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こうして誤解は広まっていく
「帰ってくるの早過ぎねぇ?」
「待ってたくせに何言ってんだ。」
…まだそれ言う!?
帰って来て早々、公爵家に連れ込まれるとペイっとクラウドの部屋に投げいれられる俺。扱いが雑過ぎる!そう思いながら振り返ると、目の前にはクラウドの胸があり、背中に腕が回って抱き締められる。突然の抱擁にギョッと驚いていると、
―――ブワッ!
温かい風が吹いて髪の毛が舞い上がる。俺は久しぶりの感覚に思わず笑ってしまう。しばらくそのまま風を受け続けていたが、なにせ温かいもので…。抱き締められている安心感もあり、ついウトウトしてきてしまう。
「…はぁ、やっとマシになった。悪かったな突然。リラ…?おい、まさか寝てんのか?おい、嘘だろ…。」
そのまま、スヤァと寝てしまった俺は全身をクラウドに預けて眠りについてしまったのだった。
―――
…こいつ、本当どうしてやろうか。
腕の中でスヤスヤと気持ち良さそうに眠るリラを見下ろしてため息をつく。
リラが故郷に戻ってから、数日は何ともなかったが、徐々に魔力が溜まっていくのが分かった。魔力を放出するにも周りへの影響を考えなければいけないこともあり、なかなか出来ずに不調が出て来る一方になっていった。それでも調査は必要で、あっちこっちに行っては襲い掛かって来る魔物に魔法をぶっ放して発散していたが、それでも足りず。
ケール魔術師団長には何度もいつ迎えに行けるのか聞いていたが、のらりくらりと躱されては時間を伸ばされ、苛々も募ってきていた。リラが傍にいると居心地が良い、それは認める。リラと一緒にいると、魔力が一定以上増えなくなっていたのだ。溢れるであろう俺の魔力が、リラといることで無効化されている可能性があると気付いた。最近、リラが自分の部屋に戻ることを面倒臭がって、勝手に俺のベッドで寝ていることが増え、必然的に共に過ごす時間が多くなっていたのだ。恐らくそれが、俺の魔力が溜まらず一定量を保てていた理由なのだろう。初めて会ってからしばらくは、魔力が溜まれば放出に協力してもらうといった方法をとっていたため気付かなかったが。
リラと過ごす時間が増えていたこともあり、魔力暴走することもなく体調も良好に過ごせていた。そのことには気付いていたが、あの様子だとケール魔術師団長も気付いていたな。それでまたリラと距離を置かせてどうなるのか研究したかったんだろう。リラが王都を出てから、毎日のように魔力量を測定されておりうんざりしていたのだ。
苛々が募る一方だった俺に、やっと迎えに行けとの命令が出た。俺は騎士2人を伴い、馬を走らせてリラの実家に向かったのだが。
「あら、リラのお迎え?随分遅かったのねぇ。え?リラはまだ帰ってきていないわよ。あら?そういえば昨日から帰って来てないわねぇ。どうしたのかしら。」
母親らしき人物が首を傾げてそう言ったかと思うと、あ、これ荷物ね、と渡してきたリラの物。
「そういや帰って来ねぇなぁ。仕事長引いてんのか。何の仕事って?何だっけ。隣町に行ってるけど、どこで働いてんのか聞くの忘れてたな。まぁ連れて帰るならリラのことよろしく頼むわ。」
父親はそう笑って言ってきた。
「お兄ちゃんね、元気なかったの。まだかなって、待ってたの…。寂しいけど、また帰ってくるよね?」
おい、妹に心配されてんぞ。
「あぁ。王都にも遊びに来るといい。身体、大事にな。」
ルルというリラの妹に片膝をついてそう言うと嬉しそうに笑った。
…ったく、なんで家にいねぇんだよ。仕事って何だ。どうしてあいつはジッとしていることができねぇんだ。迎えに行くって言ってんのに、普通仕事探すか?何だあいつは動いとかねぇと死ぬのか?
すぐに連れて帰れると思っていた分、肩透かしをくらって苛つく。隣町と聞き、最速の道を飛ばして到着したが、どこで働いているのか分からないため聞き込みから始めなければいけない。クッソめんどくせぇ…。リラは別に特徴的な髪色や瞳の色をしているわけでもないし、ちょこまか動いてるぐらいで説明しても分かるかどうかだ。溜め息をつくのを堪え、連れて来た部下と共に目に付いた街人に声を掛けた。
…あいつどれだけ色んなやつと知り合いになってんだ。
「黒髪の?最近来た…。あぁ、リラちゃん!はいはい、リラちゃんは向こうのダリルの店で働いてるわよ。」
「騎士様がこんなところまでどないしたんや?…リラ?リラってーと、あの子か?よく働く、あー、リラはさっきまでは働いとったぞ、向こうの店だ。」
「ダリルの店?リラ?あの子が何したんだ?…迎えに?なんだ、そうかそうか、ダリルの店はあそこだ。」
「騎士様だ!何してるの?悪い人捕まえに来たの?リラ?リラ兄ちゃんは良い人だよ!」
「はい?ダリルは私ですが…。リラ?あぁ、昨日急遽欠員が出まして、変わってもらったんです。ついさっき、帰りましたよ、入れ違いですね。話は聞いてます、また暇ができたら来てくれと言っておいてくれますか。」
最初に声を掛けた人物がリラのことを知っており、芋づる式にどんどんリラの居場所が分かった。最後にリラが働いていた店主辿り着き、すでに去った後だと知り、言付けを受けるとすぐに踵を返した。
そして、のろのろと歩いているリラを見つけ、馬から下りて駆け寄ったのだった。間抜けな面を晒して逆切れしてきたリラだが、思っていたよりも迎えを心待ちにしていた様子に、苛立ちも吹き飛んだ。さっさと連れ帰って、溢れ出しているであろう魔力を無効化してもらった矢先に眠りこけるこいつ。
…はぁ。
気持ち良さそうに眠るリラを抱え、お決まりのように俺のベッドに寝かせる。魔力をぶつけられて寝るってどういう神経してんだこいつは。ギシッと上から覆い被さるようにしてまじまじと観察する。魔力もついでに溢れさせると、リラの髪が揺れて、小さく笑う。すると、
―――コンコン
扉をノックする音が聞こえたと同時に開け放たれる。
「クラウド、帰ってきたなら一度報告を…。…お前、さすがに我慢できなさすぎじゃないか?帰って来て早々、ケダモノじゃないか。」
退ける間もなく開けられたせいで、この状況を見られとんでもない誤解をしたであろう親父が、呆れたようにそう言ってきた。
「…ノックしたら返事を待ってから入れや。」
面倒臭くなり、リラの上から退けると、そう言って生温かい目で見て来る親父に苛つきながら、部屋から追い出すと自分も出たのだった。
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