プリンセスと呼ばれる器

たとい

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駆け引き

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「姫、あの剣術はどこで覚えたのですか?」




一人の騎士が部屋に訪れたかと思えば、そんなことを聞いてきた。

やはり感づかれてしまったかと、女騎士はため息をついた。




「あなたが戦場で魅せたあの立ち振る舞いには見覚えがあるのです。」




そんなことを言ったものだから、騎士の顔をよく見てみた。

しばらくしてようやく刃を交わしたことがある相手であったことを思い出す。

真実を見つめるような眼を見て、今の自分が本当は姫ではないことをどこかで確信していると理解した。

これ以上、嘘をつけないことも。




だから真実を述べることにした。

「私は敵国の女騎士。矢に打たれて倒れた後、気が付けばこの国の姫になっていた。」

しかし騎士は立場上、それを簡単に信じる訳にはいかない。

偽物というのであれば捕まえなければと、拘束するための手を伸ばす。

だが、彼女はその前に短剣を首にあててみせたのだった。

本物かもしれない姫を人質にとられ、立場は逆転する。

女騎士は問う。




「本当に我が国に攻めてはいないのか。」「攻めていない。」

「誘拐された王女がどこにいるのか知らないか。」「知らない。こちらは何もしていない。」




質問して、答えを聞くたびに胸は苦しくなるばかり。

嘘だ、と叫びたかった。しかし、心のどこかでわかっていた答え。

この国の人々は悪くない。我が国が勘違いをしている。

その事実が苦しくて、悔しくて、にじみ出そうになる涙を必死に我慢する。

健気な姿に騎士は心打たれ、彼女の前にひざまずいた。




「私の言うことを信じてください。あなたの言うことも信じましょう。」




騎士はたとえ偽物でも国を救おうとしてくれた彼女を信じることにした。

彼女は。涙をぬぐいながら平気そうに受け入れた。







二人で調べていくうちにわかったこと。

それは、この敵対している国が大昔は一つの大国であったこと。

そして当時は王女に不思議な魔力が天から授けられたという話。

もしそれが本当ならば、彼らが王女を攫い、自分を狙う理由もわかる。




「私は姫の力でこの体に入ってしまったと?」

「そして、その力を狙っている何者かが両国を騙している可能性が高い。」




元の体に戻してあげるためにも、両国を救うためにも、王女が幽閉されている可能性の高い、互いの国の中心にある塔に忍び込むことにした。




その頃、姫の戦いぶりを聞いた者がいた。

思考を巡らせながら後ろを見る、そこに眠っていたのは攫われた王女と女騎士。




「それが真ならもしや、その姫君は・・・。」




暗躍していたその人物もまた、一つの答えにたどり着いて、にやりと笑った。
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