ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

文字の大きさ
37 / 211
ザメハの笑み

第三十七話 ザメハの笑み

しおりを挟む
暗い闇。闇が僕を覆う
体が黒い海に沈んでゆく
体が動かそうとしても動けない
落ちていく、落ちていく

無数の顔が僕をあざ笑っている
あの顔は絶叫している
真っ暗な電柱から伸びる電線
ごみ袋に群がったからす
黄色く薄暗い雲

叫び声が聞こえる
僕を呼ぶのは誰だ
教えてくれ
僕は何なのか、僕の存在意義は何だ
何のために産まれて、何のために死んで

──ああ、そうかこれが地獄か……。

僕は死んだんだ
そうか死んだのか
何故? わからない
誰か助けてくれ

……メリッサ……。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

 静かにまぶたを開けるとここは裏路地のようだった。僕は生きているのか……? 僕から見えたのは赤毛の男が僕をあざけ笑っている顔だった。

「おはよう、おっさん。エインなんとかが死なないのは本当なんだな。俺アンタを殺したの。意味わかる?」

 なんだこの男は、エインなんとかというのは、エインヘリャルのことか、すると殺されたのはヴァルキュリアの武器ではなかったのか、何が何だかわからない。とりあえず完全に死んだ……というわけではなかったんだな。

 喉元を触ってみる、触った右の手のひらを眺めると、血でべっとりぬれていた。頸動脈けいどうみゃくを切られたのか、いきなりのことでわからなかったが、こいつヴァルキュリアをつれてきてないのに何故僕がエインヘリャルだとわかったんだ。

 クソ……! 情報が足りない、状況を早く把握せねば。

「おっさんがムキムキのおっさん倒してくれたのはありがたかった。俺が動くのに邪魔だったから。これから隠れて殺さずにすむ、サンクスおっさん」

「お前は誰だエインヘリャルじゃないのか? 何故ヴァルキュリアをつれてきていない」

 僕は少しでも相手から何か情報を探るため、率直に尋ねた。

「俺はザメハ、趣味は殺人。人殺しして捕まって殺されたら、ヴァルキュリアの姉ちゃんに生き返らせてもらったわけ、ただそれだけ。

 能力くれると言ったから、なにくれるかとおもったら、ヴァルキュリアに感知されないという能力をもらっただけ。ひでー話だろ。

 それじゃあエインなんとかと戦えないじゃないか。むかついたからヴァルキュリアの姉ちゃん殺したわけ。そしたらそいつ生き返りやがって気味悪いのなんの、バラバラにしてコンクリートに漬けて土に埋めた。そしたらつきまとわれなくて、俺安心」

 ……何だと? ヴァルキュリアを殺してバラバラにして埋めた? ……コイツ狂ってやがる。

「なあおっさん。俺と遊ぼうや。俺いじめっ子。おっさんいじめられっこ、オーケイ?」

 そのと言葉が終わるとほぼ同時に、僕は右手に握っていたMP7A1の引き金を引きバースト射撃をおこなう! 放たれる弾丸、しかし銃弾は肉体をとらえることはなかった。ザメハは素早く動き、的を絞らせない。そして、優れた身体能力で距離を取り建物の影に隠れた。

 辺りはすっかり夜だった。真っ暗闇で影に入られるとどこにいるのかわからない。──っつ、コイツヴァルキュリアの武器がなくても厄介じゃないか、素のフィジカルレベルが高すぎる、銃で撃つ僕にとって、近接では危険な敵だ。

 しかし、スコープも作れない僕では遠距離で当てるには工夫が必要だし、ヴァルキュリアで察知できない以上、メリッサを頼れない。

 ──なら、相手の動向を探らなければ。

「ちなみに僕はいじめられたことはないぞ、なぜならずる休みの天才だったからだ。いじめのターゲットにされそうになったとき僕はずる休みをした。

 そしてその夜、学校に忍び込んでいじめっ子は置き勉していたので、教科書ノート全部に死ねと落書きしておいた、一週間後、ずる休みを終えて学校に行ったらそいつは転校していたよ、複雑な気分だったが、子どもの僕にとって安全が一番だからな」

 僕がそう言うと暗闇のどこかで拍手が聞こえてくる。

「学校という意味がわからないけどおっさん面白い。もっと聞かせて。ここ言葉通じないから、会話久しぶり。もっと面白い話聞かせて」
「ああ、いっぱい聞かせてやるさ……!」

 僕は音がした闇の方向へセミオートで射撃をおこなう、が、少し動く影が見えた瞬間、その影が近くの木箱の裏に隠れた、後36発しか残弾がない、その間に仕留めなければ……。

「中学生の頃、部活動に入らないかと無理矢理柔道部に入れられた。そしたら上級生たちに初心者いじめでひたすら投げられたよ。僕は腹が立ったから、柔道部の部室の中にあったエロ本を道場の隅に置いた。

 そしたらそいつら、翌日顧問の教師に見つかって上級生はこっぴどくおこられたよ。ちなみに僕はそれを見届けたら部活をすぐにやめた」

 拍手の音がする。奴はその間にも移動していた。クソ……早い! 弾痕だんこんだけが壁に続いていき、虚しく銃声が響くのみ。

 僕はセミオートで撃っていた、的が絞れない以上弾を無駄にせず、戦略的に相手と戦うためだ。相手がこっちに近づいたとき、弾幕を張る、流れ出る弾と、小気味よくなる銃声。しかし音が響くだけ。弾倉マガジンが少しずつ軽くなっていく。

 後29発、そのとき、ザメハはものすごいスピードで僕のふところに入る。襲いかかる瞬時の斬撃!

 ヒュンと音が鳴るが僕には早すぎて軌道が見えない! あまりにも早いため条件反射で顔そむけるが、首もとを深く切られてしまった。飛び散る血しぶき、僕の呼吸が荒くなる、奴を見ようとするとそこにはいない。

 ……クソどこだどこに行った……! ……いない? ──まさか⁉

 後ろを振り向こうとした刹那せつなだった──。

「ここだよ、おっさん」

 気がつくと後ろに回り込まれ首元にショートソードを当てられていた。しまった、コイツすでにもう、後ろに回り込んで……!

「はい終了、おっさんの負け」

 首もとをかっきられ血が飛び散る、鮮血の赤、視界が血に染まった、僕の力は全身から抜け落ちてしまい、そのまま倒れたところで意識がもうろうとしてしまう。

「佑月……佑月――」

 ……なんだ、メリッサの声が聞こえる。助けに来てくれたのか? いや、ただの幻聴か、これは……?

「佑月――佑月――」

 言葉が遠くなっていくメリッサ僕はここだぞ! メリッサ! ――いや違う、やはり、これは現実じゃない、ああ、僕はまた殺されてしまったんだ。

 襲うのは漆黒の闇、その中でメリッサの姿を思い浮かべながら、長い長い静寂しじまに包まれて、気を失ってしまった。クソ……どうすればいい……? どうすればいいんだ……⁉
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...