銀色の髪のアリシア

朝顔

文字の大きさ
3 / 7

銀色の髪のアリシア3

しおりを挟む
 ジュリアス・ハロルド・ザガンは得も言われぬ喜びに胸が打ち震えていた。 
 “【アリシア】。俺はようやくお前を手に入れる事が出来る”
 そう思い、クックッと笑い続けるジュリアス。


 ジュリアスは幼い頃に歴史学で聞いた【アリシア】に非常に興味を持った。
 神から啓示を受け、突然現れた救国の乙女。
 実に神秘的な、長い銀の髪をなびかせ敵国マルファラ公国の猛攻を次から次に撃破し度重なる勝利をザガン王国にもたらした奇跡の少女。
 しかし……マルファラ公国をあと一歩で攻め落とせる時になって突然姿をくらませた。
 その事にザガン王国の者たちは皆、驚き憤った。
 もう少しで、宿敵のマルファラ公国を打ち破る事が出来たのに……と、歴史学の家庭教師は顔をしかめて語った。
 その後の独自の研究によって、ジュリアスは裏に恐ろしい計画が立てられていた事を知った。
 すなわち
『マルファラ公国を打ち破った後、功労者アリシアを魔女の烙印を押して、処刑する』
 という計画が。
 どういう経緯でか、【アリシア】はその計画を知ったのだろう。マルファラ公国を攻め落とせる! というその段になって突如、その姿をくらませたのだ。
 “結局は王国が【アリシア】を裏切ったから【アリシア】は自分たちザガン王国を見捨てたのだ”
 ジュリアスはそれを知って渇望した。
 【アリシア】が欲しい、と。


 ジュリアスは十数年前に【アリシア】が生まれたという報を受けた時から、その心は【アリシア】ただ一人に向けられていた。
 “お前は絶対に、俺が手に入れる!”
 その日からジュリアスは全ての学問や武術を全身全霊で学んだ。
 そのお陰で、ジュリアスはザガン王国で屈指の武芸の達人と讃えられるようになっていた。
 “【アリシア】。俺はどんな手段を使ってもお前を手に入れる。逆らうならば……手足をもぎ取ってでも、な……”
 クックックックッ……、とジュリアスの笑い声だけがその場に響いていた。


 アリシアはザガン王国のそこかしこを巡り、遂に王都が見えてきた。
「うわぁ~、相変わらずゴテゴテと悪趣味に飾り立てた街よねぇ~」
 ザガン王国の王都は歴代国王の意向により、まるで玩具の街のような印象を受ける、やたらとカラフルで装飾過多な造りだ。ジッと見つめていると目がチカチカしてくる。
「本当。見えっ張りなのは、あの頃とち~っとも変わらないのねぇ」
 アリシアは呆れた顔で溜め息を吐く。
 数百年前にアリシアが、あのタイミングで王国を見限ったのはマルファラ公国を降伏させた後に、魔女として処刑されるからだけではない。
 劣勢だった時は【アリシア】を持て囃していた奴らが、勝利が確実視されるようになった頃から態度が横柄になり、あれこれ邪魔し始めたからだ。
「あれには参ったわよねぇ……」
 奴らが横から口を出すわ、首級を取る時には横からしゃしゃり出て来て【アリシア】を突き飛ばし功を横取りしようとするわ……
 その度に【アリシア】やザガン軍は窮地に陥り、何度やむを得ず御使いの力を使う羽目になった事か。
 その為、勝利が目前に迫ったタイミングで【アリシア】は
 “ここまで勝ち進んでやったんだから、後は自分たちだけでやれ”
 と、神の御下へと戻ったのだ。
「まさかあの状況で敗けるなんてねぇ」
 あの時は本気で呆れ返った。
 あの時の状況なら、余程の悪手を打たなければ形勢逆転なんてまずあり得なかったのだ。
「奴ら、とことん戦下手って事よね」
 と、溜め息をこぼす。
 

 そして、いよいよアリシアは王都に足を踏み入れる。
 “おお~! 警戒してる、警戒してる”
 街中に人影は無い。恐らく【アリシア】襲撃の報を伝え聞き、避難勧告が出ているのだろう。
 “だけど……避難したのが屋内じゃあ、全く意味は無いけどね”
 アリシアは街そのものを破壊していると聞いていないのか?
 “まあ。何処に逃げたって命拾いなんてさせないけどね”
 そんな事を思いながらアリシアは無駄にまばゆい街中を歩いて行く。
 すると
 ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ、ヒュッ……
 不意に矢の雨が降ってきた。
 アリシアは矢の雨に一切視線を向けずに歩き続ける。
「な、何……!?」
 何処からか驚愕の声が聞こえてきた。
 矢の雨は一切アリシアに貫通せず、それどころかアリシアを避けるように不自然に軌道を曲げ、全てあさっての方へ突き刺さった。
「……」
 矢を放った騎士団は呆然とそれを見つめていたが……
「ひ、怯むな! 撃て、撃て、撃てーーー!!」
 次の瞬間、またもや矢の雨が降ってきた。
 アリシアは面倒くさそうに矢の雨を見つめたかと思うと
「な……!?」
 騎士団は驚きの余り声が出ない。
 今度は何と、矢の雨が一瞬にして燃え尽きてしまったのだ。
「……」
 この状況が理解出来ず、茫然自失する騎士団。
 アリシアは騎士団に向けて手をかざす。
「ぎゃあああーーーーー!!」
 ほんのわずかな間に騎士団は壊滅した。


 それからしばらく歩いて行くと
 キラッ!!
 突然目の前に光が走った。
「?」
 アリシアが立ち止まると
「よく来たな、【アリシア】。待っていたぞ!」
 金髪碧眼の美丈夫が御大層な槍を持ち、アリシアの前に立ちはだかっていた。
「……あんた誰?」
 昔の記憶と照らし合わせ、目の前の人物が誰であるのかは予測はつくが、敢えて尋ねる。 
「ふん。俺はジュリアス・ハロルド・ザガン。この国の王だ」
 ジュリアスは誇らしげに名乗った。
 対するアリシアの反応は
「あっそ」
 ただそれだけだった。 
 
 

  
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いつか優しく終わらせてあげるために。

イチイ アキラ
恋愛
 初夜の最中。王子は死んだ。  犯人は誰なのか。  妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。  12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

もしもゲーム通りになってたら?

クラッベ
恋愛
よくある転生もので悪役令嬢はいい子に、ヒロインが逆ハーレム狙いの悪女だったりしますが もし、転生者がヒロインだけで、悪役令嬢がゲーム通りの悪人だったなら? 全てがゲーム通りに進んだとしたら? 果たしてヒロインは幸せになれるのか ※3/15 思いついたのが出来たので、おまけとして追加しました。 ※9/28 また新しく思いつきましたので掲載します。今後も何か思いつきましたら更新しますが、基本的には「完結」とさせていただいてます。9/29も一話更新する予定です。 ※2/8 「パターンその6・おまけ」を更新しました。 ※4/14「パターンその7・おまけ」を更新しました。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...