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誰かの為ではななく、あくまでも自分の為に

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「でもどうやって宝箱見つけるの?もうどこにもないと思うけど......」

 レオンの言う通りいくら広い学園と言えど宝箱を隠せる範囲は限られているし600人近い生徒が総当たりで探しているのだ。終了時間30分を切ったこの時間にもう宝箱は残っていない。生徒に獲られているだろう。だから......

「獲られたなら、それを奪えばいいだけだ」

 非道かもしれないが生徒会が読み上げたルールのなかに暴力行為が禁止だとか横取り禁止だとかは明言されていなかった。あくまで宝箱の中に入る生徒会の私物を持ち帰った者に褒美を与える、という内容だ。だから既に宝箱をGETしている生徒のもとへ行って貰えばいいだけ。

「大丈夫だ。目星はもうついてる」

 顔を盛大にひきつらせるレオンに雪嶺は笑顔でそう言った。



 先ほど3階で宝箱を探すレオンを横目に下を向くと、『たまたま』校舎の裏で陳腐な宝箱を手にたむろするセンパイ達を見かけたのだ。入学早々校舎裏なんて陰気な場所に連れてこられたレオンは少しビビっているようだがこれもお前の為だ。
 ゲラゲラと品のない会話を交わすセンパイ達の前にすみません、と純情な後輩を装って近づく。おい、レオン、なに後ろで笑ってやがる。

「おー? 一年か?」

「はい、あの、急で申し訳ないんですけど、よければその宝箱くれませんか......?」

「この宝箱か? ククッ、いいぜ。その代わり俺たちにナニをくれるんだ?」

 こんな愚図共も一応金持ちの息子。金銭がほしい訳じゃないのは分かりきっている。先程とは一転、後ろで縮こまっているレオンは皆目見当もついていないようだが、この学園が男色である以上金品の他に求められるのは当然のことながら身体。

「この身体で出来ることならなんでもしますよ。でも後ろのこいつは着いて来ただけなんで勘弁してやってください......」

「あぁ、わかった」

 ありがとうございます、と心にも思っていない事を笑顔で言いながらレオンに下がっておくよう声をかける。が、どうもこういう空気に慣れていないお坊っちゃんは固まったままだ。返事はするものの下がる気配はないしどこか上の空だ。

「レオン、怖いならアッチの隅の方に隠れてろ」

「え、でも、雪ちゃん、え、大丈夫、なの?」

「食事券、だろ? 向こう行ってろ」

 硬直状態のレオンをひっくり返しこちらに背を向けさせた状態でその背を思いっきり押す。ちらちらとこちらを振り返りながらもちょうどここからは陰になっている校舎の柱の影へと身を隠した。
 人を勝手にちゃん付けする癖にクソビビってるじゃねぇか、なんてほくそ笑みながら四人に向き直る。

「ヒュー、友達思いの雪ちゃん」

 おちょくるように口笛を吹く、癪にさわる。 

「別に友達思いじゃねぇし。ちょっと溜まってるから久々にヤりあいてぇだけ」 

 ゴキゴキと音を発てながら首を回しくねくねと足首も回しておく。挑発するように中指を立てると相手はすんなりとその挑発に乗ってくれた。

「調子乗ってんじゃねぇぞ!雪ちゃんよぉ!」

 ゴキっ、ドサッ。

「その雪ちゃんってやつやめてくんない?」

 真正面からの相手の空き空きの腹に膝蹴りをお見舞いすると肋骨付近にちょうど膝が当たったのか骨にヒビでも入ったような音をしたのち、男は呆気なく顔から崩れ落ちた。

「このっ、年上舐めやがッ────オエッ、 グァ"ォ!!」

 仲間がやられたことで気が動転したもう一人が猪よろしくとばかりに突っ込んでくるがそれも回し蹴りで地面に膝をつかせ、追い討ちをかけるように頭部を蹴り飛ばす、もちろん意識を落とす程度の威力のモノ。

「ははっ、もう半分居なくなっちゃった。次はどっち?」

「この野郎ッ」

 勢いだけの相手を倒すのは得意だ。身体中に隙があるし狙い放題。どこでも狙ってくださいと言わんばかりの的が向こうから近づいてきてくれるのだ、倒しやすいことこの上ない。 男の腹を足蹴りして体勢が崩れたところ首もとにもう一発足でお見舞いする。面白いくらいすぐに倒れる男。

「あとはあなただけですね、先輩」

「ヒッ、や、やめてくれ、ッ宝箱は渡す、だから見逃してくれっ。お、俺たちが悪かった......!」

 話に乗ったのはそっちの癖して自分が追い詰められるとあっさり降板。さっきまでの一年生のお子様に対する態度はどこへやら。  

「分かりました。じゃあこの勝負僕たちの勝ち、この事は他者に口外しないでくださいね?」

「あ、あぁ、約束する、約束するよ」

 しっかり言質はとった。口約束だがプライドだけは一人前の彼らが誰かに言うことは考えづらい。逃げるように去っていく先輩の背を見送り地面に放置された宝箱を手に取った。プラスチック製の安物、中を開くと黒と青で装飾されたシンプルかつシックなデザインのブレスレットが入っていた。それを見て特に何を思うでもなく、柱の影に隠れたレオンの方へと向かう。

「もう終わった、宝箱どーぞ」

「わぁ、本当に勝っちゃたの? 上級生四人相手に? 雪ちゃんすごいな......あ、宝箱ありがとう」

凄い凄いと惚けるレオンに宝箱の中身はブレスレットみたいだ、と告げるとレオンは中を見る。

「ほんとだ、しかもこれナルキッソスのブレスレットだ」

「ナル......なんて?」

「ナルキッソスだよ、世界的に有名なメンズアクセサリーブラウンド。こんな良いものをレクリエーションに使うなんて金持ちは違うね」

 アクセサリーを身につけないからブランドは解りかねる。ルイ○ィトンとかなら知ってるけど。
 ブレスレットを繁々と眺めるレオンに時間だぞ、と声をかけると慌ててブレスレットを仕舞い意気揚々と体育館へと足を向けた。 さっきまで怯えてたくせに......現金な奴め。その背に向かって盛大にため息を吐いた。

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