のんきな兎は今日も外に出る【完】

おはぎ

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番外編 のんきな兎は気付かない



「それでね、コリンがこれくれたの。美味しいんだよ。」

ウルルが嬉しそうにそう言って、綺麗な箱に入ったゼリーを見せてくる。コリンが実家に戻った時に持って帰って来たらしいゼリーは透明な容器に入れられており、それだけでも値が張るものだと分かる。箱に記されている店の名は、貴族が来客用に買ったりする高級品だ。恐らく、そのことを分かっていないウルル。コリンは知っているだろうが、ウルルが気後れしないように言わなかったに違いない。

「ロイどうしたの?ロイも食べよう、美味しいよ。」

ウルルは首を傾げてゼリーを手渡してくる。それに苦笑し、まぁいいかと受け取る。コリンの家は、まさかこれがウルルに渡っているとは思ってねぇだろうな。もしウルルに渡ると知っていれば、もっと値の張るものを用意していたはずだ。それか、コリンがウルルの好きそうなものはこれだろうと判断して選んだか。

コリンは、ウルルに危害を加えたことがある。そのことに関して俺が許すことはねぇが、当の本人であるウルルは全く気にしていないどころか、コリンを後輩として扱って世話を焼く始末。

小さく華奢な方だったコリンも身体が大きくなって筋肉もつき、ウルルを守る側に立つようになった。だが、そんな成長したコリンに対してもウルルにとっては可愛い後輩のままらしい。コリンを見掛けるとすぐに声を掛けて世話を焼きたがるのだ。コリンは苦笑しつつも嬉しそうで、ウルルに付き合ってやっていると聞く。

「明日、コリンと美味しいお菓子を売ってるお店に行ってくるね。」

ゼリーを口に運びながら、ウルルがそんなことを言い出した。

「あぁ?コリンと二人でか?」

こいつは、他のやつと二人になるなと何回言えば分かるんだ?と思いながら眉間に皺が寄る。

「はっ!そうだ、ロイに相談してからって言われてたんだった。……ぴゃっ!怒ってる!」

思い出したようにそう言ったウルルは、俺の顔を見て飛び跳ねた。そのウルルの頬を引っ張りみょーんと伸ばす。

「お前は、本当に、学習しねぇなこの馬鹿うさぎ!」

「うぅ~、ひはい、はへへほ~……。」

涙目になるウルルが兎耳を垂らして何か言うが、聞き取れなくて笑ってしまった。

「コリンも明日休みで、街にあんまり行ったことないって言ってたから、案内してあげるの。」

「二人でか?」

「コリンはロイに聞いて許可出ればいいよって。騎士寮の近くにカフェが出来たんだよ。そこに行きたいって。」

頬から手を離してウルルの話を聞けば、困惑しながらもウルルを止められず妥協案を出した様子が想像できた。騎士寮の近くのカフェなら俺が帰りに寄れることを見越しているからだろう。

「仕方ねぇ。分かった、行って来い。」

あのことを許しはしねぇが、今のコリンなら信用は出来るし、ウルルを大切に思っていることは見ていて分かるからだ。それに、断れなかったのはウルルが嬉しそうだったからだろうしな。

俺が溜め息をついてそう言うと、ウルルはパッと顔を上げて笑顔になると飛び付いてきた。

「お土産買ってくるね、あとね、スコーンが美味しいって言ってて、蜜をかけると美味しいんだって。あと、あと……。」

受け止めたウルルが俺の腕の中で嬉しそうに話し出して、目を細めて眺める。兎耳がピンと立っているため、それをキュッと一纏めに握ってみる。すると、ウルルはキョトンとして見上げてきたが、何も言わない俺を見てまた話し始めたため苦笑する。

獣人は基本的に獣耳を他者に触れられることが嫌いだ。撫でられたり毛繕いされるのを好むやつはいつが、掴まれたりすることに対し嫌悪感を示すことが多い。ウルルは今も俺に大事な兎耳を掴まれているのに気にもならないらしい。

「ロイ、どうして笑ってるの?」

不思議そうなウルルが聞いてきて、俺は手を離す。そして、ウルルの後頭部に手を回して引き寄せ唇を合わせた。

「んぅ……。ロイ、もっと……。」

そう言うウルルに笑みが浮かび、抱え上げて寝室へと向かったのだった。


―――


「隊長、今日ウルル、コリンと出掛けるって言ってましたけど、許可したんすか?」

翌日の仕事中、廊下を歩いていると聞かれ、俺は片眉を上げる。

「あぁ、街案内して、そこのカフェに行くんだとよ。」

「そうなんすね。ウルルが明日はコリンとお出掛けするんだって、会うやつ会うやつに言ってたんすよ。」

そう言われ、ぴょんぴょんと嬉しそうに言って回る姿を想像し苦笑する。

「帰りに回収してくる。」

さっさと仕事終わらすか、と手を上げて別れ、団長部屋へと向かった。

そして、日が暮れる前に仕事を終わらせ、言っていたカフェへと向かう。あれか?とそれらしき建物に入っていくと、すぐに見つけることが出来た。だが……。

「ちょ、ウルル、いいから、もうその話は……!」

「どうして?コリンすごかったんだよ、ひょいって僕のこと担いだの。走って医務室まで運んでくれたんだよ!」

「そうなんですね。力持ちで優しいのですねコリンさんは。」

顔を真っ赤にしたコリンがウルルを止めようとしながらも、分かっていないウルルがあれもこれもとコリンの話をし続け、店にいる客も店員も聞いては拍手をするという異様な空気になっていた。

コリンは真っ赤な顔を隠すように机に突っ伏しており、ウルルはそんなコリンの良いところを話し続けている。

「ウルル。」

「あっ、ロイ!」

声を掛けると嬉しそうにそう言って飛び付いて来るウルル。コリンは、俺の声が聞こえたのだろう、バッと立ち上がると赤い顔のまま直立した。

「帰るぞ。コリン、世話掛けたな。」

「っ、いえ!」

コリンの返事を聞いて、ウルルを抱き上げる。だが、

「えっ、コリンを送っていかないと駄目なんだよ。誘拐されちゃったら危ないでしょ?」

と、降りる~と兎耳をぺちぺち当ててくる。

「い、いや、ウルル、僕大丈夫だから、これでも結構強くなったと思っ……。」

「コリンは美人さんでしょ?もう暗くなるからね、ちゃんと送って行くからね。」

ウルルは最早コリンの言葉を聞いておらず、笑顔でそう言い放ち、コリンを呆然とさせた。俺は苦笑しつつも、まぁウルルがそうしたいならと、降ろして好きなようにさせてやる。店主や店にいた客たちは微笑んで手を振り、元気よく振り返したウルルは、コリンの手を引いて外へ。コリンは俺をチラチラと見ながら、困惑した表情でウルルに手を引かれている。

ここから騎士寮は近いため、特に送るという距離でもないのだが、ウルルはそこまでコリンを送って行くようだ。

「う、ウルル、もうそこだから、ここでいいよ。」

「もうそこだから、送っていくね!」

ウルルは嬉しそうにそう返すが、コリンの言葉を聞いているようで聞いてねぇな、あれ。コリンからしたら、俺が店まで迎えに来ることは想定内で、そこで別れる予定だったのだろう。それが、謎のウルルのコリンを送らないといけないミッションが発生してしまったため、どうしたらいいのか分からなくなっているのだろう。

そして、コリンの気遣いも虚しく、寮に着いた。

「じゃあね、気を付けて帰……。うん?……帰るのは僕だった。えっとね、気を付けて寝るんだよ!」

ウルルは首を傾げて唸った後に言いなおしてコリンに手を振った。何かしら言いたいのだろうということは伝わったが、寝る時に何を気を付けるんだ。寝込みを襲われる騎士寮なんぞ問題ありまくりだろーが、と言いたいのを堪えて、満足気なウルルを回収し、今度こそ帰路についた。

「コリンはね、食べ方が綺麗でね、スープを飲む時だって……。」

止まらないウルルのコリンの話。家に着いてからも、俺の周りをちょろちょろと纏わりつきながら、今日のことを報告してくるウルル。俺は相槌を打ちながら、ウルルを促して夕食や風呂を済ませていく。そして、まだ話し続けるウルルを早急に寝室に放り込んだ。

「それでね、あと……んぅ……。」

押し倒して上に乗っかり、今だ言葉を発し続ける口を塞ぐ。首に回して腕に、フッと笑いながら、口付けを深くしていきウルルの身体に触れていく。潤んだ目で見上げられ、もっと、と強請る可愛い俺の兎を満足させてやるために、再びその口を塞ぐのだった。


――――


「それでね、コリンの話をずっとしてたの。でも途中から何を言っていたのか分からなくなっちゃった。」

「……ウルル、それ多分、隊長は良い気分じゃなかったと思うぞ?他の男のことばっかり聞かされるって。」

ロドニーに、コリンとのお出掛けはどうだったと聞かれて話していると、そう言われて首を傾げる。

「でもコリンだよ?」

「いや、コリンも男だから。っていうか、途中で訳分からなくなったって、絶対それ以上何も言わせないようにされてんだろ。」

ロドニーは、ずっとコリンの話をされながらもウルルが楽しそうにしていたためにそれを咎めるのは違うなとでも考えたんだんろうなと苦笑する。それでも自分の番が他のやつのことをずっと嬉しそうに話しているのはやはり我慢できなくて自分で満たしたんだろう。それでもそれをぶつけずに、ウルルを大切にしている様子に、ロドニーは改めてロイ隊長ってすげぇな……と感心するのだった。

だが、そんなことを知らない兎は、そんなロドニーを不思議そうにみながら、それでね、と再び嬉しそうに話し始めるのだった。




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