プリンセスと呼ばれる器

たとい

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今の立場

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女騎士は鏡の前で固まる。

目の色も髪の色も違う。幼い姫君。それが今の彼女だった。

覚えているのは、矢に撃たれて倒れたこと。



「あれが致命傷とも思えない。この姿といい、何かしらの呪いか?」



とりあえず自分はどこの国のどんな王女なのかを知るために、部屋の中を物色してみる。

しかしそれを知ったとき、彼女は目を見開いた。

手に取っていた本に載っていた、この国の名前は間違いなく

自国と敵対していた国の名前だった。




「そうか。私は今、敵国の王女なのか。」




なんとも滑稽なことだと、頭を抱える。

しかし、これはチャンスではないかという考えがよぎった。

この国は、これまで何度も理由なく襲ってきては民に危害を加えてきた憎むべき相手。

そして、王女を攫った侵入者を送ってきた張本人でもあった。

この国の姫として潜入している今なら、やれる。




彼女はなんとか従者たちを騙し切り、夜中に国王の寝室にこっそりと入ることに成功した。

そして眠る王様に向かって、隠し持っていた凶器を手に持った。

が、そこで気づいてしまう。

その凶器を握る手が、他人の手であることに。




王が死ねば、自分の国は救われる。

けれど、この後自分はどうなる。この後、私に乗り移られた姫はどうなる。

もしも元に戻ってしまったらどうなる。

自分はどうなってもいい。しかし、姫君が罪に問われてもいいのだろうか。

元に戻ってしまったら、たとえ操られていたとしても姫君はきっと親を殺してしまったことを嘆くだろう。

そんなことは許せない。

たとえ敵でも、他人に自分の罪を負わせるなんてことはできなかった。




「あぁ、なんてこと。それなら私はどうすれば。」




いっそ夢ならばいいのに、と。

呟いた言葉が心に響いた。
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