ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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僕とメリッサの戦い

第三十話 戦慄③

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 ずしん、ずしんと音を立てて地面が揺れていく、ラミディの足音が近づくたびに地響きが鳴った。──臆するな、それが致命傷になる。

 僕はSG552を構え狙いを定めた、ラミディがうなり雄叫びが響き渡り、迫り来る重圧感。手が震えそうだった、でも僕が戦うんだ、メリッサのため自分のために相手が強敵だろうと……! 僕は必死に心を静めて引き金を絞る。

 SG552から小気味よく3発銃弾が解き放たれていく、うなる銃声、確実に相手をとらえた。──どうだ! 3発にうち2発頭部に命中、だが、表面上は何も起こらない。頼む、僕の感が正しければ効いているはず。──ラミディは頭を抱え少しうなだれている、やはり効いている……!

 大男は叫びながらこちらに向かってくる、なんだと!? 以前よりも早い! 僕は体を投げ出し全力で回避した、あと数センチの所でかわすとラミディの腕が壁に突き刺さり発泡スチロールが砕けるがごとく石造りの壁を簡単にバラバラにした。

 今、僕がいる場所は狭い道だ、下手によけると壁にぶち当たる、冷静に恐怖を鎮めろ。僕は体制を立て直し頭部に向けてバースト射撃をおこなう。

 3発命中するとラミディはのけぞっていく──効いているな。奴の種明かしをするとこうだ、筋肉を硬化させることは不可能だ、なぜなら体を動かすには骨と筋肉が必要で、筋肉が柔らかく伸び縮みすることで人間が複雑な動きができる。筋肉に柔軟性がないと体は動かせない。なら奴はどうやって銃弾の貫通を防いでいるのか。

 それは全身の筋肉の表面を柔らかくクッションのように強化して貫通力を抑え弾は残った運動エネルギーで外にそれる、だが、直線上に伝わる弾の運動エネルギーは相手に伝わる。その運動エネルギーは大男の筋肉や骨にダメージを蓄積させて身体の内部を損傷させる。

 この理論に基づくと頭部に撃つとどうなるか。激しく伝わる弾の運動エネルギーは頭部をゆらせ、やつは脳しんとう状態になる。表面上何も変わらなくても相手のバランス感覚、判断力、運動能力に確実にダメージを与えられる、そこが狙い目だ……。

 僕は距離を取りながら頭部に向けて精密射撃を行う。ラミディは腕を盾にしてこちらに向かってきた、奴はひるむことなく僕の足に向かって攻撃してくる、僕は間合いを取ってかわす。よし、少し余裕が出てきた、相手の動きが鈍くなってきたんだ。ラミディのガードがなくなった頭部にもう一度精密射撃を行った。

 大男は大きく頭を抱えてグラつく、そして体をフラフラとさせて起き上がった。

 いける……!

 ──その時だった! ラミディは右手を高く上げて僕の左肩を手刀で骨を粉々に砕いてしまった、声にならない叫び、走る激痛、とぎれ引きちぎられる腕の感覚。

 なっ……?

 一瞬何が起こったのかわからなかった。

 気づいたら最後、僕の左肩が潰されて肉が引きちぎられており、肩から腕が離れて地面に落ちていた、くっ油断していた。勝利を確信するのにはまだ早かったんだ!

 当たれば一撃で場面がひっくり返る、そういう敵の恐ろしさを思い知った、だがもう遅い。筋肉の表面を柔らかくするのが可能なら表面を刃のように鋭くするのも可能なのか。クソ! 甘く見た! 張り詰めた緊張の糸がほぐれ、痛みと頭痛でまともに考えがまとまらない。

 僕はSG552のショルダーストックをたたみ片手撃ちで構えた。ラミディに向かって銃を放つが銃声は泣いていた。ダメだ、僕の握力じゃ片手では銃の反動で命中が定まらない、僕はラミディから距離を取り、なんとか打開策を考える。

 何かないか? 何かないか? ……そう無計画に逃げていると銃弾が残り少ないことに気づく。SG552の弾倉マガジンは半透明になっており、残りの弾が一目でわかるようにできている。そんな状況でも容赦なくラミディは襲ってくる、身体からわき出る震えが止まらない、僕は下がりながら銃を撃つが途中で引き金が引けなくなる。

 しまった! 弾切れ!?

 ……僕は全力で逃げた、せめて武器の交換をしないと。周りをよくみると、僕は知らない道に迷い込んでいた、まただ……! また、メリッサと大分離れてしまった。

 僕は立ち回り方を間違っていた、メリッサのそばにいなければ僕の能力は発揮できないというのに。ラミディは僕の抵抗がないぶん遠慮なく襲ってくる、触れば一撃死という恐怖、抵抗できないという恐怖、僕はストレスで自暴自棄になっていた。

 抵抗ができないというのはこれほどストレスになるのか、ふとメリッサのことをを思い浮かべる。メリッサやヴァルキュリアはこんな重圧に耐えなければならないないのか。

 今日メリッサがおかしかった理由がわかった。無抵抗は、人間をおかしくする、戦えなければ人はまともに立っていられない、戦えるなら喜んで戦う、戦士ならなおさらだ。

 僕はもはや恐怖で何も考えることができず、でたらめに逃げ出した。大通りに出て人混みの中に無理やり入っていく。正直僕自身、他人を盾にするような、そんなことが平気でできる最低な男だとは僕も思ってなかった。

 ラミディが襲ってくれば他人を突き飛ばして自分の安全を図った。最低のクズ。自分でわかっていながら、助かるためなら何でもした。息が切れ、ストレスでまともに立っていられない。フラフラになりながら道を歩く。僕はここまでなのか……。

 すまないメリッサ、僕は相変わらずダメな男だよ、君の期待に応えることができなかった。足下に何かの物につまずき、僕は派手に転ぶ。大の字で空を眺める、空はよく晴れきれいだ。雲がゆっくりと流れている、青いキャンバスは静かにぼやけていき、僕から目を開く力さえ奪っていく。

 ──ふと、誰かの足音が近づいてくる。

「ずいぶんと派手にやられたな」

 ああ、僕は無様だよ。

「それではこの先生き残っていけないぞ」

 わかっているさ、次があればもっとまともに戦ってみせる。

「目は死んでいないな、なら可能性がある。ゆくぞパートナー」

 そうかありがとう、メリッサ……。
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