ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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神の名のもとに

第百九話 残酷な信条②

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 時計の針は進んでいく。苦しみの暮らしを変えようと、多くの者が未来へ希望を抱き、それを望む。だが、誰しもそれを望んでいるわけではない。中には力尽くでその針を元に戻そうとする奴は必ずいる。……例え何かを犠牲にしても。

「おやおや、これは銀色の乙女、久しいではないか。ずいぶんとご活躍のようだな」

 アウティスは、僕にもわかる言葉でねっとりとした口上を述べる。やはりこいつはエインヘリャルなのだな……!

「ふっ、まさか、教会団の幹部がエインヘリャルとは驚き入った」

 メリッサは、アウティスをまっすぐにらむ。僕も奴の動きに気を付けて、凝視した。

「……まあ、仕方ないではないか、別にエインヘリャルが別世界だけから来るわけではない。この世界の人間がエインヘリャルになることだってある、──そういうことだ」
「それでこの世界の言葉とエインヘリャルの言葉を話せたわけか!」

 奴の口調に苛立ちながら話に入る僕。だが口元をゆがめたアウティスは、それを余裕気に高いところから見下ろしているようだった。

「そうだ佑月……。最初見た時はぱっとしない顔つきだったが、今ではずいぶん見れる顔になっているではないか」

 にやにやと嬉し気に話しているアウティスにメリッサが噛みついていく。

「確かアウティス神父は、別世界から来た者は教会団は把握していない──そう、言ったな。あれは嘘だったんだな……!」
「……嘘ではない、教会団全員が知っているわけではない、一部の人間が知っているだけだ」
「それは、詭弁きべんだ!」

 この不毛なやり取り、問いに答える気のない遠回しの嫌味気な言い方に僕もむかむかと腹が立ってきた。……よく考えると、ひとつ疑問がある。アウティスがエインヘリャルならメリッサが感知できたはずだ。だというのに、フリューナグの街では察知できなかったのはおかしい。……コイツ何か秘密がある……!
 
 周りの黒いサーコートをまとった白銀の騎士たちがじわりじわりとこちらを囲んでくる。

「……メリッサ、こいつらの相手は任せられるか?」
「片手で十分だ」

 期待通りの言葉だ、頼りにしているさ、相棒。

「──なら任せる」

 僕は急いで走って礼拝堂の奥に入っていく。

「自ら死にに来たか! 佑月!」

 アウティスの手が僕を襲う! それと交差するように、低い姿勢でそれをかわし、僕は奥にいたオーディウス神父の妻と娘の手を握った。──僕は彼女たちと会話ができない、だがこの緊急事態だ、僕が手を引っ張ると彼女たちはすんなりついてきてくれた、……ありがたい。

 僕は二人を引き連れて外への出口を探した、廊下を走り回ると、どうやら中庭の庭園から外に出られそうだ。

 そこには黒服の兵士たちが待ち伏せていた。──長い槍が僕たちを襲ってくる!

 ガギリと鋼と鋼が互いに鳴り響いた。僕が動く前にメリッサが剣で槍を止めたのだ。彼女はすでに武装している、やはり頼りになる。

「おい、出口はどこだ!」
 オーディウス神父の妻にメリッサは尋ねた。

「どうぞ、こちらへ!」

 森を抜けると街路地へと戻った。ここからなら安全だろう、僕が戦い方の指針を伝え、メリッサが彼女に指示をした。

「ミランディア市民の皆に、教会団が襲ってきたと伝えろ。兵を集めてミランディア教会を囲めとな。だが手は出すなと伝えろ、いいな!」

 オーディウス神父の妻はだまってうなずくと娘の手を握って走り去った。よし、これで戦いに集中できる。

「――メリッサ・ヴァルキュリア、僕に力を貸せ」
「――イメージしろ、お前は何を思い描く――」

 MP7A1を手にし再び教会に攻め込んだ。騎士たちをものともせず、辺りには何も障害がないかのように鮮やかに切り倒していくメリッサ。彼女の支援を受けて僕はアウティスの元へ急いだ。

 辺りは静まり返っていた。……なんだどういうことだ? 沈黙の教会の中、アウティスは礼拝堂で祈っていた。しんと静まる礼拝堂、音は何も聞こえない。見渡すと、他は誰もいない。……罠か?

「……日向直子ひゅうがなおこを倒したそうだな」

 静かに語り始めるアウティス。

「……彼女とは三度対戦し、いずれも決着はつかなかった。彼女の思想は結局わからずじまいだ。だが、実力は本物だった。いずれ私自身の手で、仕留めたかったがもはやそれも叶うまい……!」

 奴は立ち上がりこちらを向く。
「……佑月、お前の力が本物かどうか試させてもらう……!」

 僕は銃を構えセミオートで制圧射撃を行う。バースト射撃で行ったためリズミカルに弾が音を立てて勢いよく出ていく。だがアウティスはよけようとする素振りすら見せない、そしてそっと手をかざす。

 ──瞬間、何か僕には風圧のようなものを感じ、アウティスのもとに飛び去った弾が消滅していった。──なっ⁉

 ……何だと!? 奴の能力は一体……?
 
 静かにこちらへと近寄ってくるアウティス。僕は礼拝堂を円で描いて奴との距離を保ったまま、中庭の庭園へと誘い込む。

 静かに歩み続けるアウティス。まるで何事もなかったかのようにゆったりと歩いて行く。……ずいぶんと余裕そうじゃないか……!

 彼が中庭についたその時を見失ったのだろう。目を細めつつゆったりと周りを見渡した。僕は茂みに身を隠しており、そこから心臓部を狙った。
 
 鳴り響く轟音、飛び散る血しぶき……! よし! やった、アウティスを仕留めた――かのように見えた。が……

「消えた……?」

 逆に周りを見渡す僕、奴の姿が消えた。どういうことだ、まさかこの感じ……!

「こっちだ――」

 アウティスは僕の後ろに立ち僕の肩を手で突き刺した!

「グッ……!」

 僕はすぐさま距離をとり、奴の間合いに入らないようにする。くそ、やられた……!
 ……そうだ、時間変革能力だ、これは──!

 にやりと笑うアウティス。こちらへとゆっくり近づいてくる、僕は制圧射撃を試みるが、またもや、手をかざしアウティスを狙った弾が消えていく。

 余りにもアンフェアな戦いに僕は少し笑った。

「まさか……ヴィオネスと同じミラーの能力で多数の技を使い分ける奴が現れるとはな……!」

「合格だ、だがまだ足りない。私の能力は武器をそのままそっくりに作るミラーの能力ではない。これは能力そのものを複製コピーする能力だ、私は高らかに複製エフィーゴと呼んでいる。その能力の違いはお前が身をもって知るだろう……!」

「何だと!」

 アウティスが胸に手を当てる、そして地から金色のつぶたちが舞い上がり、上空へ集まっていく。空に浮かび上がるのは黄金色の巨大な球体。あまりにもの重圧感で押しつぶされそうだ。

「……見よ、これぞ神の怒りだ!」

 うなる轟音、襲いかかってくる雷! これが力というものだと言わんばかりに音を立てて稲妻が走ってくる! ヴィオネスのときは相手が頭の部分が残念だったがコイツは一味も二味も違う。僕は余りにもの興奮で武者震いがした。
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