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これが王都の社交辞令
「「おはようございます。」」
聞こえた声に寝ぼけ眼で身体を起こすと、あれよあれよと寝衣を剥かれそうになり、慌てて死守する。
「ちょ、いいって!もう、本当に俺のことは放っておいてくれていいから!」
毎朝のことではあるのだが、ここの使用人たちはどうしても仕事がしたいらしく。
「では、朝食をお持ちしますわ。」
「では、御髪を整えますわ。」
「いや、だから…。うん、まぁ、それぐらいなら、お願いします…。」
まだ年若いメイドたちは、そう言いながら俺の世話をやいてくる。起きたてで押し問答するのもなぁ、と結局俺が折れるのだ。
「それにしても、綺麗な髪ですわ。真っ黒で艶があって、硬そうなのに触ると柔らかくて。」
毎回のように褒めてもらうが、何の変哲もない髪だ。褒められるのがくすぐったくて、いつもそわそわしてしまう。
整えてもらった後、朝食が運ばれてきて全て平らげる。そして、いつものように食堂に向かったのだった。だいたい、俺の今の日常はそんな感じだ。
騎士であるクラウドは、本当なら寮での生活になるのだが、魔力が暴走する危険性があるため特例で公爵家で暮らしているらしい。それほどまでに、クラウドが有する魔力は膨大で、大人になった今でも制御することが難しいとのこと。
基本的に、魔力の暴走は魔力を有する子どもが起こすことが多い。特に、成長期に。増えた魔力が身体と精神に追い付かず、溢れ出てしまうために起こる。だいたいは、成長していく上で自然と身体に馴染み収まるものなのだが、クラウドの場合は魔力が今だに増え続けており、発散させないと街が火の海になるという。
戦闘や魔物退治などで発散していたらしいが、それでも足りず。だからといって、その辺で魔法を使おうものなら周りに被害が出る。魔物を狩るにしても、狩り過ぎると生態系を崩す恐れがある。魔力を抑えるアイテムを使用したり、魔石に溜めたりと方法はあるにはあるが、どれも微々たるもので効果は今一つだったという。
その点、俺は魔法が一切効かないし、無効化してしまうため周りに被害が出ることもない。これが跳ね返したり、ただ単に効かないってだけだったら、魔法を放たれた時点で周りの建物は消し飛んでいただろうと公爵様に笑って言われた時は肝が冷えた。
自分の特性も何となくでしか分かっていなかったが、実際、魔法をぶつけられても何ともないし、周りも異常なし。ならもう難しいことは考えず、バンバン魔法をぶつけてくれればいいと開き直った。
だが、クラウドは俺に魔法をぶつけるのがお気に召さない様子。いつも不機嫌そうだ。まぁいいけど。俺は俺の役目を果たしてるし、毎月お金は家族のもとへ届けられているから何も文句はない。
クラウドも、別に嫌なやつではないことも知っている。毎回、魔法をぶつけてきては何だかんだ心配してくれている様子だし。
そして、俺はいつものように働き終えて、帰路についた時。今日は混んでて少し遅くなってしまい、もうすでに外は暗い。一応、公爵家でお世話になっているため認識阻害の帽子で通勤しているのだが、いつものところで被ろうとした時、ドンッと誰かとぶつかる。
「ってぇ、悪い、見てなかった、大丈…。」
「リラ!今日は遅かったね、心配だから待ってたんだよ。さ、送るよ。あぁ、でもお腹空いてるよね?じゃあご飯に行こうか。良い店があるんだ。雰囲気が良い店でね。」
俺が何かを言うよりも早く矢継ぎ早にそう言われ、きょとんとする。
「オールド?どうしたんだ、こんなとこで。」
「どうって、暗い中帰るリラが心配で待ってたんだよ!」
果物の屋台をしているこの男とは顔馴染みで、店に行くとおまけしてくれるためよく買うのだ。その時に話すこともあるが、わざわざ俺を心配して?
「え、わざわざ待ってたのか?すげぇな、いつから待ってたんだよ?それだったら店に来てくれれば良かったのに。」
「えっ、いや、いつも、待ってるんだけど、見失うことが多くて。」
「あぁ~悪い悪い。ちょっと色々あんだよ俺にも。飯?言ってくれたらまかない遠慮したのに~。もっと早く言えよ、今日はもう腹いっぱいだしなぁ。今度行こうぜ!」
「う、うん、え、いや、いいの…?」
俺はまだ王都に来て食べに行ったのは今働いている食堂だけで、色々目移りしてしまって中々行けていないのだ。誘ってくれるなら、ぜひ色々案内して欲しい。だから喜々としてそう言ったのだが、さっきまでの勢いはどこへやら、もじもじし始めたオールドに俺は首を傾げる。
「何だよ、オールドが言ったんだろ。冗談だったのかよ。」
口を尖らす俺に、オールドは慌てた様子でそんな訳ない!と叫んだ。
「じゃあ、また誘ってくれよ!俺、家向こうだから行くわ。オールドは逆方向だろ?気を付けて帰れよ!」
俺は笑ってそう言うと、オールドの背を押してスルッと曲がり角で姿を消し、帽子を被った。
…危ない危ない。
さすがに友人といえど、公爵家から通っているとばれる訳にはいかない。でも楽しみが出来た。美味しい飯屋に連れて行ってくれるらしいし。やっぱり、俺があっちこっち行くより、王都を知っている人に案内してもらうのが一番だよな。
俺はわくわくと楽しみにしながら帰宅。
「それはストーカーですリラ様。」
「私たちで始末しましょうか?」
…えっ。
俺は嬉しくて、入浴後に俺の髪やら肌やらを整えに来たメイドさんたちに話すと、真剣な顔でそう言われた。
「いやいや、そんな訳ないじゃん。飯に誘うためにずっと待っててくれたやつだぜ?」
「まず、待ち伏せするような男はいけません。」
「まず、誘ってから待ち合わせするのが一般的です。」
…めっちゃ否定してくるんだけど。
「リラ様、以前もそのようなことがありましたね?」
「リラ様、遊びに誘われたとナイトバーに連れて行かれそうになってましたよね?」
「え、あれは今王都で流行ってる面白いカードゲームがあるって…。」
以前、確かに夜の酒場と言われる所に行こうと誘われたことはあるが。それもただの友人だ。
「リラ様、その男は駄目です。」
「えぇ、リラ様。公爵様に迷惑が掛かりますよ。」
「公爵様を出すのはずりぃじゃん!ただの友達なのに!」
俺は何とか二人を説得しようと、オールドの良いところを説明するも頑として頷くことなく。有無を言わさず微笑まれて、寝かしつけられてしまうのだった。
―――
結局、オールドもただその場での勢いだけだったらしく、それから誘ってくることもなく。俺から話そうとしても、どこか余所余所しい感じがして、それ以上踏み込めず。
…あ~あ。まぁ期待してねぇけどさあ、誘ってくれたんだったら一回ぐらい連れてってくれても良くねぇ?
実を言うと、これまでも何回か誘ってくれた人はいたのだが。店に食べに来てくれて仲良くなった人や、街をぶらついて声を掛けられて仲良くなった人、買い物の時によく話す人など、結構色んな人が誘ってくれるのに、いざ行こう!ってなったら皆余所余所しくなってしまう。
「これが王都の付き合いってやつなのか…。」
所謂、社交辞令というやつか。でもそれにしては皆、行くまで乗り気だったくせによ~。まぁいいけど。
「あれ。今日非番?俺ちょっと出掛けて来るわ!」
今日は休日で、寂しく一人で街に繰り出そうと思って部屋を出た時、同じく部屋から出て来たクラウドと鉢合わせる。よく会うなぁ。
「待て、誰とだ。」
「え、一人だけど。何、休みに一人で可哀そうって?仕方ねぇじゃん、誘ってくれたと思ったのに余所余所しくなって結局誰も一緒に行ってくれねぇんだもん。」
「…お前、はぁ。ちょっと待ってろ。」
口を尖らせてそう言った俺に、クラウドはため息をついたかと思うとそう言って自分の部屋へと戻って行った。数分で出て来たクラウドは、
「行くぞ。」
俺を横目で見てそう言うと、すたすたと歩いて行ってしまった。
「えっ、付き合ってくれんの!?やった!」
思わぬ付添人ができた俺は、はしゃぎながらクラウドの横まで走って行った。
「あら。結局クラウド様が一緒に行ったのね。」
「あら。リラ様の部屋を気にしている様子だったものね。」
後ろでこっそり見ていたメイドたちが微笑みながらそう囁き合っていた。
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