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第6章
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しおりを挟む「僕は、人参嫌いだよ律くん!忘れちゃったの!?」
野菜コーナーでさっきからビービー文句を言う大きい男を無視して、律は人参とピーマン、玉ねぎとブロッコリーをカゴに放る。
「ああっ!!ピーマンもカゴに!?なんで!?どうして!?久々に会えた父さんにどうしてこんな惨いことを.......っ」
はぁ、とため息を短く吐いてじとりと見る。
サングラスとマスクの裏できっと、お強請りの顔をしているのだろう。
ちなみに今日の父のマスクにはペンギンの絵が描いてある。
自分で描いたらしい。
マッキーの匂いがしてくせーって言いながらつけていた。
.......なら描かなきゃいいのに。
「どうせろくなもの食べてないんでしょ。たまに帰ってくる時くらいしか手料理食べられないんだから黙って食べなよ」
ムゥ、とした空気を感じ律はさらに無視をする。
「顔は会わなくてもたまーに夜お邪魔してたでしょ!朝も食べてたし!だから健康は保たれてる!今日は好きな物だけ律と食べたいよ!」
子供か。
嫌いなものが人参とピーマンなんて幼稚園児か。
「だーめ。まだ暫く居るなら最終日は好きな物作ったげるよ。今日は健康食」
明らかに拗ねた父はふいっとしてお菓子コーナーへ行ってしまった。
.......あの人、本当に世界を駆け巡って仕事出来てんのかな?
この仕事は嫌だ!めんどくさい!とか言ってそう.......。
呆れつつお肉コーナーを見る。
ひき肉をカゴに入れ、文崇を探そうと律はキョロキョロする。
お菓子コーナーは、たしか.......
「おじちゃんすごいね!?ゲテモノジャーにくわしいの!?」
「ふふん、おじさんはねゲテレッドになるはずの男だからね!」
「そうなのぉ!?すごいすごい!!じゃあなんでくろいめがねとますくしてるのー?かいじんみたい!」
「.......ぐっ、こ、これは大切な者を守るための仮面なんだぞ!!怪人じゃないんだぞ!!」
「わー!ほんとうはぶさいくなんだー!ままあー!ぶさいくなおじちゃんがかめんかぶってるー!!」
「なっおい!!君ねぇ!!」
「ぶっ.......くふふ.......っ」
もう無理、耐えられない。
肩を揺らしてアハハ!と豪快に笑ってしまう。
ブサイクなおじちやんが仮面かぶってるって、ただの暴言!
かわいそすぎて笑いが止まらない。
「り、律~!最近の子供は怖いよ~」
メソメソしながらこちらに来る、仮面をかぶったおじちゃん。
「まあまあ、子供は素直なんだよ」
「そ、それフォローになってないよ!?」
トドメを刺してしまったようで、律はごめんごめん、と笑う。
「あ~笑った。じゃ、甘い物でも買って帰ろ?」
文崇に笑いかけると、一瞬時が止まったように見えたがすぐに「ああ、そうだね」と言ってくれた。
お会計をして、袋詰めし持つと手がふわっと軽くなる。
「僕が持つよ」
荷物をどちらも持った文崇は律に背を向けて「さあ次行こう!」と無邪気に歩き出した。
.......不意に父親の顔をするのは、とても狡いと思う。
後ろ姿に悔しさと、嬉しさを感じて追いかけた。
「なあ律、お友達ってどんな子なんだい?」
ケーキ屋さんへの道をキョロキョロしながら歩く文崇に聞かれ、「え?うーん.......」と首を傾げる。
友達って、由伊と橘の事だよな?
「.......一人は、めちゃめちゃ優しくていっつも俺の事気遣ってくれる.......。もう一人は関西弁であんまり学校来ないけどたまに来ると、皆のことも俺のことも笑顔にしちゃう人.......かな」
改めて言うと、ちょっと照れくさい。
「そうかぁ~。いい子達に出逢えたんだなぁ」
感慨深そうに呟かれ、「.......うん」と頷いた。
「会ってみたいなぁ、その子たちに」
「え?」
まさかの発言に目を丸くする。
「いや、親として見てみたいじゃないか。律がそんなに嬉しそうな顔をして語る子達。きっと素敵なんだろう、と思ってさ」
どっちかって言うと、顔は見えないけど文崇は嬉しそうだ。
「あ、あそこじゃないか!?ケーキ屋!行こう律!!」
ぴゅーっと駆けて行ってしまう文崇の後を慌てて追った。
「律!このミルクレープといちごのタルトとショートケーキ買おう!」
「うち二人しかいないでしょ。誰が食べるのそんなに.......」
「僕と律がいるよ!!」
「だから、俺と父さんしか居ないだろって!」
「でも僕と律はいるよ!?」
「だーかーらー!」
攻防戦を繰り広げていると、「あのぉ.......」と控えめな声が聞こえてきた。
「ここの店、一口サイズにカットされたやつも売ってますけど、色々食いたいんならそっち買った方がいいんじゃないスかね.......」
めちゃめちゃ面倒くさそうな顔した男の子がいつの間にか後ろに居て、そう教えてくれた。
文崇が「わあ!君頭いいね!ありがとう!」と飛びついていたが、律はその彼の顔に見覚えがあった。
「.......寛貴、くん?」
「.......ッス」
初めて声聞いたから誰か分からなかったけど、この顔は由伊の家に行った時ずっとゲームやってた子だろう。
「え?何?知り合い?」
文崇はトレイにケーキを馬鹿ほど乗せながらこちらを見てくる。
「あ、うん.......友達の弟くん」
「えっ!?君が!?わあ!律がいつもお世話になってます~!」
トレイをぶん回しながら寛貴に抱きつこうとする文崇を抑えて、律に「ごめんね」と笑いかける。
「もういいからそれ買ってきなよ。お店の人困ってるよ」
律は文崇を促し、買いに行かせる。
寛貴はショーケースを覗いていた。
「今日、由伊は来てないの?」
ドキドキしながらそう聞くと、寛貴くんは一瞬こちらを見て「.......はい」と答えた。
俺に敬語なんだこの子。
ふふ、真面目だな。
「律~!!手持ち足りなかった!カード忘れた!」
「はあ?なんでそんな買っ.......え!?これ全部買ったの!?」
泣きついてきた父の手元を見ると、ショーケースにあるカットケーキ一種類ずつ乗っていた。
合計金額一万超え.......。
「あのぉ.......お会計.......」
店員さんは困り果てて声をかけてくる。
律は驚き、「あ、す、すみません.......っ」と焦り、慌てて足りない分を出してしまった。
「ありがとうございました~」
安堵したような店員の声を背に、律は絶望しつつ袋を四つ持つ。
「律.......どうしよう.......」
あせあせ、とあたふたする父をじとーっとみる。
父さんはいっつもこうだ。
甘いものに目が無くて、特にケーキ屋さんに入ると俺や母さんの目を盗んでバカみたいに買って、買った後であわあわし出す。
「どうせ食べられないのにどうするのこれ.......勿体ないじゃんか.......」
項垂れて、ケーキを見つめていると、文崇は「そうだ!」と声を上げた。
途端に店に戻って行き、「なんだ?」と待っていたら誰かを引連れてきた。
「律の友達くんにご挨拶に行こう!」
「っは、はあ!?」
困った顔をした寛貴の腕を引っ張り、意気揚々とそう宣言した。
「ちょ、父さん!それはご迷惑だからダメだよ!二人で食べよ、ね?」
「ダメだぞ律。お前は食べ過ぎるとすぐ体壊すんだから無理はしちゃいかん」
「アンタが買ったんだろうが!」
「てへっ」
可愛くねぇよ!!
って違う違う!
こんな漫才がしたいんじゃない!
「ひ、寛貴くんごめんね、この人抑えてるから今のうちにお店戻って!」
そう言いつつ暴れる文崇を抑えると、寛貴は面倒くさそうに「はぁ.......」とため息を吐いた。
ビクッと体を揺らす。そうだ、そういえばこの子達は俺のこと嫌いなんだった.......。
は、早く帰んないと、余計嫌われる.......、
「いいんじゃないスか、来れば」
「.......へ」
思いもよらぬ発言を、寛貴は律たちを見ずに言う。
「アンタに会うと、兄貴も親父も母さんも喜ぶみたいだし」
えっ、え~!!
そ、それはとっても嬉しいんだけど、君が言っていいの?
君とまことちゃんは俺のこと嫌いじゃ.......
「あとそれ、捨てるんなら食いたい」
ケーキを指さして、寛貴はそう言った。
由伊と似た顔だけれど、由伊よりもガタイが良く男らしい。
由伊が女っぽいって訳じゃなくて、短髪でピアスがジャラジャラで目付きが鋭いせいか、男らしさを感じる。
「.......い、いいの?」
恐る恐る聞くと、寛貴は依然として無表情で「いいよ、別に」と言った。
「やったな!律!」
「.......父さんは少し反省して」
呆れて少し怒ると、「すみません」としょぼんとしていた。
そのまま律たちは、由伊の家に寛貴と向かう事になった。
な、なんか.......ずっと会いたいと思ってたから、ソワソワしちゃうなぁ。
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