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つまり俺には使えないということ
「魔術?魔力?」
「魔術だ。お前が前にくそ野郎から貰ったブレスレットも魔術が使われていただろ。」
…くそ野郎って。
俺はクラウドの部屋のソファでだらしなく寝転びながら、クッションを抱えて手触りを楽しんでいた。もう以前の一件から、クラウドに遠慮することは止めた。そんな俺に対してクラウドも何も言わないから、好きにしている。
「俺、それも無効化するって?」
「あぁ。魔力が主となるものなら、ほとんど無効化にできるんだろう。」
魔術に関してはあまり分からない。そもそも、魔力はほとんどの人が持つものだが、それで魔法を使えるかというとそうではない。
ただ、生活を送る上での便利な物は魔力を媒介に動かしたりできる物が多いのだ。ちなみに、魔力を一切持たない俺はそういう道具は全く使えないため、そういう物に詳しくない。
魔術とは魔力を使用した魔法陣、という認識。それだけしかない。魔術と魔力は別物だと聞いたことはあるが。
でも、トームの貰ったブレスレットは魔術が使われていたようで、何と、魅了の効果がある魔術だったらしい。術者登録すると、その者を好きになる、という一見単純なものだが、人の感覚や思考を支配し操るものでもあるため、使い方次第では恐ろしいものになる。だから、禁忌として取り締まられているのだ。
そう言われて、改めてやばい物を身に付けていたのだと知った俺は、ゾッとした。クラウドがあんなに怒ってた意味もようやく分かった。恐らく、俺に何も言わなかったのは、俺が本当に魅了されていないか確信がなかったからだろう。分かり辛いし、全部説明しろよとは思うが、クラウドが俺のことを心配してくれたことは理解した。
そして、さすがにこれに関しては俺の考えが甘かったとクラウドに謝ったのだった。
確かに、これで家に行こうとしてたとか、俺でも怒るわ。
でもクラウドも俺のこと揶揄ったんだし、おあいこだ。もうしないことを約束させたら、「誰が好き好んでお前にキスすんだよ。」と馬鹿にしたように言ってきて喧嘩勃発。
まぁ、そんなこともあり、俺はもう気を遣うのは止めたのだ。
「え、じゃあ俺って魔術も使えねぇの…?」
「そうなるな。」
当たり前だろと返ってくる。
魔術っていうのは、もうすでに魔力が流れてるらしいと聞いたことがある。つまり他の人の魔力を使うわけだから、俺でも使えるんじゃないかと思っていたのに。それすらも無効化してしまうのなら、もう何もできないじゃねぇか。
「えー…。じゃあ言ってたシュラットっていうゲームできねぇじゃん…。」
仲良くなったお客さんに誘われて、どういうものか聞くと魔術が組み込まれた駒とカードを用いた遊びだと言っていた。魔術が使われているなら、魔力が必要で、俺にはそれがないからゲームすらできない。
「お前それどういうゲームか知ってんのか。」
「王都で流行ってるんだろ?」
怪訝な顔で聞かれて、そう返した。
「…流行ってるといえば流行ってるけどな。はぁ、まぁいい。お前はどうせ出来ねぇだろうからやめとけ。」
何か含みを持たせた言い方なのは気になったが、教える気はないんだろうと追及はせず。
クラウドはラフな服に着替えると、俺が寝転んでいるソファにドカッと座ってきて、慌てて足を引っ込める。
「危ねぇだろ!」
「小せぇから見えなかった。おら、どけ。」
足蹴にされて、渋々起き上がる。そして、そのままふわーっと風に吹かれる。最近は、何を言われずとも魔法を使われえることが増えた。
「まだ魔力増えてんの?」
「最近はそれほどでもない。定期的に放出できてるからな。」
俺には全く分からないが、俺と二人でいる時は常に魔力を放出しているらしく。大きい魔法をドカンと使うより気持ち的にも楽とのこと。魔力を常に放出するという芸当も有り余っているからこそできるらしい。一般的な魔力を持つ人がそんなことをすればすぐに枯渇して生命の危機になるまでなるそう。
「何かずっと温風を当てられてる感じ~。」
くすぐったいような、気持ち良いような感覚に笑ってしまう。
「…本当に、変なやつだな。」
呆れたように言われるが、そう感じてしまうのは仕方ないだろ。
「…眠たくなってきた。」
温かいし、ソファはふかふかだし、だんだんと眠りに誘われる俺。ウトウトしながら、何とか伝えるも、もうすでに意識は向こうの方へと旅立っていた。
「は?おい、待て。寝るなら自分の部屋に…。おい、嘘だろこいつ…。」
すぴーっとすでに夢の世界に行ってしまっている俺に額に手を当てて項垂れるクラウドのことは知る由もなかった。
「危機感なさすぎるだろ。」
リラの頬を指先でつつきながら苦笑する。
初めて会った時、道を聞くために俺の腕を掴んできたこいつ。あの時は魔力が体外に漏れてしまっており、下手すると火傷させてしまう恐れがあった。だから急いで街外に出てそこらの魔物相手に魔法をぶっ放してこようとしていた時だったのだ。
それを物ともせず近付いて触れてきたこいつに驚愕したのを覚えている。ただ単に運が良かったのかと思っていたが、まさか親父が連れてきたやつだったとは。
――鬼族。
聞いたことはあるが、まるきり人と変わらないこいつの姿形と気性。魔力を持たない代わりに、魔力からの供給も受け付けない。髪の毛を搔き分けてみるも、角だってない。
「ん~。」と寝ながら手に擦り寄ってくるリラに口角が上がる。
会った当初は体調不良がずっと続いていたせいもあり、気に掛ける余裕もなく。しばらくは魔法を無効化できると知っても、悪人でもないリラにぶつけるのは抵抗しかなかったため、最小限にしていれば魔力は溜まる一方で。精神よりも体の方が正直で、無意識的にこいつを求めて行動範囲内に足が向かっていた。会ってしまった時は自分の行動すら制御できなくなっていることを実感して思わず舌打ちが出たものだ。
…まぁ、そんなこと考えている方が馬鹿らしいと気付いたからな。
本当に魔法をぶつけても何ともないらしく。むしろこんなんでいいのか、という態度で。退屈で働くと聞いた時も驚いたが、楽しく働いているようで安心する。
…邪魔な虫は引っ付けてくるがな。
裏表がなく、誰に対しても態度が変わらないリラは、すぐに人の懐に入り込む。そのせいで、色んな野郎たちから誘われてんのに、まるで気付きもしねぇ。そもそもリラは恋愛に対しあまり関心がない。恐らく、魔力を持たないことも関係している。魔力は欲求とも直結しており、食欲や睡眠、快楽、性欲など、魔力の性質によって強くなったりもする。
リラは欲自体がそんなにない。楽しいことは好きらしいが、ただ今は初めて来た王都に興味があるだけだ。だから、流行ってるだの、みんなやってるだの、そういうことを言われたら疑いもせずにそうなんだと興味津々について行こうとしやがる。
もう面倒臭くなって直接リラの職場に行き、仲をほのめかしてやるとちょっかいを出してくるやつは減ったが。だが、こうしてまだ声が掛かるらしい。
…契約上、リラを守る立場になるからと、あっちこっち行くリラをちゃんと保護しろと親父にせっつかれるのだ。リラとて、もう成人している男だ。別に契約に反していないなら、好きに遊べばいいと思い放っておけば、直々に呼び出されて圧を掛けられる。そこまでする理由は何だ?リラのことを親父から詳しく聞こうにも、のらりくらりと濁されて逃げられる。
リラ自身も、鬼族のことも魔力を無効化することもよく分かっていないらしいから、聞いたところで俺も知っていることの範囲を出ない。
腹を探ろうとしなくていいから付き合いやすいのだが、如何せんふらふらするこいつを繋ぎとめておくためにいらん苦労を背負わされている感がある。
「お前のことだぞ。」
気持ち良さそうに眠っているリラの両頬を片手で摘まむと、険しくなった顔で唸り出すこいつに思わず笑ってしまうのだった。
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