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揶揄いと怒りと牽制と
「あいつの家に連れ込まれて、どうなるか分からねぇのか?」
「いや、さすがにまずいかもなとは思ったけど…。」
「俺らが行かなかったら、お前は家に入ってたんだな?」
…何でこんなに詰められてんの俺。あれ、俺、怒っていいところだったよな?
詰めて来られて、思わず後退る。
「そもそも!クラウドが教えてくれてたら良かったんじゃん!」
「あいつに近付くなって言っただろーが!」
「それだけで分かる訳ねーだろ!」
「狙われてんの丸わかりだっただろ、何されるかぐらい予想できただろーが。」
呆れたように言われるが、狙われるとは何だ?だがしかし、聞いたら余計に怒られそうな気配を察知。視線を逸らしながら、思考をフル回転させてみる。
「わ、分かってたけど、けど、あれだ。あれだから。だから、えーっと、仕方ないっていうか…。」
でも結局、どう返すのが正解なのか分からず、どんどん語尾が萎んでいく。
「…お前、馬鹿にも程がある。」
何故か、そんな俺を見て、顔を手で覆って項垂れたクラウド。あぁ、これ俺が分かってないのばれてるわ。
「…なぁ。狙われるって、何?…命を?」
だから、これ幸いと、ちょっと勢いがなくなったクラウドにそーっと聞いてみる。命が狙われてたんなら、それはちょっと怖すぎるんだけど。俺、あのまま家に入ってたらそのまま殺されてた可能性ある?だったら余計にちゃんと俺に説明しておくべきでは?
そう思いながら、クライドの返答を待っていると。
「…こういうことだよ。」
苛ついたような声でそう言い、顔を上げたクラウドに腕を掴まれると強い力で引っ張られ、そのまま後頭部に大きな手が差し込まれる。
「……ん!?…んぅ……はっ…ぁ…!」
そして、目の前にドアップのクラウドの顔。
至近距離で睨み付けられながら、合わされた唇をこじ開けられ、噛み付くようなキスを贈られる。逃げようにも、頭をがっちり固定されているため、全く動けず。好き勝手に口内を舐め回されると、ようやく唇を離された。
「はぁっ、はぁっ…!」
頭がボーっとしている中で、息を整えていると、クラウドがチュッと音を立てて再度唇を合わせてきた。
「分かったか。野郎どもはお前にこういうことをしたくてちょっかい掛けてんだよ。」
不敵に笑ったクラウドは、そう言うとまだ思考が追い付いていない俺を担ぎ上げて、俺の部屋へズカズカ入ると、ベッドへと放り投げた。
「ちょっとは反省しろこの馬鹿。」
呆然とする俺を置いて、クラウドは出て行ってしまった。
…え、何が起きた?
俺は、先ほど起こった事を反芻し、唇を指で触る。気が付いたらクラウドの顔が近くて、唇が合わさってて…。く、口の中に、クラウドの…!
感触を思い出して、俺はボンッと一気に顔が熱くなった。そして、ベッドの上で枕を抱き締め転がりのたうち回った。
な、な、何してくれてんだあいつ…!?
顔が熱くて火が出そうな俺は、クラウドが言った言葉は頭に全く入らず。されたキスを思い返してはじっとしていられずのたうち回り。結局、その日に寝付けたのは深夜に入ってからだった。
―――
「リラ様、挙動不審ですわ。」
「リラ様、落ち着きがないですわ。」
朝、いつものメイドたちに起きて早々そう言われてしまった。
「え、いや、そんなことは…。」
ただ、起きてそんなことを言われたから、昨日のことをまた思い出してしまい。カーッと顔が熱くなる。
「あらリラ様。熱ですか?恋ですか?恋煩いですか?」
「あらリラ様。片想いですか?両想いですか?両片想いですか?」
…何でそんなに生き生きとしてるんだよ。そんで、恋じゃねぇ!
二人揃って、交互にあれやこれやと聞いてくるため、俺は余計に昨日のことを思い出してしまい、真っ赤な顔を晒しながら部屋から追い出したのだった。
…会わねぇよな?
いつも家を出る時には会わないため、恐らく出勤時間がお互い違うのだろうと思っていたのだが、今日に限ってはそれが有難い。
会わないと分かっていても、今は顔を合わせたくないため、部屋から出る姿が挙動不審になっているだろう俺。
そろりそろりと歩き、帽子を被って外へと繋がる扉を開けた。
「…はぁ、良かった。」
「何がだ。」
「ぎゃああああ!」
ホッと息をついた途端に、聞こえた声に思わず叫び声を上げて飛び上がった。
「うるせぇ。」
「なっ、なっ、えっ、何!?」
驚きすぎて心臓がドキドキと脈打ち、胸部分の服を掴みながら後ろへと後退る。
「いや?お前の反応を見てから行くかなと思っただけだ。」
毛が逆立つ猫のような反応をする俺を見て、意地悪く笑ったクラウドは、そのまま何をする訳でもなく行ってしまった。
そんなクラウドの後ろ姿を見て、俺は呆然と立ち竦す。
…は?
そして、揶揄われたのだと理解した時。
「なんっだあいつ!くそ野郎!」
うがーっ!と怒りを爆発させた。
もう昨日のことなど頭にはなく、俺を馬鹿にしたようなクラウドの顔が浮かんでは怒りが沸き上がり、ドシドシと足音荒く食堂に向かったのだった。
「お?どうしたリラ。ご機嫌斜めじゃねーか。」
常連のおっちゃんにそう言われ、ムスッとしていたらしいと気付いて慌てて笑顔を作る。
「何でもねーよ、ちょっとボーっとしてただけだ。悪いな、注文か?」
「あぁ、このランボウ煮定食をくれ。」
「あいよー!」
元気良く注文を承り、キッチンへとオーダーを通す。今日も今日とて昼時は大忙しだ。そんな中、またしても客が入って来た音に顔を向ける。
「いらっしゃ…!?…何しに来やがった!」
「おい、客に向かってなんて態度だ。」
入って来たやつは、俺の反応に口角を上げて揶揄うような目で見てきた。そして、俺が案内する前にカウンターに座りやがった。
「おい、何だよ何しに来たんだよ!」
「飯食いに来たに決まってんだろ。おら、メニュー出せ。」
「お前に出す飯なんざねぇわ!」
「こら!リラ!お客さんに向かって何言ってんだい!」
言い合っていると、女将さんに怒られてしまった。俺は、でも、だって、と子どもみたいな言い訳をすると、
「お客さんだよ!なら飯を出して美味しく食べてもらうのが私らの仕事だよ!」
一喝され、その通りなのでそれ以上何も言い返せず。泣く泣く、メニューをクラウドの馬鹿野郎に手渡した。…嘘だ。カウンターに投げ捨てて女将さんにまた怒られた。
そんな俺を見て、目元を片手で覆って下を向き、笑いを堪えている様子のクラウドに、悔しくてギリギリと歯を食いしばる俺。
「ご注文は!?」
「おすすめは?」
「…このフライゴン定食。」
「じゃあ日替わりで。」
「何で聞いたんだ!おすすめ頼めよ!」
俺が言い返すと、クックと喉で笑うクラウドに、絶対揶揄われてると憮然とした態度になり、荒々しくオーダーを通す。
「…リラちゃんがあんな感情的に言い合ってるのは珍しいな。」
「ありゃあ、隊長さんじゃねーの?リラ坊、いつの間にあんなんと知り合ったんだ。」
「おうおう、若いねぇ。あれは良い仲と見たね。」
常連のおっさん連中がそれぞれ、リラとクラウドを見ながら面白そうに話す中。クラウドが回りを視線だけで見回し、目が合った時にさっと逸らす野郎たちを見咎める。
…本当に、良くもまぁこれだけ引っかけられるもんだな。
トームのことがあったため、さすがにこれ以上事件に巻き込まれても面倒だと来てみればこれだ。溜め息を吐いたクラウドは、そんなことなど知り得ないだろうリラを、もうちょっとぐらい揶揄っても罰は当たらねぇなと不敵に笑うのだった。
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