孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

かし子

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第1章 家族編

【14】兄様の誕生日

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その日、兄様が魔法の授業を受けているのを待っている間に母が僕を訪ねてきた。

「アステル、ちょっといいかしら。」

「んぅ?」

積み木をただ上に上に積み上げては壊す事を繰り返していた僕は、母を見上げる。
そんな僕を抱き上げて椅子に座った母は大事な話があるの、と前置きしてこう言った。

「明日はイーゼルの10歳の誕生日なのよ。」

「んにゃ!?」

「何!?」の呂律が回らなくて変な声をあげる僕をお上品にくすくすと笑った母。
は、恥ずかしい...。

ってそれより10歳...!?こんなに兄様大好きなのに年齢を知らなかった事は申し訳ないが、兄様って10歳なの!?
それにしては兄様デカくない...?10歳っていったらまだ小学生でしょ?普通に中学生くらいの歳かと思ってたのに...。だって兄様は体格もさることながら言動が全部大人っぽいんだもん。僕が小さいから特別大きく見えるのかな?

そんな僕の驚きは知らない母は、優しい笑顔のままこう提案する。

「だからね、この機会にアステルもイーゼルに何かプレゼントしない?アステルからのプレゼントがあったらイーゼルはとても喜ぶと思うの。」

「っ!しゅる!」

母の言葉に全力で乗る。

そうだ。兄様が何歳であろうと関係ない。とにかく今は大大大好きな兄様を全力で祝いたい!!

「決まりね。じゃあプレゼントは何がいいかしら?」

「んーと、んーと。」

プレゼント...。
しばらく頭を捻って考えるが、プレゼントを考えることなんて滅多に無かったから、何がいいのか全くわからない。
きっと兄様は何を渡しても喜んでくれるからこそ、適当なものは渡したくないのだけど...。

「お花を摘む?お歌を歌う?何か買いに行く?きっとイーゼルはアステルがしてくれる事ならなんでも嬉しいはずよ。」

そうなんですお母様。イーゼル兄様は僕に甘々だから、きっと泥団子とかでも「この可愛い手で作ってくれたのか、ありがとう。一生大事にする。」と言って保存魔法をかけちゃうと思うんです。ただの泥団子に。
そして最悪、兄様が泥団子愛好家だと噂されてしまうかもしれない。
だからこそ兄様へのプレゼントは、慎重に考えなければならないのだ。

「んぅ~...ん!」

やっぱりこの手で何か作れるものがいいな。流石に泥団子とかじゃなくて、もっと綺麗で心がこもっているやつ!

「あしゅ、にしゃまの、おえかきしゅゆ。」

「イーゼルの絵を描くの?」

「んゅ!」

「それはいいわね!すぐ準備するわ。何で描く?」

「くぇよんと、えにょぐ!」

「分かった。準備するわね。」

よし!
そうと決まればこの手でかっこいい兄様を描きあげようじゃないか!!
兄様の事は毎日、超至近距離で見てるから、きっと完璧に描けるはずだ!
















グリグリ、がしがし、ぺったんぺたぺた...


「んぅ...。」


とりあえず用意してもらった道具で兄様を描いてみる。さっきまでは毎日見てる顔だから簡単だと思ったけど、これがすごく難しい。
単純に鉛筆すら持てない小さな手で絵を描くのは無謀だった。

「アステル?できたかしら?」

手を止めた僕に話しかける母に不満顔で絵を渡す。

「こりぇ、にーしゃま、ちぁう。」

「失敗なの?よく描けてると思うけれど...。」

「ちあう!!いーじぇりゅにぃしゃまちぁう!!もっと、もっとかっこいい!!」

「そう...アステルなりのこだわりがあるのね。分かったわ!じゃあもう一枚描いてみましょう。きっと次は上手くいくわ。」

「う!」


次こそは!と意気込んで再び真っ白な紙を目の前にする。
いざ、尋常に。



ガシガシ!ぐりぐり!べちゃ!!




「...............。」

そして数十分後、目前に広がる“兄様っぽい色の何か”を普段の兄様のような無表情で見つめる。




...だめだ。
全然上手くいかない。既に没絵は3枚に及んだ。そして今しがた4枚目が没になったところだ。

そもそも前世の頃だって僕は大して絵が上手くなかった気がする。描く機会が無くてあまり覚えてないけど、少なくとも兄様のあの異常な美しさを表現できる技量は僕に無かった。というかダヴィンチとかでも無理だろう。

「うぅ...。」

不甲斐なくて泣けてくる。
もっとかっこよく描ければ兄様は「上手だ。」と褒めてくれて大きな手で撫でてくれて、心から喜んでくれるはずだったのに。
この絵じゃきっとダメだ。気を遣わせてしまう。

「ちあう...ちあうのにぃ...あしゅ、へちゃぴ...。」

僕の微妙な絵を見て気を遣う兄様の笑顔を想像すると自然と泣けてくる。そんな僕に母は寄り添ってくれた。

「アステル、泣かないで。ほら、これなんかとってもよく描けているわ。イーゼルの綺麗な黒髪と、鮮やかな赤い目が素敵よ。」

「う~......ちぁうのぉ!」

兄様が綺麗な黒髪で鮮やかな赤目なのは不変の事実だ。当たり前なんだ。わざわざクレヨンと絵の具で紙に描かなくたって分かることだ。
それよりも僕は、兄様のあったかい手とか、微笑んだ時に優しく輝く瞳とか、えげつないスタイルの良さだとか、ツルツルの頬とか、そう言う兄様の全てが大好きだって伝えたいのに...!

「あら...どうしましょう...。あ!じゃあ、こうするのはどう?」

「ぅ...?」

「この絵に、アステルの文字も付け加えるの。」

「あぅ...でも、あしゅ、もじわかんにゃ...。」

災難な事にこの世界の文字は日本語じゃない。たまに兄様の授業で見かける字は全部記号みたいで複雑だった。

「大丈夫。私が書きたい字を教えるわ。一言でもいいのよ、それを絵の横に書けばアステルの気持ちも一層伝わると思うの。どう?」

そういって僕を安心させるように母が微笑む。

「ぁ...。」

その顔を見て僕はやっと気づく。
自分で絵を描くって言ったのに上手くいかなかったら泣いて、全部自業自得なのにこうしてずっと僕と向き合ってくれている母の優しさに。

それに気づいて、ほんの少し前世の自分と比べて、僕は...嬉しかった。

ここではもう、何を伝えてもどんな我儘を言っても後回しにされることはないんだ。

僕はこの世界で、とっても愛されてる。
だから安心して伝えればいい。
どんなに拙い絵でも言葉でも、分かるまで向き合ってくれる人が居るから。



「...もじ、かく。」















いつもより豪華な夕食を終えたあと、父と母からイーゼル兄様にプレゼントが渡された。これまでの兄様は、誕生日にプレゼントを渡されても断っていたため、両親は「今のイーゼルならば受け取ってくれるはず!」と気合を入れていたらしい。兄様も申し訳なさそうに、それでも嬉しそうにプレゼントを受け取っていた。
そして最後に、僕の番だった。

「じゃあ最後に、アステルからもプレゼントがあるのよ。」

「...アステルが、俺に?」

母の言葉に驚いた兄様が父の横にちょこんと立つ僕に近寄って、そばまで来ると目線が合うように膝をついてくれた。
ちょっと高鳴る鼓動のまま、僕は後ろに隠し持っていた紙を両手で広げて兄様に向ける。

「ぃ、いーぜる、にいさま、おたんじょ、うびおめでとう、ごじゃ...ござい、ます!」

いつものように舌足らずにならないように一音ずつしっかり発音しながら、昨日作った画用紙を渡した。
それを見つめながらゆっくり受け取った兄様は、その真っ赤な目を見開きながらそこに書かれているものを見つめた。



【イーゼル兄様 大好きです!】



汚くてヘニャヘニャの字だけど、母は読めると言ってくれたから多分伝わっているだろう。あと、絵は兄様だけじゃなくて家族全員にした。それの方が寂しくなくて、兄様が喜んでくれると思ったからだ。
たまには質より量で勝負してもいいだろう。

「っアステル...!」

ガバッと兄様に抱きしめられる。

「にいしゃま、うれし、でしゅ...?」

「っ...あぁ、あぁ、嬉しいっ、とても嬉しい...!」

その証拠にぎゅうっとさらに抱きしめる力が強まる。うん。僕のプレゼントは大成功だったようだ!
そしてぎゅうぎゅうに抱きしめられたまま耳元で兄様が囁く。


「俺も大好きだ、アステル。...一生、離さない。」


おぉ...?感激すると兄様は危ない発言が目立つな。でもこれはきっとそれだけ心に響いたって事だから、良しとしよう!


「死んでも離してやらないからな。」


...良しとするんだ!


「あしゅも、にーしゃまと、ずっといっしょ!でしゅ!」


そう言うと兄様はああ、と噛み締めるように微笑みながら頷いた。その顔は今にも溶けてしまいそうなほど甘やかだった。
良かった、僕は兄様を本当に喜ばせることができたんだ。

僕の思いが、言葉が、ちゃんと伝わったんだ。
















おまけ




「そういえばアステルがうまく描けないと言って没になっちゃった絵が何枚かあるのだけど、どうしようかしら。」
「ください。」
「文字を練習した紙も...。」
「全部ください。」















________________
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