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のんきな兎の帰る家
「これが足りなくなったの?僕、買って来るよ。」
「いいのかい?それはすごく助かるわぁ。」
「いいよ~。僕ここの雑用係って言われているし、ご飯は大事だからね。」
喉が渇いたため、飲み物を貰いに食堂に行くと、付け合わせのキノコが足りなくなったらしい。お水を貰う代わりに、買って来てあげることになった。すぐ近くの店に売っているらしいから、そんなに時間もかからないだろうと思い、外へと出る。言っていた通り、店は近場にあった。目的のきのこを買い、戻ろうと歩いていると話し掛けられた。
「ねぇねぇうさぎちゃん。キノコ好きなの?俺、美味しいキノコ栽培しているんだけど、うち来ない?」
「えぇ、美味しいキノコ?でも、もう買っちゃったし…。じゃあ、帰りに行くよ。」
「本当に?うさぎちゃん、ちょっと慣れてる感じ?いいね、そういう子俺好きだよ。じゃあ仕事終わったらここに来てよ。」
そう猫獣人のお兄さんに言われて僕は頷き、笑顔で別れた。美味しいキノコを持っているだなんて、わざわざ声掛けてくれるなんて良い人だな~。僕がそう思いながら戻ると、そこには仁王立ちしたロイの姿。
「ウルル!どこ行ってたんだお前は!あれほど一人で出るなって言っただろーが!」
「ぴゃっ!だ、だって、キノコないって、困ってたんだもん……。」
うるうるしてくる目で見上げて、両耳を掴みながらロイに言い訳すると、
「隊長さん、隊長さん、私が頼んじゃったのよ、悪かったわねぇ。」
食堂の女将さんがそう言って庇ってくれた。
「……はぁ。どっちにしろ、一人で行くなって言っただろ。誰かに話し掛けられたりしなかっただろうな?」
「あ、さっきね、美味しいキノコあるよって声掛けてくれた人がいたよ。うちにあるんだって。仕事終わったら取りに行く約束したんだよ。だから行ってくるね。」
僕は優しい人に会ったよってことを報告したかっただけなのに、ロイはそれを聞くと青筋を立てて、
「行かせるわけねーだろ!行ったらお前が美味しく頂かれることになるんだぞ、この馬鹿!何が美味しいキノコだ、思いっきり下心満載じゃねーか!」
すごく怒ってきて、身を縮める。
「な、何でそんなこと言うの……。キノコ買ってるの見て、声掛けてくれたんだもん。美味しいキノコくれるんだよ?」
「別のキノコ食わそうとしてるに決まってるだろーが!」
「うぅ、どうして怒るの、怖い。キノコ貰うだけなのに。もうお買い物行かない、お外行かない……。」
シクシク泣き出す僕に、ロイは頭を抱え出した。
「……何で数十メートル外に出るだけで変なやつに絡まれてんだよ。ウルル、そいつは駄目だ。知らんやつに付いて行こうとすんなって言ってんだろ?」
心なしか優しい口調になったロイに、僕は確かに、と思い返す。散々言われた言葉だ。夜出歩かない、路地には入らない、知らない人には付いて行かない、などなど。そうか、初めて会ったあの人は、知らない人だ。だからロイは怒ったのか。僕はなるほど、と納得し、
「ロイ、ごめんなさい。じゃあ自己紹介してから、キノコ貰いに行くね。」
「この馬鹿うさぎ!そういうこっちゃねーんだよ!」
結局、ロイは怒ってしまい、僕は泣きながらお説教を受ける羽目にになった。庇ってくれていた女将さんも、僕たちの会話を聞いて、
「ウルルちゃん、ロイ隊長が正しいわぁ。私たちも目を光らせておくわね。」
そう言い、何故かロイの味方になってしまった。どうして?僕の信用がなくなった気がするのだけれど。
「ほら、来い。もう怒ってねぇから。」
「うぅ、怖い。歩けない、もうここに住む…。」
怒られて心が弱った僕がそう言って座り込んでいると、ロイが仕方ないとばかりに抱え上げてくれる。僕は落ちないようにしがみ付く。そして、またシクシク泣き始める。もうお決まりの行動になりつつあるこれ。
「ソニー、今日は上がりでいいか?」
僕の仕事部屋に行ったらしいロイがそう聞くと、
「いいっすよ!仕分けはほとんど終わりましたし、また明日よろしくっす!」
ソニーさんがそう返して僕に手を振ってくれた。僕が泣きながら手を振り返すと苦笑されてしまったが。兎耳を垂らしたまま、まだシクシク泣いていると、
「ウルル、知らないやつに自己紹介したって、それはただ単に自己紹介し合ったやつってだけだ。声掛けてくるやつは全員敵だと思え。」
そう言われ、僕は考えてみたがよく分からず、とりえず頷いておいた。
「お前、分かってねぇけどとりあえず頷いてるな?」
鋭く指摘されて、思わず身体をビクつかせた僕。お前なぁ、と呆れたように言われた時、言葉が止まった。
「……あいつか。」
突然の低い声に、僕は驚くが、そんなのお構いなしに歩いて行くロイ。そして、
「おい、お前か?こいつに声掛けたのは。」
「えっ、えーっと、そ、そうっす。……うさぎちゃん?え、何、彼氏いるの?ちょ、俺知らなかったんで!すんません!」
しがみ付いていた僕がその人を見れたのは後ろ姿だけだったが、どうやらロイに声を掛けられて驚いて逃げてしまったらしい。
「ロイ、人には優しくしなきゃ駄目なんだよ。」
「誰のせいだ、誰の。」
不機嫌そうに喉を鳴らすロイに、何を怒っているんだろうと首を傾げながら、運ばれていく。そして、今朝ぶりの僕の家。
「送ってくれてありがとう。ロイ、ご飯食べていく?」
「お前のその飯に対する執着は何なんだ?それを自分の危機感に回してくれねぇかな本気で。」
そして、続けて明日は絶対に待っているように言われて、僕はちゃんと返事をしたにも関わらず、ドアにその旨を書いた紙を貼られてしまった。僕ちゃんと返事したのに、どうしてだろう。
そして次の日。
早朝に目を覚ますと、薬草が思っていたより育っているのを見てこれは売りに行かないと、とワクワクしながら摘んでいく。そして、束にして持つと、裏口の方が近いためそこから意気揚々と外へと出た。薬屋さんはいつも朝早くから開いているため、僕が行くと迎え入れてくれた。
「おや、おはよう。ウルル、薬草持って来てくれたのかい?」
「うん!育ってたから持って来たよ。」
鼠獣人のおばあちゃんは、小さいけどその腕は確かで僕の薬草をとても良く評価してくれていた。僕は薬草を渡してその代金を貰うと、お茶を入れてもらい少し世間話をする。そして、そろそろ客が来るだろうということで薬屋を出たのだった。僕はまだ早朝だったため、まだ朝ご飯を食べていないことを思い出し、何か買って帰ろうと店をぶらぶらしていると。
「君、どこかに行かれるのですか?よくあの店に行っていますよね、可愛い人だと思っていたんです。良ければお茶でもどうですか?」
狐獣人が声を掛けてきたが、僕はお茶よりご飯が食べたかったため、
「ごめんなさい。僕、今はお茶の気分じゃないの…。でも、おやつの時間なら行きたいな。」
そう言って断った。すると、
「そうですか、ではその時間に待ち合わせしましょう。これ、お近付きの印に良かったら。これですか?これはパワーストーンです、あなたを守ってくれる物なので、肌身離さず持っていて下さいね。」
にこやかに微笑みながら綺麗な赤い石が埋め込まれたブローチのような物を渡された。
「きれい~。ありがとうございます!」
お礼を言って別れると、僕はさっそくそのブローチを付けた。そして、屋台で葉野菜のサンドイッチを買って帰ったのだった。家に着いた時、ドアの前に誰かが立っていることに気付いて、僕は誰だろうと近付く。すると、
「……ウルル。ずいぶん早いお出掛けだなぁ?」
聞き慣れた低い声が届いて、兎耳をピン!と立たせる僕。
「一体、どこに……!?」
近付いて来たロイが、僕の胸元を見て目を見開いたかと思うと、付けていたブローチを取られてしまった。
「えっ、どうしてそんなことするの、せっかくさっき貰ったのに……。」
あろうことか、ロイはそのまま握り潰して粉々にしてしまい、僕は呆然とそう言った。
「さっきだぁ?お前、これ盗聴器だぞ!何嬉しそうに付けて帰ってきてんだ!貰うなこんなもん!」
またしても怒られが発生。え、盗聴器?本当に?
「界隈じゃ有名な盗聴器だ。最近じゃ、表にも出回るようになったから注意喚起されてただろーが、何で知らねぇんだよ……。」
粉々になった物をまじまじと見る僕に、ロイは額に手を当てて項垂れるとそう言ってきた。
「でもきれいだったから……。」
「そういう問題じゃねぇ!もしこれ付けて、帰って来る時間も把握されたら、待ち伏せされて襲われてたかも知れねぇんだぞ!」
ロイに指摘されて、僕はやっとこれが怖い物だったと分かって震え出した。
「こ、これ、怖い物だ……。お外怖い、石怖い……。」
「だから、お前は、知らないやつから物を貰うなって…。はぁ、もういい。ウルル、お前、荷物纏めろ。」
ロイはそう言って、震えている僕を家の中に放り込むと部屋を漁って比較的大きい鞄を取り出してきた。
「これに必需品を入れろ。服とか、身の周りの物を…。おい、ジョウロを入れようとすんな、必需品って言っただろ!」
必要な物を入れろと言うから、仕事である薬草のためのジョウロを入れたら怒られてしまった。
「でも、薬草には必要だもん。」
「お前の、必要な物を入れろ。……いや、もういい。俺がやる。そこに座ってろ。」
遂にこの家の主の僕の意見は受け付けられなくなってしまった。ロイはぽいぽいと服や下着、毛繕いのためのブラシ、歯ブラシ、タオルや日用品を詰め込むと、その鞄を持って行くぞ、と声を掛けてきた。
「仕事に行くの?僕、サンドイッチ買ってきたの。食べながら行ってもいい?」
朝ご飯を食べていないからお腹空いたんだ、とロイを見上げると、何とも言えない表情で見下ろしてきて、食べてからでいいと言ってくれた。僕はそれならと、ロイの分までお茶を入れて、朝ご飯を平らげたのだった。
「ソニー、こいつ、絶対目を離さないでくれ。帰りも迎えに来る。」
「了解っす!もう食堂にも一人で行かせません!」
ソニーはそう言うロイに綺麗に敬礼して返した。僕、もしかしてすごく子ども扱いされてない……?
そう思いながらも、すぐにソニーに仕事を任されて書類整理に取り掛かる。なにせ書類の量が多すぎて、なかなか終わらないのだ。そうこうしている内に、お昼ご飯を持って来てくれたため食べて、また再開。夕方になった頃に、僕が帰ろうとすると、
「ちょっとちょっと、ウルル君、どこに行くんすか?」
「うん?もう仕事終わったでしょ?帰ろうと思って。今日はね、キャベツのサラダを作ろうと思ってるんだ~。」
「いやいや、ここで隊長を待つって話でしたよね!?」
ソニーにそう言われ、僕はハッとする。そうだ、ロイが迎えに来るって言っていた。危ない危ない。僕はそうだそうだ、と思い出して座り直した。ホッとしたようソニーが息を吐いた時、
「終わったか?ウルル、帰るぞ。」
丁度、ロイが迎えに来てくれた。僕はソニーに手を振ると、ロイに付いて行く。だが、僕の家の方向ではない。
「ロイ、どこに行くの?夕ご飯食べに行くの?僕、もう今日はキャベツのサラダって決めてるの。」
「ウルル、お前の家は今日からここだ。」
聞いた矢先に、そう返してこられて首を傾げる。そこは一軒家で、小さな庭が付いていた。ここが僕のおうち?
「お前の家の物は運んで貰った。夜になると思っていたが、早くしてくれたらしいな。薬草はこっちに置いてくれている。今日から、ここに帰って来い。これが鍵だ。」
ほいほいと説明され、中々頭に入ってこない。つまり、何だろう。ここが今日から僕のおうちらしい。
「僕のおうち?」
「一応、俺の家だ。今日からは、俺たちの家だ。」
つまり、ロイと一緒に暮らすことになったらしい。見てみると、本当に僕の家にあった物はここに全て運び込まれていて、薬草たちもちゃんとみんなある。もともと、あまり物を持っていなかったため、恐らくこれで全てだろう。
「僕たちの家……。すごい、お庭がある。でも、僕キャベツ……。」
「分かった分かった。キャベツな、買って来る……。いや、一緒に行くぞ。一人にしたらまたどこ行くか分かったもんじゃねぇ。」
そう言ったロイと、僕はキャベツを買いに行くのだった。
「美味いか?ウルル、お前肉も食えよ。いくら兎の獣人でも、肉も魚もある程度食わねぇと栄養足らねぇぞ。」
キャベツサラダをもしゃもしゃ食べている僕に、肉団子を差し出される。僕は口を開いてそれを頬張るとちゃんと噛んで飲み込む。
「嫌いなわけじゃないんだよ。ただ、野菜の方が好きなだけで。お肉も、思い出したら食べるよ。」
「見る限り、野菜を買ってる姿しか知らねぇけどな。」
そう言われ、確かに最後に食べたのはいつだったか思い出す。しかし、結局思い出せず。キャベツ美味しいよとロイに笑い掛けた。
風呂に入って、さぁ寝る時間だ、とベッドを探すが見当たらない。あるのは大きいロイのベッドだけ。
「ロイ、ロイ、僕のベッドがないよ。」
「悪い、ベッドは発注したんだが、届くのが1週間掛かるらしくてな。俺のベッドを使え。」
「分かった。大きいもんね、僕が増えても楽々だね。」
「……ん?ウルル、お前、まさか一緒に寝ようとしてんのか?」
ロイが引き攣った顔で僕を見てきて、意味が分からない僕。大きいんだから一緒に寝られると思うよ?
そう言い、ロイを引っ張ってベッドに寝転んでもらう。そして、その横に僕も横になる。
「わぁ、広い。僕がいてもいなくても変わらないねぇ。じゃあおやすみなさい。」
「いやいや、ちょっと待て、これはさすがに駄目だろ。」
勢いよく起き上がったロイに、僕はびっくりして目をパチクリ。
「どうして?一緒に寝ようよ、兄弟とはこうやって引っ付いて寝てたの。一緒に寝よ。
なぜ逃げるんだろうと、不思議に思いながら、ロイの上に乗っかる。
「ちょ、お前、何して……!」
「行っちゃやだ。一緒に寝るの~。」
ギューっと抱き着いていると、ロイが諦めたのか力を抜いて横になった。僕は抱き着いているため、ロイの温かさを感じてウトウト。そしてそのまま、ロイの上で寝てしまったのだった。懸命に無心になろうとしているロイには気付かずに。こうして、僕たちの共同生活が始まったのだった。
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