孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

かし子

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第3章 お友達編

【50】街!

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次の日も兄様と外へ遊びに出た。しかし昨日と違って、今日は街の方へ行き、市場を散策することになったのだ。
いわゆる食べ歩きというやつだ。
目立つのは嫌なので、公爵家とは分からないように護衛は遠くで見守るだけだし、服も地味なものを選んだ。
そして兄様と手を繋ぎながら、人々で賑わう市場を見渡す。

出店に果物を積んでいたり、何かをジュージュー焼いている露店もある。初めて見る街の人たちの生活に目を輝かせる僕に兄様は何か食べるか、と提案してくれる。

「おにく!」

やっぱりここはガツンとお肉でしょ!
ちょうど近くに串焼きのお肉を売っている店があったので、兄様の腕を引っ張りながら指を指す。

「ああ、分かった。」

いつもより食に積極的な僕に兄様は微笑んでついてきてくれる。
兄様に抱き上げてもらい、「にほん!ください!」と指でピースしながら店のおじちゃんに注文する。「お!嬢ちゃん元気だな!可愛いからおまけつけとくぜ!」とお肉が追加された串を2本手渡してくれたおじちゃんに、兄様がお金を払う。そして、まいど!と快活に言ってくれたが...あれ?

「じょうちゃん?」

「アステルは可愛いからな。一目じゃどちらか分からないのだろう。」

あのおじちゃんは完全に僕を女の子だと思っていた。確かにフードも被っていたから顔もよく見えないだろうし、髪も男の子にしては長いから仕方ないのかもしれない。

でも...僕はれっきとした男だ。

「むぅ...。かえったら、かみきる...。」

顔の横に垂れた髪を見ながらしょぼくれる。しかし、そんな僕を兄様は悲しそうに見つめた。

「アステル、俺はアステルに髪を切ってほしくない。もったいな...今の方が似合ってる。」

「にあってる?」

「ああ。かわ......かっこいいぞ。」

「かっこいい!!」

そうだ!確かに長髪でもかっこいい人はいるし、子供だから余計に男女の区別がつきにくいのだろう。僕も成長したら兄様みたいなかっこいい男になるんだ!!
そうと決まればまずは食べること!!
ベンチに腰掛けて、兄様と一緒に串焼きを頬張る。

濃い味付けに確かな歯応え。
公爵家ではさっぱりした味付けの柔らかいお肉が多いから、たまにはこうしてがっつりしたお肉も美味しい。

「アステル、噛み切れるか?」

「んぅ~!!おいひいれふ!!」

「そうか。よく噛んでから飲み込むんだぞ。」

と、兄様は口をハンカチで拭ってくれる。まだ小さい僕の口の周りはタレがべっとりついてしまっていたようだ。
いそいそと僕のお世話を焼いてくれる兄様に感謝しながら、僕はジャンクなお肉をもぐもぐした。外で食べるっていうのも特別な感じがして、とても良い。

「ふぅ~...おなかいっぱい...。」

一本を頑張って噛んだからなのか、すっかりお腹いっぱいになってしまった僕は、パンパンのお腹を撫でながら食後の余韻に浸る。
元一般人の僕と違ってお金持ちはこういう食事を嫌うのかと思っていたけど、兄様も美味しそうに食べていて良かった。なんでも「食べれる時に食べておいた方がいい」とのこと。さすが、日々鍛えている兄様はいつでもサバイバル精神を持っているのだ。きっと無人島でも余裕で生き残ることができるだろう。

「あとは何か見て回るか?」

兄様がくれたどこから出てきたのか分からない温かいお茶を飲み終わった後、次の目的地を尋ねられる。

「にいさまは、なにかみたいのありますか?」

「俺はアステルの行きたいところへ行きたい。」

「うぅん...。」

なんでも僕優先にしてくれるのはありがたいが、僕だって兄様の行きたいところに行きたい。そう伝えると、ふむと何かを考え込んだ兄様は、ある提案をしてくれた。

「では、劇を見にいくか?アステルがこの前絵本で読んだ話をやるらしい。」

「あ!“こおりのおおかみ”ですか?」

「ああ。」

「やったぁ!いく!いきます!」

そうして目的地が決まった。
なんか結局僕のためな気がするけど...まあ良いか。


劇の場所はさっき座っていたベンチから少し離れていたようで、途中で疲れてしまった僕は兄様の腕の中という定位置に収まっていた。「つかれたらおろしてください」とは言ったけど、「今日は一日中これでも良いくらいだ」と返された。さすが剣術の訓練の賜物である立派な筋肉を持つだけある。

街中を眺めながらたどり着いた場所は、屋外のステージだった。そこは雪が綺麗に退けられていて、長椅子に人が集まっていた。僕は椅子に座ってしまうと座高が低くて劇が見えないので、ここでも兄様の膝を借りる。
席に着いた途端、どうやら劇は始まったようだ。








この、“氷の狼”と言うのは、帝国のとある伝説のお話である。

この世界には、人々に攻撃する悪い獣である“魔物”とは違い、人々に力を貸してくれる“神獣”と呼ばれる動物がいるらしい。“神獣”は不思議な力を持っていて、色々な姿で時に川を生み出すほどの水を出し、時に永遠に豊作が続く畑を作り、時に人々を万病から救う。
今回は、そんな不思議な生き物の中の“氷の狼”の話だ。

”氷の狼“ことスウェルローズウルフは、真っ白な美しい毛並みを持っているらしい。
話の内容は、前世で言うところのつるの恩返しに似ている。
怪我をした狼を助けた心優しい少女が、ある日不治の病にかかってしまった。街の人は優しい少女をどうにか助けようとしたが、どんな魔法もどんな薬も効かない。もうダメかと思ったその時に、少女の家を訪ねてきた美しい青年によって病気が治癒されたという。次の日、その青年はなにも言わずに少女の元を去ってしまうが、少女の家の周りには氷の薔薇が咲き誇り、その薔薇もまた万病に効く薬となった。
というハッピーエンドだ。

劇が終わるとパチパチパチと拍手が鳴る。
舞台上では少女を演じた美人なお姉さんや青年を演じたイケメンなお兄さんがお辞儀をしている。

演技力やら演出やらは正直良いのか悪いのか分からないが、ハッピーエンドが好きな僕は満足だった。最後に、空に向かって泣きながら「ありがとう!」と叫ぶ少女には思わず僕まで泣きそうになった。

拍手も次第に収まり、お客さんも次々と席を立ってゆく。

「...アステル、楽しめたか?」

「はい!みんな、えがおになってよかったです!」

「ああ、良かったな。」

それは良かったと思ってる僕に対して言ったのか、劇のシナリオに対して言ったのかは分からなかったが、兄様もハッピーエンドが嫌いではないようだった。

「この後もいくつか劇をやるらしいな。次は...“愛し子の伝説”か。」

その言葉にピクッと体が反応する。

「これも見ていくか?」

「...みない。」

「アステル?」

「もう、かえりたいです。」

「大丈夫か?どこか体調が悪いのか?」

手袋を外した兄様が僕の頬に触れる。
その目にはありありと心配の色が見えた。
...自分の我儘でこんなにも心配をかけてしまって、申し訳なくなる。
表情で心配してくれる兄様の顔を見ていたら、少しモヤモヤした心も落ち着いてきた。

「んーん。なんか、つかれちゃっただけです。」

「...そうか。昨日の疲れが抜けきっていないのかもしれないな。すぐに帰って休もう。」

「...ん。」

ギュッと兄様の首に抱き着くと、僕を両手で支えた兄様が立ち上がる。
後にした席はすぐに次の誰かが座っていた。

「ままぁ!いとしご、ってなあに?」

「そうねぇ。幸せを運んできてくれる人よ。」





脳裏に思い出したくない光景が浮かぶのを、無理やり押し込めようと目を瞑る。

『__は本当に可愛いわねぇ。』

その記憶はこの世界で歳を重ねるにつれて少しずつ薄れてはいる。
しかし、完全に消えてくれる事はなかった。



もし叶うなら、僕の側にも真っ白な狼が現れて、生まれた頃から付きまとうこの不治の病のような記憶を消してくれないかな、と思いながら僕の意識は深い眠りに沈んでいった。














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