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第3話 また記憶がないっ!
また記憶がないっ!④
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調査の対象は《一之瀬カオル》。高校二年生。
彼女はキリオの隣の家に住んでいる。性格は明るく社交的で、交友関係も広い。
学校には毎朝決まって大和タケルと一緒に登校している。けれど二人は付き合っていないらしい。どうやら大和タケルの方が一方的に好意を持っているようだ。
学校に着いてからは、親友でクラスメートの森戸ユウとほとんど一緒に行動している。
放課後だけは別々で、森戸ユウが陸上部の活動をしている間、一之瀬カオルは生徒会室で時間を潰し、二人は待ち合わせて一緒に帰っているようだ。
ここまで調べてみて気になったことがある。
彼女は常に誰かと一緒にいて、一人でいる時間が極端に少ない、ということだ。そんな中で、彼女はキリオに何度も電話をかけていたことになる。
結局、分からないことだらけか。今分かっているのは、キリオの記憶を消したのが一之瀬カオル、彼女だろうということだけ。証拠がないから確証とはいえない。あくまで消去法による憶測レベルの見解だけど、行動や言動、動機のいずれにおいても彼女はその全てに該当する。
なにより、私にとっては彼女と直接会って話したあの印象が色濃く残っている。
だから今は少しでも証拠がほしい。
今日は日曜日。彼女が行動を起こすとすれば休日以外に考えられない。こうして家を見張っていれば、そのうち必ず外に出かけるはずだ。
「!! 出てきた……」
そのまま距離をとって彼女の後を尾ける。
それにしても……いったいどこに向かってるのだろう? 森戸ユウの家でもないし、学校や駅でもない。この先は河原沿いの道だから、例の高架下って可能性もある。平日ならともかく、今日はキリオも森戸ユウもそこにはいないはずだ。
でも今は予想外に動いてくれた方がいい。こっちも行き詰っていたし、何か新しい情報が得られるかもしれない。
尾行中、ずっと気に掛かっていた疑問ばかり考えていた。
記憶を消す……覚えていることもありそうだから、《記憶操作》って言う方が正しいかもしれない。いずれにしても、そんなこと現実に可能なのだろうか?
方法どころか何が引き金かすら解らない。つまりそれは……仕掛けられたら防ぎようがないってことになる。しかも証拠すら残ってないなんて……
もしそうだとしたら、私のやろうとしていることに意味はあるんだろうか?
ううん、意味なんて必要ない。私とキリオの仲を二度も引き裂いたんだ。このまま黙って見過ごすことなんてできない!
一之瀬カオルは高架下ではなく、もう少し行った先にある小さい橋を渡り始めた。
後に続いて橋まで来ると、高架下の方は随分遠くに見えた。向こうの方が川の下流なので、川幅が広い分、橋が長いのだと改めて気付いた。
あの場所は……私とキリオの想い出の場所。でも、キリオのその記憶はもう上書きされてしまった。相手を森戸ユウに変えて……
その一件以来、キリオと森戸ユウは明らかにお互い意識し合っていて、二人の関係は進展しているようだった。
一之瀬カオルが歩きながらスマホを取りだした。着信だろうか? 何度か画面をタップしている。どうやら彼女の方からかけるようだ。
「あ、もしもしーユウー。xxxxx……」
この距離だと、かすかに聞こえたのは始めの名前のところだけ。森戸ユウに電話をかけているみたいだけど、なんでわざわざこんなところから?
少しすると彼女は急に足を止めた。
えっ!? ちょっ、ちょっと! なんで止まったの!? まさか尾行に気付かれた?
特に警戒していた様子はなかったはず。だけどマズイ……橋の上は見通しが良すぎて隠れる場所がない。ここのまま歩いてやり過ごす? 立ち止まるのは不自然だし、引き返すのはもっと怪しまれそうだ。
彼女は橋の手すりに肘をつき、高架下の方を向くと、また別のところに電話をかけ始めた。
『あっはは。だーれだ?』
!!?
なに今の声!? まるで別人じゃない!
さっきより彼女と私の距離は近くなっている。声だってより鮮明に聞こえるはずなのに……聞き間違えるなんてことは有り得ない。
『ねぇ、これから駅前にこれないかな?』
声が高すぎるというか、ワントーンくらい違う。この声って……よくテレビなんかで見る匿名の人の音声みたいだ。まさか、これが記憶操作に関係してるんじゃ?
待って、今はそれより会話の内容を聞き逃さないようにしないと。幸い彼女は電話に集中してる。今ならこのまま後ろを素通りしてやり過ごせるはず。
でも……これは逆にチャンスでもある。電話の相手はキリオなんじゃないの? だとしたら、何でもいいから証拠の決め手となる会話が聞けるかもしれない。
『いいの? 例の秘密、知りたくないの? 今から駅前の《サンライズ》ってパン屋に来れば教えてあげる』
この女、今、《秘密》って言った!! 間違いない! 電話の相手はキリオだ! この変な声でキリオの記憶を操作してたんだ!
私が今日、この場所を、このタイミングで通ったのはきっと……私自身の手で、この女を裁けということなんだ!
「一之瀬カオルっ!!」
彼女の方に向き直り、力強く声を上げた。全てをここで終わらせる為に。
彼女はキリオの隣の家に住んでいる。性格は明るく社交的で、交友関係も広い。
学校には毎朝決まって大和タケルと一緒に登校している。けれど二人は付き合っていないらしい。どうやら大和タケルの方が一方的に好意を持っているようだ。
学校に着いてからは、親友でクラスメートの森戸ユウとほとんど一緒に行動している。
放課後だけは別々で、森戸ユウが陸上部の活動をしている間、一之瀬カオルは生徒会室で時間を潰し、二人は待ち合わせて一緒に帰っているようだ。
ここまで調べてみて気になったことがある。
彼女は常に誰かと一緒にいて、一人でいる時間が極端に少ない、ということだ。そんな中で、彼女はキリオに何度も電話をかけていたことになる。
結局、分からないことだらけか。今分かっているのは、キリオの記憶を消したのが一之瀬カオル、彼女だろうということだけ。証拠がないから確証とはいえない。あくまで消去法による憶測レベルの見解だけど、行動や言動、動機のいずれにおいても彼女はその全てに該当する。
なにより、私にとっては彼女と直接会って話したあの印象が色濃く残っている。
だから今は少しでも証拠がほしい。
今日は日曜日。彼女が行動を起こすとすれば休日以外に考えられない。こうして家を見張っていれば、そのうち必ず外に出かけるはずだ。
「!! 出てきた……」
そのまま距離をとって彼女の後を尾ける。
それにしても……いったいどこに向かってるのだろう? 森戸ユウの家でもないし、学校や駅でもない。この先は河原沿いの道だから、例の高架下って可能性もある。平日ならともかく、今日はキリオも森戸ユウもそこにはいないはずだ。
でも今は予想外に動いてくれた方がいい。こっちも行き詰っていたし、何か新しい情報が得られるかもしれない。
尾行中、ずっと気に掛かっていた疑問ばかり考えていた。
記憶を消す……覚えていることもありそうだから、《記憶操作》って言う方が正しいかもしれない。いずれにしても、そんなこと現実に可能なのだろうか?
方法どころか何が引き金かすら解らない。つまりそれは……仕掛けられたら防ぎようがないってことになる。しかも証拠すら残ってないなんて……
もしそうだとしたら、私のやろうとしていることに意味はあるんだろうか?
ううん、意味なんて必要ない。私とキリオの仲を二度も引き裂いたんだ。このまま黙って見過ごすことなんてできない!
一之瀬カオルは高架下ではなく、もう少し行った先にある小さい橋を渡り始めた。
後に続いて橋まで来ると、高架下の方は随分遠くに見えた。向こうの方が川の下流なので、川幅が広い分、橋が長いのだと改めて気付いた。
あの場所は……私とキリオの想い出の場所。でも、キリオのその記憶はもう上書きされてしまった。相手を森戸ユウに変えて……
その一件以来、キリオと森戸ユウは明らかにお互い意識し合っていて、二人の関係は進展しているようだった。
一之瀬カオルが歩きながらスマホを取りだした。着信だろうか? 何度か画面をタップしている。どうやら彼女の方からかけるようだ。
「あ、もしもしーユウー。xxxxx……」
この距離だと、かすかに聞こえたのは始めの名前のところだけ。森戸ユウに電話をかけているみたいだけど、なんでわざわざこんなところから?
少しすると彼女は急に足を止めた。
えっ!? ちょっ、ちょっと! なんで止まったの!? まさか尾行に気付かれた?
特に警戒していた様子はなかったはず。だけどマズイ……橋の上は見通しが良すぎて隠れる場所がない。ここのまま歩いてやり過ごす? 立ち止まるのは不自然だし、引き返すのはもっと怪しまれそうだ。
彼女は橋の手すりに肘をつき、高架下の方を向くと、また別のところに電話をかけ始めた。
『あっはは。だーれだ?』
!!?
なに今の声!? まるで別人じゃない!
さっきより彼女と私の距離は近くなっている。声だってより鮮明に聞こえるはずなのに……聞き間違えるなんてことは有り得ない。
『ねぇ、これから駅前にこれないかな?』
声が高すぎるというか、ワントーンくらい違う。この声って……よくテレビなんかで見る匿名の人の音声みたいだ。まさか、これが記憶操作に関係してるんじゃ?
待って、今はそれより会話の内容を聞き逃さないようにしないと。幸い彼女は電話に集中してる。今ならこのまま後ろを素通りしてやり過ごせるはず。
でも……これは逆にチャンスでもある。電話の相手はキリオなんじゃないの? だとしたら、何でもいいから証拠の決め手となる会話が聞けるかもしれない。
『いいの? 例の秘密、知りたくないの? 今から駅前の《サンライズ》ってパン屋に来れば教えてあげる』
この女、今、《秘密》って言った!! 間違いない! 電話の相手はキリオだ! この変な声でキリオの記憶を操作してたんだ!
私が今日、この場所を、このタイミングで通ったのはきっと……私自身の手で、この女を裁けということなんだ!
「一之瀬カオルっ!!」
彼女の方に向き直り、力強く声を上げた。全てをここで終わらせる為に。
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