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みやの

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第3章

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 部屋に入り由伊は律を丁寧にベッドに座らせて、由伊のであろう半纏はんてんを肩にかけてくれた。

「なんか、手厚くしてもらって、ほんとにごめんな」

甲斐甲斐しく世話してくれる由伊家に申し訳なくてしゅん、としてしまう。けれど由伊は、尚も優しい顔で首を横に振った。

「そんな事ないよ。俺らは好きでやってるんだから、律くんは何も気にすることない。それより、どこか辛いところはある?」

律の隣に座ると、ぎし、とベッドが鳴った。

「……ううん、もう本当に治ったみたい」

微熱程度も残っていなそうだ。今まであった倦怠感も熱さも何処かに消えてしまったよう。
京子に容れてもらったココアをちびちび飲みながら、ほっと、息をつく。

「そっか、良かったよ。元気になってくれて」
「……由伊のお陰だよ、本当にありがとう」

そう微笑むと、由伊は複雑な顔をした。
律は「由伊?」と問い掛けると、由伊はバッと頭を下げて「ごめん!!」と叫んだ。

「え、なに? なにが?」

突然謝られたことに混乱し、由伊を見つめる

「……律くんが倒れたのは俺のせいだよね、ごめん」

泣きそうなのを堪えているような顔で、下唇を噛みながら律は謝られる。

「まって、なんで由伊が悪いの?」

そう聞くと、由伊は嘘だろ、と言った表情を見せる。

「……だ、だって俺が言うのもおかしいけど、俺律くんに沢山意地悪したんだよ? 酷い事も言ったし、寒空の下、律くんとの約束すっぽかして放置したし……」

思い出して余計に罪悪感を感じたのか、どんどんしょんぼりしていく由伊。
律は たしかに、意地悪だったなあれは……と思い返す。
けど、

「……でも、由伊がそうしちゃったのは仕方ないじゃん」
「え?」

律のセリフに、由伊は驚く。
仕方ないんだよ、由伊。

「だって俺が、いつまでもグズグズしててなんにも考えてなかったから気づいたのも遅くて、好きな人との時間潰されたらそんなことしたくもなっちゃうでしょ」

俺がいつまでもハッキリしなかったから、由伊は仕方なく意地悪したくなっちゃったんだよね。
嫌われて当然だよな。

「え、違う、違うよ?」
「……え?」

けど由伊は狼狽えながら、律の台詞を否定した。

「俺、あの女との時間なんてどうでもいいよ……ていうか、あんなの全然好きじゃないし」
「……え!? 」

由伊の思わぬ発言に律は驚きを隠せない。

「だ、だって付き合ってるって言ったじゃん! き、きす……もしてたじゃん!」

そう言い返すと、由伊は後ろめたそうな顔をする。

「あれは、……律くんに嫉妬してもらいたかっただけだよ……」
「はぁ?」

意味の分からない理由に理解出来ず、律は混乱しイライラしていた。

「だ、だから! 俺ばっかり嫉妬するのが嫌だったから、思い知れ、と思って好きでもない女とキスして付き合ってるフリしてたの!」

付き合ってるフリ……?

由伊のセリフに唖然とする。
じゃあ何? あの女の子はそれを知らずに、由伊に愛されてると思って、キスだってしてたってこと.......?

由伊は、何とも思ってないのに……? そんなの……そんなの……、

「あんまりだろ……」

由伊は彼女の気持ちを裏切ったんだ。そんなの、酷い、酷すぎる。

「り、律くん?」

律はココアをテーブルに置いて、由伊の顔を強く睨んだ。

「それは酷いだろ、由伊」
「……っ」

ふつふつと怒りが湧いてくる。それと同時に悲しさも、湧いてきた。
由伊はそんなことする奴なんかじゃない、って勝手に思っていた。期待してた。けどそれは、俺の間違いだったんだ。

「せっかく好きになってくれた人をそんな風に扱うのは、良くないよ。どんな理由があれ、最低だろ」

そう言うと、由伊もイラッとした様子で律を見た。

「……それは、律くんもそうじゃん」
「……」

「律くんだって、俺の告白、罰ゲームだと思ってたし、そのあとだって好きだって言ったのに全然考える素振りさえ見せてくれなくて、橘とばっかりイチャイチャしてたじゃん」
「はぁ!? イチャイチャなんかしてないだろ! 橘は友達だ!」

言い返せば由伊も言い返してくる。

「だったら俺だって言うけど、あの女だって俺からしたらただのセフレだから! 向こうは付き合ってるって思ってるみたいだけど!」

セフレ……!? 由伊のセフレ……?

律は由伊のその台詞に、ガーンッと頭を殴られたような衝撃を覚えた。
由伊にセフレがいる。なんでこんなにショックを受けてるんだろう。

あんなに優しい由伊は、嘘だったの? そんなの、もうどこを信じればいい。
由伊のなにが本当なのか分からない。

「何をそんなに驚いてるの? 本当の俺の姿に幻滅した? 嫌いになった? そうだよね、嫌いだよね、俺の事なんて一ミリも考えちゃいないし、興味もないんだもんね」

吐き捨てられたそのセリフに、律は泣きたくなったが、ぐっ、と俯いてツ
ン、とする鼻を感じながら呟いた。

「……お前だって……、俺がどれだけ考えて、考えて、……っ考えて、……由伊に会おうと思ったか、……そっちだって1ミリも伝わってないじゃんか……っ」

律の言葉に、由伊は「じゃあ何を考えたんだよ」と冷たく言ってくる。

「……ゆいは、……ほんとうに、おれのこと、すきなの……っ?」

律は涙を堪えきれなくて、ぽろぽろと零しながら由伊を見上げた。
由伊は少し驚いた顔をしつつも、罰が悪そうな顔で「……前はね」と呟いた。

「いまは……?」
「言いたくない」

嫌いなんだ、おれのこと、本当に嫌いなんだ。
喧嘩するつもりなんてなかったのに、なんでこんなふうになっちゃうんだろう。
自分達はどうしていつも、すれ違ってしまうんだろう。

どうして上手くいかないのだろう。
橘とも仲野とも、他のクラスメイトとも、上手くやろうと思えばちゃんと出来るのに、由伊だけはいつも失敗してしまう。

いつも彼の心が理解できない……そして彼もまた、律の心を理解しないのだ。

「……っ……、すき、……っていえば、……いいの……?」 

ぐすぐす、泣きながら律は言う。どうしたら良いか分からない。
結局何を話したかったのか、あんなに必死で考えて、寒空の下この人を待っていたというのに、何一つ、伝えられていない。

「……それじゃ、意味ねぇじゃん」

珍しく口調を崩した由伊は、項垂れるように.......そして何処か諦めたようにそう言って脱力していた。

「……ねぇ律くん。律くんは俺とどうなりたいの? 律くんは何がしたいの? 俺はどうすればいい?」

珍しく彼の助けを求めるような言い方に、律はぎゅっと、胸が苦しくなる。
そんなの律にだって分かっていない。分からないのだ。

律も由伊もお互いがお互いに何を求めればいいのか、どこまで求めていいのか分からないのだ。

恋人になって欲しい由伊と、友達に戻りたい律には、感情値の差異が大き過ぎて理解したくても出来ない。
恋情と友情は決して交わりはしないのだ。 

ぽろぽろと溢れる涙が止まらない。呆れられたくない。
言いたいことを言わなきゃいけない。伝えなきゃ、伝わらない。
頭で考えるからダメなのだ、思ったことを口にして、それが恥ずかしくても、伝えたいなら伝えなければ。

「……っもっと、……やさしく、して……」 

「……え?」 

「……ひどいこと、……いわないで」

「……」

「……まえ、みたいに……っ、いっぱい……はなそ……っ」

律の呼吸が乱れそうになる。涙が止まらない。こんなにも、苦しくもどかしい思いはもう嫌だ。
何がこんなに苦しいのか、分からないけど、自分の気持ちを素直に伝えるのは、……すごく怖い。

「……りつ、くん」

切なく呟かれる由伊の声。

「……じゃなきゃ、……わかんないよ……っゆいの、おもいも……おれのきもちも……なんにもっ……」
「律くん……!」

ひっくひっく、としゃくりあげながら泣くと、由伊がぎゅう、と強く抱き締めてくれた。

「……おれ、……すきに、なったことないの……っ、だれも……」
「うん」

「……だから、……っ、すき、がわかんないの……ひぐっ」
「うん」

「……でも、……ゆい、が……いないの、やだよ……っ.」
「うん」

「……ゆいが、だれかに……ひどいこと、するのも、やだ……っ」
「うん……」

「でも、……っ、いちばん、やだったのは. ……、きす、……したのみたとき……っ」

由伊の胸で顔をぐしゃぐしゃにして、泣きながら必死に伝えた。
胸が苦しくて苦しくて、胃が気持ち悪くなる。 

由伊からすれば、どうして自分が名も知らぬ女にキスした所を見て嫌だと思ったのか、それをよく考えて欲しい、と思った。

思いはしたが、きっと人を好きになったことがないという必死な彼はそれを考えてしまったらまた熱を出して寝込んでしまうだろう。 
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