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第12話 彼女しかいない
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アマーヤ学院の入学式翌日。
俺 ロンは、幼馴染みのカスミンと一緒に登校するつもりでいた。
それが……
ランドリー家へ迎えに行くと、家中が慌ただしくバタバタしていた。
カスミンが、昨夜眠れなくて寝坊でもしたのかな。
ところが、対応してくれた使用人に、
「カスミンお嬢さんは、まだ行けそうにないから、今日は先に登校して。」と言われた。
「少しなら待てる。」と渋った俺に、
「休むかもしれないから。先に行くよう奥様からの伝吾だ。」と。
心配だが、どうしようもない。
諦めて、一人で登校することにした。
結局、カスミンは来なかった。
とにかく自分にできることをしようと、授業の要点を書き込んだノートの内容を紙に写すことにした。
テーブルでサラサラと紙に書き込んでいると、仕事から帰宅した親父が言った。
「カスミンお嬢さんは、今朝起きたら、記憶喪失になっていたらしい。明日から登校するから、お前がしっかりフォローしてやれ。」
「はっ?」
意味がわからない。
記憶喪失って……
***
次の日、俺はランドリー家のドアを叩いた。
出てきた使用人が、すぐにカスミンを呼びにいく。
玄関に現れたカスミンは、いつもどおりキレイなのだが、なぜか俺を見て、ボーッとしてる。
眠たいのか?
特に怪我をした様子もない。
彼女の制服姿、今日もよく似合ってる。
全く動こうとしない彼女にしびれを切らした俺は、
「ねぇ、どうしたの?早く行くよ。」
そう言って、スタスタ歩き出した。
だが、やはり体調が万全でないのかもしれないと心配で、振り返り確認する。
「待ってよー。」と彼女は小走りで追いかけてきた。
隣に並んで歩き出したが、やはりぼーっと、こちらを見てる。
はぁー、俺のことも覚えてないのか?
そっか、不安なのかもしれないな。
「何? じっと見たりして。
カスミンは記憶がないんだって?
でも心配いらないから、俺が守ってやる。」
ちょっとかっこつけすぎたかな……
恥ずかしくなっていると、カスミンの呟きが耳に入ってきた。
「かわいい顔して、俺って。
守ってやるって。
ああー、何ていい夢。」
はぁ~???
カーッと全身が熱くなった。
やはりカスミンは、おかしい。
今までとは少し違う。
夢の世界と勘違いしてるのか?
「ほら、行くぞ。夢?夢じゃないからな!
俺たちは、赤ちゃんの時からずっと傍にいるんだからな。お前はお前で、ちゃんと存在してる。もちろん俺も。」
「うん、わかった。」
そうこうしていると、アマーヤ学院へ到着。
幸い、カスミンと俺は同じクラス。
できるだけ、彼女をフォローするのが、俺の役目だ。
カスミンは、隣の席のライアちゃんと笑顔で話してる。
うん、無事に友人になれたようだ。
林間学校では、サマンサちゃんとも仲良くなったようで、もう安心だ。
***
クラスに転校生がやってきた。
ハイドくん、ジルニア商会という大きな商会の息子だ。
彼は、初日からカスミンにやたら話しかけている。
帰り道では、彼女の手をひき、連れていこうとした。
彼女と一緒に帰っている俺を差し置いて。
咄嗟に、カスミンの手をひく。
負けてなるものか!
公園のベンチでカスミンの横に座り、ハイドくんの話を聞く。
彼は、隣町の店にパジャマの類似品が売られているのを心配し、教えてくれたらしい。
なんだ、結構いいヤツじゃん。
俺は、パジャマを真似るなんて許せないと頭に血がのぼったが、カスミンは冷静だ。
「要は負けなければいいのよ……」
そう言った彼女の瞳には、闘志が漲っていた。
何かやる気だな。
***
すぐに、カスミンは動いた。
俺、レイアちゃん、サマンサちゃん、ハイドくんを休日、自宅へ招いたのだ。
中庭で、お茶とお菓子を楽しみながら、新商品のアイデアを話すカスミンは生き生きとして、とても幸せそう。
俺がプレゼントしたバッグを肩からかけて、メモにサラサラとアイデアを書き込んでいた。
目の前で、渡したものを使ってくれるのは本当に嬉しかった。
頑張って作ったかいがあったな。
***
ランドリー商会のメイソンさんに、親父と兄とともに呼ばれた。
部屋には、ジーンさんとカスミンもいた。
カスミンのアイデアの商品化は、ジーンさんとレン兄に任せられることが決まった。
兄たちは、歓喜していた。
そりゃそうだ。俺も俺もやりたい。
じゃあ、解散となった時、俺は思いきって声をあげた。
「メイソンさん、俺にもチャンスをいただけませんか?」
Tシャツをやりたいと言った俺に、メイソンさんはチャンスをくれた。
「まぁよかろう。勉強と思って、作ってみなさい。上手くできたら、商品化を検討しよう。」
感極まり、今にも泣き出しそうだ。
拳を握りしめ、プルプルと震える。
カスミンも我慢できなくなったらしく、私もやりたいと、ピョンピョン跳びはねアピール。
俺とカスミンで組んで、Tシャツを作ることになった。
カスミンの頭の中になるTシャツを形にする為、試行錯誤の日々が始まった。
忙しかったが、充実していた。
苦しかったが、面白かった。
俺は、初めて 産みの苦しみとやらを味わった。
紆余曲折を経て、納得がいくものができた時の喜びは、何とも言えないもので……最高だった。
カスミンと一緒に闘った日々は、俺にとってかけがえのないもので……
この先も彼女とともに新しい商品を作っていきたい。
生き生きとした彼女をずっと見ていたい。
そう思った。
俺は、ジーンさんとレン兄が進んだ道と同じように、上の学校へ進学し、いずれは自分の工房を持ちたいとの夢を抱くようになっていた。
パートナーは、、、彼女しかいない。
俺 ロンは、幼馴染みのカスミンと一緒に登校するつもりでいた。
それが……
ランドリー家へ迎えに行くと、家中が慌ただしくバタバタしていた。
カスミンが、昨夜眠れなくて寝坊でもしたのかな。
ところが、対応してくれた使用人に、
「カスミンお嬢さんは、まだ行けそうにないから、今日は先に登校して。」と言われた。
「少しなら待てる。」と渋った俺に、
「休むかもしれないから。先に行くよう奥様からの伝吾だ。」と。
心配だが、どうしようもない。
諦めて、一人で登校することにした。
結局、カスミンは来なかった。
とにかく自分にできることをしようと、授業の要点を書き込んだノートの内容を紙に写すことにした。
テーブルでサラサラと紙に書き込んでいると、仕事から帰宅した親父が言った。
「カスミンお嬢さんは、今朝起きたら、記憶喪失になっていたらしい。明日から登校するから、お前がしっかりフォローしてやれ。」
「はっ?」
意味がわからない。
記憶喪失って……
***
次の日、俺はランドリー家のドアを叩いた。
出てきた使用人が、すぐにカスミンを呼びにいく。
玄関に現れたカスミンは、いつもどおりキレイなのだが、なぜか俺を見て、ボーッとしてる。
眠たいのか?
特に怪我をした様子もない。
彼女の制服姿、今日もよく似合ってる。
全く動こうとしない彼女にしびれを切らした俺は、
「ねぇ、どうしたの?早く行くよ。」
そう言って、スタスタ歩き出した。
だが、やはり体調が万全でないのかもしれないと心配で、振り返り確認する。
「待ってよー。」と彼女は小走りで追いかけてきた。
隣に並んで歩き出したが、やはりぼーっと、こちらを見てる。
はぁー、俺のことも覚えてないのか?
そっか、不安なのかもしれないな。
「何? じっと見たりして。
カスミンは記憶がないんだって?
でも心配いらないから、俺が守ってやる。」
ちょっとかっこつけすぎたかな……
恥ずかしくなっていると、カスミンの呟きが耳に入ってきた。
「かわいい顔して、俺って。
守ってやるって。
ああー、何ていい夢。」
はぁ~???
カーッと全身が熱くなった。
やはりカスミンは、おかしい。
今までとは少し違う。
夢の世界と勘違いしてるのか?
「ほら、行くぞ。夢?夢じゃないからな!
俺たちは、赤ちゃんの時からずっと傍にいるんだからな。お前はお前で、ちゃんと存在してる。もちろん俺も。」
「うん、わかった。」
そうこうしていると、アマーヤ学院へ到着。
幸い、カスミンと俺は同じクラス。
できるだけ、彼女をフォローするのが、俺の役目だ。
カスミンは、隣の席のライアちゃんと笑顔で話してる。
うん、無事に友人になれたようだ。
林間学校では、サマンサちゃんとも仲良くなったようで、もう安心だ。
***
クラスに転校生がやってきた。
ハイドくん、ジルニア商会という大きな商会の息子だ。
彼は、初日からカスミンにやたら話しかけている。
帰り道では、彼女の手をひき、連れていこうとした。
彼女と一緒に帰っている俺を差し置いて。
咄嗟に、カスミンの手をひく。
負けてなるものか!
公園のベンチでカスミンの横に座り、ハイドくんの話を聞く。
彼は、隣町の店にパジャマの類似品が売られているのを心配し、教えてくれたらしい。
なんだ、結構いいヤツじゃん。
俺は、パジャマを真似るなんて許せないと頭に血がのぼったが、カスミンは冷静だ。
「要は負けなければいいのよ……」
そう言った彼女の瞳には、闘志が漲っていた。
何かやる気だな。
***
すぐに、カスミンは動いた。
俺、レイアちゃん、サマンサちゃん、ハイドくんを休日、自宅へ招いたのだ。
中庭で、お茶とお菓子を楽しみながら、新商品のアイデアを話すカスミンは生き生きとして、とても幸せそう。
俺がプレゼントしたバッグを肩からかけて、メモにサラサラとアイデアを書き込んでいた。
目の前で、渡したものを使ってくれるのは本当に嬉しかった。
頑張って作ったかいがあったな。
***
ランドリー商会のメイソンさんに、親父と兄とともに呼ばれた。
部屋には、ジーンさんとカスミンもいた。
カスミンのアイデアの商品化は、ジーンさんとレン兄に任せられることが決まった。
兄たちは、歓喜していた。
そりゃそうだ。俺も俺もやりたい。
じゃあ、解散となった時、俺は思いきって声をあげた。
「メイソンさん、俺にもチャンスをいただけませんか?」
Tシャツをやりたいと言った俺に、メイソンさんはチャンスをくれた。
「まぁよかろう。勉強と思って、作ってみなさい。上手くできたら、商品化を検討しよう。」
感極まり、今にも泣き出しそうだ。
拳を握りしめ、プルプルと震える。
カスミンも我慢できなくなったらしく、私もやりたいと、ピョンピョン跳びはねアピール。
俺とカスミンで組んで、Tシャツを作ることになった。
カスミンの頭の中になるTシャツを形にする為、試行錯誤の日々が始まった。
忙しかったが、充実していた。
苦しかったが、面白かった。
俺は、初めて 産みの苦しみとやらを味わった。
紆余曲折を経て、納得がいくものができた時の喜びは、何とも言えないもので……最高だった。
カスミンと一緒に闘った日々は、俺にとってかけがえのないもので……
この先も彼女とともに新しい商品を作っていきたい。
生き生きとした彼女をずっと見ていたい。
そう思った。
俺は、ジーンさんとレン兄が進んだ道と同じように、上の学校へ進学し、いずれは自分の工房を持ちたいとの夢を抱くようになっていた。
パートナーは、、、彼女しかいない。
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