必要な交通路を開通しなければ、領が捻出する費用の軽減が出来ないでしょう」

 だからさぁって深い話に成った頃、領公館から明日は出向くようにと伝達人が訪れた。もしもーし!そんなお気軽な連絡手段が無いから、その手間を補う者達が就労の場にいる。それを考えれば商業ギルドの連絡機材は凄すぎる、だが導入するのにどれ程の費用が・・聞きませんよ!昼間から星を見たくないし、嫌なフラグはいらない。

「ご用件の出向きに心苦しいのですが、この様な商材の話を聞きたいのです」

 話の腰が折れた所で、帰る素振りのヒイキシーをこっちの都合で引き留める。俺も近いうちに商業ギルドに行くつもりだったが、王都の動向を優先して自宅待機をしている今だったし。それが多分明日には何らかの結果が示される。俺の必要は商業ギルドだけど、その前の確認位はヒイキシーでも熟せるだろう。俺が知りたい所は、デンプン粉を使った料理・・餡かけの煮込み料理を商売として売らせられる店の情報だ。こっちでその状態の店を作って行くのは面倒だ、レシピと資材があれば何とかしそうな飯屋って所を聞きたい。俺はデンプン粉が売れればいいんだ。

「・・んーこれは、汁無し煮込みと売られている物に似ていますな。物は試しと食しましたが、あの時の焦げ臭さは無いですな」

 汁あるし!って言うか、その汁無しはだい無しだよ。ちょっと油断したら焦げちゃった奴だろ?ご飯のオコゲとはちゃうわ。それが店売りとかって・・誰か突っ込めよ!毒感知が反応しまくるぞ。

「その料理に使ったのがこの穀物粉なんですが、とろみを出すのに時間が掛からないで済みます。商品としての扱いは調味料枠なんですが、2軒か3軒の飯屋に扱わせたい訳です。延々と煮込んで焦がす飯屋には悪いですが、調理時間を短縮すれば受けれる量も増えます。注文数の拡大で利益も望めますし、その他の料理も扱わせたいですね。公共事業も進めば魚の養殖場にも目処が立ちますから」
「煮込み時間の違いだけですから、それのレシピの扱いは替って居ません。調味料への登録では、穀物なら問題にならないでしょう。そうですね・・扱いが出来そうな店を調べてみましょう」

 頼んまっせ。そのデンプン粉を作らせるのは、連れて来た子供達に任せようと思うからな。

「門前の商店を改築すると聞きましたが、そちらでの販売では無いのですか?」
「その辺も戻ってから聞かされたのですが、この先に門前で商店を構えているのは宜しくないそうで。この屋敷の隣の家屋を改築し、その門前に商店を移す事に成りました。屋敷前の建物には門番を置く形に変えます」

 そんな感じらしいですよ、それに俺は関わってませんが。俺の進退はこのまま行けばそれなりの貴族に成るのだから、貴族家の門前に商店は無いだろって感じなんだって。いつの間にか隣の家屋が、俺んちの地繋ぎに成ってるけど知らないな。その門前が商店へと替り、その奥に色々備えた家屋が建つんだと。俺が移動する為の馬車が与えられ馬車置き場も設置、それの操者になる御者や護衛諸々の住まう場所が作られる。その辺に掛かる費用の諸々は、うちのレマイア領か王都が出すらしい。俺に負担が無ければ全然構わないさ。

 聞きたい事は聞いたみたいで、ヒイキシーは笑顔で帰って行った。一緒に居たサグッツーモリは、ヒイキシーの隣で呆気に取られたり苦み走った顔だったりと忙しかった。それでも声を出したのは最初の謝罪の言だけだった。良く解らない実体験を俺に残して帰って行ったな。彼は何だったのだろう?

 驚きと言うのならリーリェも、お昼の食事の時にお口をあんぐりしとった。うちの料理人に教えた、そのフレンチトーストの完成度が半端ない。確かに特別な材料は使ってないが、極限まで粉砕した小麦に卵と砂糖等が無駄に頑張っている。それでも俺は食べる時に、シナモンならぬカシア粉も軽く振ったからな。俺に必要なのは美食家の見栄だ、味覚は普通以下かも知れんが極秘さ。解っている、バターも使ってると報告されたが気付かなかったからな。パンを焼く時も使ってたよね?ダブルバター・・両乳に近いかも?バター臭さを抑えたなんて素敵過ぎる。俺のなんちゃって料理とは違うな。こっそり盗もう。

 全く・・こっちの世界の下拵えが適当過ぎて、それらしい料理に成らないのは問題だと思うの。

「・・旦那様、ギルドの者達がお持ち下さったお土産、果実の詰め合わせの見分をお願いしたいと奥様が仰っておりました」
「そう?彼等の目利きは確かだと思うけど、過熟してる物がないか味見をして貰ってくれるかな?それで今夜にも食べれそうな奴は、そうして欲しいとメイサリスに伝えて。少し酸っぱ未や酸味の強いのは、メイサリスの体調用に食べさせてあげて。もう少しの時期が過ぎれば体が欲しがるから」
「解りました」っと下がって行くイエールに、ちゃんと一緒に食べなさいと言っておいた。

 忘れられそうな彼女の存在だが、片方に傾いた耳に見える頭のだんごは俺の視界を抉って来る。あなたは何処のデズーですか?ツインダンゴはヤバいでしょ?彼女がいつの間にかこの家に居る事も良く解らない。結構前に俺の視界に映り込んでいたフーリアの話では、彼女と一緒にメンバーチェンジでこの家に来たらしい。その情報を引き出す為に、大きな恥じとかなりのオヤツが要求された。その恥じに何かと無頓着な俺でも、フーリアやイエールの存在に気づけないとはさらに聞く恥じだ。さすがのフーリアもそこは軽く怒っていたので、その事をイエールに知られる訳にはいかなかった。情報収集と口止めだから高い報酬では無いな。絶対にバラされてると思うけど。

 最近の俺に対するイエールの態度は、以前のキョドリから覚めた視線に代わった気がするもの。あの体を隅々まで綺麗にする施術の時は、超恥じらっていたのが懐かしい。俺と同じ年の乙女の乳が暴れとったわ。女の子は美の追求を止めないのだ。俺の鼻息が乳を膨らませていたと思う。
しおりを挟む

処理中です...