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のんきな兎は攫われる
「ウルル、起きろ。朝飯だ。」
「……うん?起きる……。ロイ、朝早いね。おはよう。」
ロイに起こされ、目を覚ますと挨拶から始める僕。久しぶりの起きた時の挨拶、何だか嬉しい。
「朝ご飯作ってくれたの?」
「あぁ、キャベツが余ってたから他の野菜と煮込んでスープにした。食え。」
……美味しそう~。温かいスープをよそってもらい、はふはふ言いながら食べて、美味しかったからおかわりもした。のんびり服を着替えて、薬草に水をあげていると、ロイがもう出るぞって。
「いってらっしゃい?」
「何でだよ。お前も行くんだよ。」
一緒に出勤するらしい。僕は特に用意するものもないため、着の身着のままロイについて家を出た。基本的に、書類とかは持ち帰っちゃ駄目なんだって。ご飯も食堂で出してくれるらしい。なんて至れり尽くせりなんだろう。そう思っていたんだけど、
「食堂の飯は給料から引かれるぞ。騎士の中には自分で干し肉とかパンとか持参して昼に食ってるやつもいる。」
出勤途中でそう言われてびっくりした。
「じゃあ、僕も明日からキュウリ持って行くよ。あれは水分も取れるから一石二鳥だもんね。」
節約しなきゃと思ってそう言ったのだが、
「やめろ、お前は食堂の飯を食え。何でキュウリなんだよ。それだけで栄養足りるわけねぇだろ。」
即座に却下されてしまい、ショボンと兎耳を垂らす。
「キュウリ美味しいよ。3食キュウリで過ごしたこともあるよ。あ、おやつにもキュウリ食べたんだった。4食だね。」
「……お前、食に関しては3食絶対食べるくせに、その偏りは何なんだよ。分かった、ウルル。お前の食生活は俺が管理する。食いたいもんは受け付けるが、バランス良くちゃんと食え。」
「ご飯作ってくれるの?僕ね、野菜が好きなの。葉野菜が一番好き。あとねトマトと、ホウレンソウと……。」
「全部野菜じゃねーか。肉と魚も出すからな、食べられないもんはねぇな?」
「うーん、多分何でも食べられると思うよ。」
そう話している内に着いたため、ロイは僕をソニーのところまで送り届けてから行ってしまった。僕はここを騎士の宿舎だと思っていたが、どうやら騎士団長等の役職が使用する部屋がある建物らしい。宿舎と訓練場も併設されているとのこと。僕にはあまり良く分からないが、騎士も色々としなければいけないことが多いらしい。僕は、書類を分けながらソニーに話し掛ける。
「あのね、昨日からロイと一緒に住むことになったんだよ。ご飯作ってくれたの。やっぱり朝はスープに限るね。」
「うぇっ!マジっすか!あー……まぁ、ロイ隊長の気持ちも分かるから、何も言えねぇっす。ウルル君、ぽやぽやしてっからな~。ってか隊長が飯作るんすね、意外っす。」
ソニーは驚いたように声を上げたが、僕を見て何故か納得したように頷いた。もう書類の整理は今日中に終わりそうだ。お互い手を動かしながら話していると、
「おい、ソニー!訓練の時間、変更になったぞ!……っと、誰?あ、隊長の?」
騎士の服に身を包んだ犬獣人が飛び込む様に入ってきた。
「僕?ロイの?うーん、僕はロイの同居人かなぁ。こんにちは。」
ロイの?で止まった質問に、僕は考えてそう答えると、挨拶する。
「え、時間早まったって、動きがあったってことっすか!?じゃあもう出ないといけないじゃないっすか!ウルル君、ごめん、ここに居て下さいっす!」
ソニーは、慌てた様子で僕にそう言うと、犬獣人さんを引っ張って一緒に出て行ってしまった。
「みんな忙しそうだなぁ。……あれ、これ今日の日付だ。締め切りが今日なのかな?……ここにあっていいのかなぁ。」
考えたところで分からない。書かれている書類の内容も良く分からない。ソニーは行ってしまったし、聞ける人もいない。どうしよう…。そうだ、ロイを探しに行こう。そうと決まれば、僕は書類を持って早々に部屋を出た。
「隊長はどこですか?」
廊下で会った、騎士の人に声を掛けた。ロイって言おうと思ったけど、ロイって名前の人が他にもいたらどうしようと考えて、隊長に変えてみた。僕もちゃんと考えられるんだから。
「え?隊長?君、どこから入って来たの?駄目だよ、勝手に入って来たら。あ、もしかして書類を届けに来てくれたの?ありがとう、これは受け取るよ。でもここは関係者以外立ち入り禁止だからね。今回は目を瞑るけど、もう駄目だからね。ほら、こっち、外まで送るよ。」
だが、その人は僕が勝手に入ってきてしまったと勘違いしている様子で。僕が口を挟む間もなく、そう言われると促されて外へと出されてしまった。
……あらら。僕、追い出されちゃった。
着の身着のまま来たおかげで、忘れ物もない僕。良かったのか悪かったのか。確かに、明らかに騎士に見えない僕は怪しいと思う。捕まらなかっただけでも良かったのかなぁ。でも僕、仕事を放ってきちゃった…。どうしよう。僕がウロウロと周辺を彷徨っていると、
「……おい、お前。さっきから何をしているんだ。用がないなら立ち去れ。」
僕を見ていたであろう、騎士の格好をした豹獣人にそう言われ、大きな身体で見下ろされて縮こまる。
「うぅ……、用は、えっと、書類を、えっと……。」
威圧感に、僕は怖がりながらも伝えようとするが、なかなか伝わらない。訝し気に見られて、余計に怖くなり目が潤んでくる。
「……そんなに怯えるな、こんなところでうろついていたら怪しさ満点だぞ。ほら、さっさと離れなさい。」
そんな僕に、少し口調を和らげたその人にそう言われる。僕は、上手く説明出来る気がしなかったためトボトボと離れたのだった。
家に帰るのも、ロイと一緒に帰る予定だったため鍵を持って来ていない。前の僕の家の鍵だって、持っていない。ご飯も食堂で食べるはずだったから、お金も持っていない。ないない尽くしだ。そのため、お昼ご飯が食べられない……。
僕は悲しくなって兎耳を垂らしたまま歩き、ロイの家に戻ろうとしたのだが。
……家までの道、忘れちゃった。
ロイと一緒に帰って、一緒に出勤したせいで、ほとんど道を覚えていなかったことに気付き、僕は途方に暮れる。どうしようもなくなり、ぐすぐす泣きながら邪魔にならないように横道に入ってしゃがみ込んだ。
……帰りたいよぅ。
そのまま膝を抱え込んでいると、
「……へぇ、兎獣人かぁ。こんなところで何してんだぁ?」
「攫って下さいって言ってるようなもんだなこりゃ。」
二人組の、帽子を被った男の人が何かを言いながら僕に近付いて来た。
「うっ、ぐすっ、誰ですか……?」
目を擦りながら聞くが、その二人は質問には返答せず顔を見合わせると、僕を見下ろしてきた。そして、声を上げる間もなく、口と鼻に布を押し当てられると身体を抱え込まれてしまい、僕は訳が分からないまま、強烈な眠気を感じ、意識が遠くなっていったのだった。
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