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「リラ、行くぞ。」
「おん?」
何故かある日、俺を迎えに来たと言わんばかりの言葉を吐きながらクラウドが食堂に入って来た。
「いやいや、いきなりだなおい。まだ仕事中なんだけど。」
「リラ、今日はもういいぞ、上がれ。」
…えぇ~。みんなのクラウドに対する信頼は何なんだよ?
騎士二人が来てからというもの、何かにつけては皆クラウドのことを持ち出すのだ。客と話してただけで、「隊長さんに怒られるぞ。」「リラちゃんには隊長さんがいるからな。」「隊長さんと仲良くな。」などなど、なぜかわざわざクラウドのことを言ってくるのだ。
まぁ、クラウドがここで割と有名なのは俺でも分かるんだけど。そもそも有名じゃないわけないんだよな。公爵家の生まれで騎士団の隊長も任されてるし、それに何よりこの顔と身体。それに、俺が来るまでは魔力暴走の危険性があったが、今は落ち着いてるし。魔力量の多さと魔法の行使する能力はこの国でもトップクラスらしいとも聞いた。
「恵まれてんなぁ。」
しみじみと思いながら呟くと、
「おら、早くしろ。」
急かされ、仕方ねぇなと仕事を切り上げて一緒に出るが、何故か家とは別の方向に向かって行く。
「なぁ、どこ行くんだよ。飯か?」
「魔術師団長に呼ばれた。行くぞ。」
…おーいおいおい、クラウドさんよ。
「それって、あの魔石関連だろ!何しれっと連れて行こうとしてんだよ、俺の選択権は!?」
つまり、今から王宮に行くってことだろ!?俺、仕事終わりなんだけど!せめて湯浴みして着替えたいんですけど!というか、そもそも俺に選択権を与えてくれるって話じゃなかったか?すでに決定事項にされてるんだが?
「俺が一緒にいるんだからいいだろ。」
そう言い切られて、反論するもどこ吹く風のクラウドに引き摺られながら、王宮へと行く羽目になったのだった。
「ご足労どうも。リラ君、お久しぶりですね。クラウドが全然連れて来てくれないので、私から行こうかと思いましたよ。」
にこやかにそう言う魔術師団長のケール様。俺はクラウドの後ろから頭を下げた。
「理由を言えっていつも言ってんだろ。ただ連れて来いで納得できるか。」
「年寄りをもう少し労わって欲しいものですなぁ。優しくして下され。」
「こいつは狸親父だからな、隙を見せるなよ。」
クラウドが振り向いて俺にそう言ってくるが、頷くこともできないんだけど。何か会話が噛み合ってるのかいないのか分からないが、恐らく二人は旧知の仲なんだろうなとは察した。
「あの、俺が呼ばれたのは…。」
「あぁ、そうだったね。こっちだよ。」
ケール様はそう言うと踵を返して歩いて行く。クラウドもその後に続くため、俺も後ろを追った。
「うわ、これ、あの魔石?」
ついて行った先には、透明の大きなケースに入れられたダークレイクの魔石があった。相変わらず、中ではもやもやしたものが渦巻いている。
「そうだよ。魔力は出ていないけどね。万が一のために魔力遮断ケースには入れているけれど。」
「えっ、そういうのがあんのか。」
思わずクラウドを見ると、
「あるのはこれだけだ。さすがに持ち運びは出来ねぇ。」
「あはは、さすがにこれを持ってダークレイクの討伐に行くのは無理だねぇ。」
俺の考えはすぐに分かったらしく、二人してそう言ってきた。
「これを小さくはできないんですか?」
ケール様に聞いてみると、
「うーん。これはね、一見ガラスのように見えるかも知れないけど、魔力を通さないクリスタル鉱で出来てるんだよ。とても希少な物でね、数百年前に見つかった後、現代にかけて今だに発見されていないんだ。」
…え、とんでもない貴重な物じゃん。
「数百年前に見つかったクリスタル鉱は、我が国と後4つの国がそれぞれ保有している。色々と活用方法はあるが、そもそも材料がねぇんだよ。」
そう言われ、成程~と頷いた。
「これは一定の方向に対する力は強いんだけど、逆方向の力には弱くてね。だから外に持ち出すのには不向きなんだよ。」
いわく、このケースは内側からの攻撃には耐えられるが、外からの攻撃には滅法弱いらしい。だが、それでも貴重な物であることには変わらないため、国が保管しているとのこと。そして、これを使用する権限は魔術師団長にも与えられているらしい。
「すげ~。…え、俺何で連れて来られたんだ?」
クラウドに聞く。ここに入れてたら安全じゃね?
「それがね、この魔石は恐らくまだ生きているんだ。纏う魔力が消えただけで、中は今だに渦巻いているだろう?一般的な魔石は、宿主が死ねば中で魔力が霧散し一定の濃度になるんだ。だが、これはそうではない。恐らく、また近いうちに魔力を放出するようになるんじゃないかというのが今の見立てなんだ。」
「へぇ~…。」
そこまで聞いても、なぜ俺が呼ばれたのかが分からない。
「いやぁ、そうなった時にね、リラ君の手を借りたいんだけど、タイミング良く来てもらえるとは限らないだろう?だからね、君の特性を調べさせてもらえないかなと思ってね。」
…うん?そ、それはつまり…。
「じ、人体、実験と、言うやつでは…?」
両手両足を縛り付けられ、変な薬を投与される想像をした俺。それを笑いながら見下ろしてくる魔術師団の皆。血の気が引いて、ブルっと震えると、クラウドの外套をバッと広げ自分の身体を中に入れて前を閉じた。
「帰るぞクラウド!あの人怖い!やっつけてくれ!」
「…何を想像したんだお前は。」
「ふははは、やるかね、クラウド。」
「悪ノリすんな、やらねぇよ。リラ、何想像したかは知らねぇけどな、俺もそれに立ち会うし、変なことはしねぇよ。」
クラウドの言葉で、顔を外に出し、ケール様を見ると、何故かニヤニヤと笑っている。
「…笑ってる!あの人笑ってる!」
それすらもゾッとして、クラウドの外套の中でピャッと飛び上がった。
「あれは違ぇよ、お前の行動を笑ってるだけだ。」
クラウドは呆れたようにため息を吐いた後、外套を開け放って俺を出すとそのまま担がれた。
「うわー!裏切り者!」
「うるせぇ。俺がいて何が怖いんだお前は。」
「おやおや、すごいセリフだね。ほら、こっちの部屋だよ。」
担がれたまま何処かの部屋へと連れて行かれた俺。降ろされた後、クラウドの後ろに回り込んで様子を伺う。
「この魔力鑑定の水晶に手を当ててもらえるかい?」
そう俺に言ったのに、何故かクラウドが手をかざした。すると、赤や黒が中で渦巻くように変化し、キラキラと消失していった。
「何!?何したの今!」
「魔力の質を見るためのやつだ。おら、さっさと手出せ。」
俺は言われるまま前に出て、恐る恐る水晶に手をかざした。
「…何もならねぇんだけど。」
「だろうな。」
「うん、まぁそうだろうね。」
…何これ。いや、まぁ、俺に魔力がないのは分かってたけどさ、何のためにやらせたのこれ。
「一応、確認のためだよ。この水晶は僅かな魔力でさえも検知できるものだから。これにより、リラ君には一切の魔力がないことが正式なものになったんだよ。」
「へぇ…。」
「あと、これに唾液を入れて欲しいのと、爪も少し切らせてもらっていいかな。後、髪の毛と、涙も欲しいなぁ。」
次々に求められ、痛くはなさそうだなと思いながら提供していく俺の一部たち。
「後は、血も欲しいから、これをピッと刺してくれる?」
「え!?」
…痛い事されそうなんだけど!
バッとクラウドを見ると、何だと言わんばかりの顔を向けられる。
「ち、血を…。」
「何だよ、刺して一滴垂らせば終わりだろーが。」
「あ、一滴でいいのか。」
コップ1杯分ぐらい出さないと駄目なのかと思った。
貰った刺機器を指に当てると、チクッとした痛みがあり、そこから絞って一滴だけ専用の小さい硝子板に落とした。
「はい、終わりだよ。ありがとうね。」
そう言われ、お茶菓子を出してもらった。俺は見たことのない美しい菓子に圧倒されながら、ケール様にソファに座るように促され、茶と共に休憩となった。
「鬼族と分かったのはいつ?家族もそうなの?魔力を含む物は全て受け付けないの?食べ物はどう?親戚とかはいる?リラ君と同じような特性を持つ人って聞いたことは?あと…。」
すごい勢いで色々質問されるが、俺は美味しい菓子に夢中であまり気にせず答えていった。
「うーん、リラ君、少し身体を触っても?」
「どうぞ~。」
美味しいお茶を飲みながら答え、ケール様の手が僕の頭に触れようとした時。
…ガシッ。
「…うん?」
何故か、触られる前に、ケール様の腕をクラウドが掴んで止めた。
「嫌ですね、変なことしませんよ。少し触れるだけです。」
「…チッ。」
不機嫌そうに舌打ちをしたクラウドはケール様から手を離した。
「何です、無意識だったんですか。ふふふ、これはまた。」
クラウドに対して上機嫌になるケール様。よく分からん。
ふわふわと頭を撫でられ、頬を撫でられ、顔全体を触られる。俺はくすぐったくてクスクス笑ってしまう。
「人間と特に変わらないですねぇ。瞳や髪の色も特異的ではないですし。」
首を捻りながら困ったように笑うケール様。そんなケール様に俺も首を傾げる。
「鬼族を見た目だけで探すのは無理だって言っただろ。」
「そうですねぇ。貴族であるなら、魔力選定を受けるのは義務なので探せるんですけど、全くの魔力無しはいませんしね。」
…あぁ、そういうことか。
「…もし他の魔力を持たない鬼族が見つかったら、その人もクラウドの家に住むことになるのか?」
クラウドを見上げて聞くと、少し驚いたように目を見開かれる。
「いや、もう俺の魔力が暴走する危険性はねぇしな。まぁ親父が何考えてるかは知らねぇが。」
そう言われ、少しホッとする。
…ん?
ホッとしたことに首を傾げるもまぁいいかと切り替えた。それからも、色々と質問され、終わった頃にはもうすでに夜が更けていた。
「なぁなぁ、何か食べて帰ろーぜ!」
「あー、そうだな。行くか。」
王宮を出て、夜ご飯を食べに行くことにした俺たち。俺は美味しい物を食べに行けるとルンルンしていた。
「あ、俺気になってた店があったんだ。そこ行こうぜ!」
「変な店じゃねぇだろうな。」
「大丈夫!…なはず。」
客に聞いた、最近できたらしい異国の料理を出す店らしい。そこに行こうと足を向けた。
「おい、まさかここか?」
「そう、ここ!」
聞いた店の名前が一致していたため、間違いないだろうとそこに入ろうとすると、何故か止められる。
「待て、本当にここか?絶対違うぞ、まずここは飯屋じゃねぇ。」
「え、でも聞いた店の名前と一緒だぞ。絶対ここだって!入ろうぜ!」
「絶対ここじゃねぇ。戻るぞ。」
「えーっ!ここ、謎の青色のスープとか、何の肉か分からない包み焼きとか、色んな料理出てくるって聞いて食べてみたかったんだよ!お願い~!」
立ち去ろうとするクラウドの服を引っ張り、踏ん張る。
「ここじゃねぇって言ってんだろ!」
「名前合ってるじゃんか!」
「おっ前、本当いい加減にしろよ!いいから行くぞ!」
「何でだよ!俺行きたいって…あぁ~!」
ズルズルと引き摺られながら、その店から遠ざかる。食べてみたかったのに!クラウドの馬鹿!鬼!悪魔!
「鬼はお前だろうが。店のこと言ってたやつは誰だ。」
「えーっと、誰だっけ。レナードだったかな。いや、常連のおっちゃんだったかな。」
「…覚えとけよそこは。」
その日は、違う店での夕食となってしまったが、後日、同僚に聞いたクラウドが同じ名前の店が別にあることを知り、連れて行ってくれた。そこでは本当に青いスープや、キューブ状のカラフルなもの、肉だろうことは分かるも何か分からないものなど、変わった料理が出てきて、何の味か分からないが美味しくいただいたのだった。
「本当にあって良かったな、なかったら教えたやつ隊長に叩きのめされてるとこだぞ。」
食堂に来た騎士にそのことを話すとそう言われたが、何でだと聞き返すも曖昧に濁されてしまい首を傾げるはめになった。
「何でその店名にしたんだか。…あっちはバーと寝所が一緒になってるそういう店だっての。」
その騎士が何か言った気がしたが、聞き返しても困ったように笑われ教えてくれず。俺はまぁいいかと職務を全うするのだった。
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