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第4話 生意気な娘

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私はサマンサ。
今年、アマーヤ学院へ入学したばかり。
スワンデル男爵家の娘よ。

光輝くブロンドの髪に青空のような水色の瞳。
最近 グッと大人びてきたスタイルにも自信があるの。

我が家は貴族だし、商会も持っている。
スワンデル商会は、貴族向けの文具や雑貨などを扱う店よ。
上位貴族から注文をいただくこともあるんだから。

そんな私が声をかけたのに、
「先約があるから、悪いっ。」
そんな一言で、実技のペアを断られた。

そして、断りを入れた彼が向かったのは、カスミンさんのところ。
貴族の私が、隣の席に座る平民の彼に声をかけてさしあげたのに。

隣の席の彼 ロンくんは、カスミンさんとペアになるらしい。

確かに、彼、ちょっとステキだなと思って、誘うことにしたわよ。
でも、普通は女性に誘われたら笑顔で了承するものじゃない?

わざわざ席を離れてペアになりに行くもの?

それに、入学式で目にとまり、仲良くなりたいと思っていたライアさん。
彼女ともカスミンさんは仲良さげに話している。

ライアさんは、ヒューリア子爵家の娘なの。
財力は我が家のほうが上だけど、爵位は彼女の家がクラスで一番高いと思われる。
私の友人にビッタリだと思っていたのに~。

カスミンさん、あなたの場所は私がいるべき場所なのよ。
早く気づいて代わって欲しいものね。

今日は、私がプリントを配る当番。
さりげなーく林間学校の案内をカスミンさんだけ配らなかった。

イジワル?
さぁ知らないわよ。

一人だけ林間学校に欠席したら、どうなるかしら?
話題についていけずに仲間ハズレ?
楽しみだわ。

***

間違えなくプリントを配らなかったはず。
それなのに、彼女は林間学校に参加していた。
ロンさんと同じチームで、フィールドワークで大活躍。

植物と染め物と結びつけるなんて、どうしてそんなことを思い付くのよ!
ああっ、そういえば、彼女の家はランドリー商会。
服飾を扱っているんだったわね。

染め物の知識もあるなんて、少し見直したわ。
イヤ、ダメよ。

イライラしたから、カスミンさんと同室の友人にお願いして、彼女の寝巻きを隠してもらうことにしたの。

林間学校で泊まる建物は男性と女性で棟が異なる。
だから、女性も男性の視線を気にすることなく寝巻きで心置きなく過ごせる。

なんと彼女、お風呂あがりにへんてこな服を着ていた。

Vネックのシャツはテロンとした柔らかそうな生地でボタンもレースもついていない。
下は幼い男の子がはくような丈の短いズボン。足周りがゆったりとしていて楽で動きやすそう。

ズボンのウエスト部分には細いリボンがついていて、リボンで緩く絞ってある。
そのリボンがウエストを細くみせているし、女性らしさも。


カスミンさんは、慌てて探し物をする様子もなく、のんびりと友人とホットミルクを飲みながら寛いでいる。


友人に確認したら、カスミンさんのバッグには、最初から寝巻きが入ってなかったらしい。

どういうことなの?
誰か別の人に隠されたの?
それとも今 着ているものが寝巻きの代わり?

みな興味津々で、カスミンさんの周りに集まっている。

「ねぇ、カスミンが着ているのは何?初めて見るんだけど……」
ライアさんが聞くと、みんな『よくぞ聞いてくれた』とウンウン頷いてる。
私も離れた位置から聞き耳立てていたから、ウンウン頷いてしまったわよ。
 
「ジャジャーン、これは寝巻きで『パジャマ』と言いまーす。
こうして上着をズボンに入れるとお腹が冷えずに、寝相が悪くてもはだけにくいからよく眠れるの。」

「初めて見たわ。どこで買えるの?」

「ランドリー商会にて近日発売予定です。よかったら買いに来てね。サイズや色違いも取り揃えているから。試着もできるよ。」

「そうなの?でも高いんじゃない?」

「ううん、私たちが着ているネグリジェとそう変わらないよ。レースなど装飾がないから。」

「じゃあ、母さんにお願いして買ってもらおう!」
「私もママに頼もう。」

カスミンさんの周りに人が集まり、盛り上がっている。

何よ、何よ、みんなしてカスミンさんばかり。
イラッとして乱暴にイスから立ち上がると、ネグリジェの生地がイスの角に引っ掛かり、ビリリッと嫌な音が響いた。

一気に注目が集まる。
繊細なレース生地は破れやすかったようで、膝からふくらはぎまでバッチリ見えてしまっている。

女性ばかりだからいいのだが、それでも恥ずかしくて、情けなくて……涙目で座りこんだ。

「確か、あなたはサマンサさん? 心配いらないわ。私、宣伝の為にとパジャマの替えを持ってきているの。一緒に着替えに行きましょう!」
私の腕を引き、部屋へ連れていくカスミンさん。
強引だけど、彼女は破れた場所が隠れる位置に立ち、横を歩いてくれる。そのさりげない優しさはしっかりと伝わってきた。

「しっかり宣伝お願いしますね♪
使用した感想も聞かせてね!」
ニコリと笑った彼女には、勝てないなぁと思った。

カスミンさんと色違いのパジャマは、みんなに羨ましがられ、私はとてもいい気分で、ぐっすりと眠った。

パジャマ、最高~♪
もちろん、今回借りたパジャマは買い取らせていただいた。
お買い上げ一番乗りは私よ!

カスミンとは、無事に仲良くなった。
ライアとも。

私のパジャマを見て、母と妹もお買い上げ。
なんと父まで欲しがってしまって、カスミンに伝えたら……

彼女は、『お客様の声だ』と言い、すぐに男性用パジャマを作成。
男性用はウエスト部分が飾りヒモになり、シルエットも異なるらしい。
お腹周りがゆったりしたサイズも用意されていて、父は、ゆったりをお買い上げ。

生意気な娘カスミンは、今では私の友人よ。

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