ソラ・ルデ・ビアスの書架

梢瓏

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第四章 ソルフゲイルの謀略

第60話 精神干渉

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 レオルステイルの行おうとしている魔道は、ミカゲの精神をコレットの中に送り込むと言う方法だった。

精神干渉系の魔法の高位魔法で、純度の高い魔法を練らなければ失敗する事も多々あると言う。

高位魔道士でも、その魔法の実行には躊躇する者の方が多い魔法だった。

「故に、儂は、儂自身がコレットに働きかけるのではなく、ミカゲにやってもらう方式を取る事にするのじゃ。ミカゲの方が、今この場に居る者の中では一番コレットと心が深く繋がっているからの。心の繋がりが深い者同士の方が、この魔法は成功しやすいのは当然分かるだろう?セレス。」

「分かっているよ、母さん。この魔法は失敗すると、精神が抜け出た魔道士は身体に戻れなくなってしまい、いつしか身体が滅んでしまっても精神だけが永遠に漂い続けるんだろう?アンデット系の魔物の書物に載っていたよ。この魔法に失敗した者の末路はの、悲しい現実を。」

セレスが何気なく口にした失敗談を聞いたミカゲは、更にヘビに睨まれたカエルの様な顔をした。
もはや、竜形無しである。

「そ・そそその魔法しか、コレットを助ける方法は無いだちか?」

やや上目遣いでミカゲは、レオルステイルに問いかける。

「残念じゃが、無いのだ。許せ。」

レオルステイルは、そう短い返答をしてミカゲに頭を下げた。

ミカゲは少々顔を青くしながら、小さく首を縦に振った。



 ミカゲが恐れ慄いている間も、コレットの精神表層に戻る事を拒否してどんどん深い所に潜って行っている状態だった。

早めにミカゲをコレットの心の内側に向かわせる必要がある。

レオルステイルは、いつも着ている羽織を脱ぐと裏返しにして、ミカゲの目の前に敷いた。

羽織の裏面には、これから手作業で書くには時間がかかり過ぎる魔法陣と魔道式がすべて描かれており、すぐに精神干渉の高位魔法をかけられる状態になっていた。

「何だ!凄いな母さん、いつもこんな魔道式と魔法陣が書いてある上着着てたんだ?」

関心したセレスが声をかけるも、レオルステイルは相手にすることなく着々と準備して行く。

「ミカゲ、この羽織にコレットを横たえるのじゃ。」

言われた通りにミカゲは、そっとコレットを羽織の上に横たえた。

 コレットからは安らかそうな寝息が聞こえる。

「表層は安定しているの、じゃが安心してはいかんぞ?深層部が問題なのじゃ。」

そう言うと、横たえたコレットの額に小さな魔法陣を描き、額の中空に魔法式を書いた。

中空には、特に絵の具も使っていないにも関わらず、青い光を放つ古代文字が浮かんで行く。

文字から放たれた光は集束して、コレットの額の魔法陣の中心に吸い込まれて行った。

光が完全に吸い込まれるのをレオルステイルは確認すると、

「今度はミカゲ、お前じゃ。」
 
と言って、ミカゲをコレットの横に並んで寝る様に指示を出す。

「分かったち。」

ミカゲは、何の疑問も抱かずにコレットの横に並んで横たわった。

「ではミカゲ、行くぞよ。」

レオルステイルはそう言うと、ミカゲの額にも先程コレットの額に描いたのと似た魔法陣を描いた。

そしてまた、中空に古代文字の魔法式を書きながら、今度は詠唱をし始めた。


  ラール・ラファタール・スレイル・スレオニール

  常闇の彼方に眠るかの地の者よ、深淵に捕らわれた物の心を導き賜もう

  エイル・エルドナード・レファタル・フレスファターリア

  レオルステイルが命じる、暗き深き闇の息吹よ

  氷炎竜の魂を伴い、深淵にて彷徨うファタルの子を目覚めさせよ!


レオルステイルの詠唱が終わるとミカゲの身体が青く光り出し、光が一つの光の玉に集束していったかと思うとフワ~っと浮かび上がって、コレットの額の魔法陣の中に吸い込まれて行った。

コレットの額の魔法陣が青く光り、ミカゲの心が入った事を示している。

そんな魔法陣にレオルステイルは、

「良いかミカゲ、コレットはとても深い闇に捕らわれている。自分ではもう表層に戻ろうと思っていないじゃろう。だが、お前ならコレットを表層意識に戻せると信じている、全力でコレットを取り戻すのじゃ!」

と、これから成すべき事をミカゲに伝えた。

ミカゲは・・・コレットの隣で横たわるミカゲは、コレットと同様に安らかな寝息を立てている。

コレットの意識の中に入ったミカゲからの返答は、作戦?が成功してから聞くことになるだろう。

 一部始終を黙って見ていたセレスは、

「緊張したな~、こんなに緊張感をもって魔道を成すのを見たのは久しぶりだよ。」

と言って、額に滲んでいた汗を拭った。

「まぁ、儂にはこれ位は序の口じゃよ。もっと派手な魔導式を展開する物凄いド派手な魔法もあるがな、これはまたの機会のお楽しみにしておこう。何せこの蒼壁の大陸で発動させようものなら、多分大陸が半分吹っ飛ぶでな・・・・」

「え・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

口をつぐんで苦笑いするレオルステイルに、セレスは呆れるしか無かったが。

母の魔力の凄まじさには定評があったが、この大陸吹っ飛ばす魔法の話はとりあえずセレスは聞かなかった事にする事にした。



 ミカゲは、果たしてコレットを無事に表層意識に連れ帰ることが出来るのだろうか。

セレスは、レオルステイルの魔法とミカゲの意思に未来を委ねるしか出来ない自分に、苛立ちを感じていた。

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