ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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ウェディングロード

第百三十六話 三人目の仲間

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 ナオコは荷物を背負っているというか、荷物に背負われているというか、リュックを重そうにフラフラとした足取りで山道を登っていく。足が絡まって倒れそうになったところ、ナオコを僕が支えた。

「大丈夫かい?」
「うん! ありがとう、パパ!」

 アデルは地面につばを飛ばしながら「ガキなんておいてくればいいのに」とつぶやいた瞬間、それを聞いてしまったメリッサはずいぶんと激怒してしまった。

「私と佑月の結婚式に娘のナオコを出席させるのは当たり前だろ! お前何言ってるんだ⁉」

 すごい剣幕でアデルの元に突っかかっていくので彼はたじたじとなり居心地が悪そうに明後日の方向に向く。身長30センチほど差があるのに、メリッサのほうが大きく見えたほどだ。

「ストープ、ストップ。ケンカはなしね」

 僕が二人の中に入る前に、エイミアが仲介に入っていく。

「アデルは決まったことをグジグジいわないこと。メリッサちゃんもプリプリしないこと、ほら笑顔笑顔」

 にこやかに笑うエイミアに対しメリッサとアデルはお互い逆方向に顔を向ける。はあ……まだ登山して一日もたっていないぞ。先行きが不安だ。

 日が徐々に落ちていき、僕たちは疲れた体を休める場所を探し出す。開けた場所に一同が背荷物を下ろすと大きく手足を伸ばした。

「ん~疲れた、疲れた」

 気持ちよさそうに軽い運動をしたかのようなエイミアに対し、サラは言いづらそうに言う。

「あと……何日登ればいいの?」
「三日、四日かな?」

 アデルとレイラがため息をついた。なんだそれくらいで辛そうにするなよ。僕はほぼ不眠不休でさらにほふく前進で四日ぐらい山に登ったぞ。あれは人生最大の困難だった、本気で死ぬ死ぬと思いながら戦ったからな。ふと突然メリッサが山の上の方へ向く、何かを感じた様子だ。

「敵が降りてくる」

 僕はすぐに戦闘準備に入った、メリッサからSG552アサルトライフルをもらって、迎撃態勢をとる。

 どうやら相手も感づいたらしく息を潜めてこちらに近づいてくる。他のみんなはエイミアに任せて僕とメリッサが敵を探りに行った。……何の音だ。

「矢だ!」

 上を向いたメリッサが空に見える矢を指さし、僕たちは上半身を伏せ敵に近づいていく。ふと異物が茂みから見えた瞬間、僕はSG552のセレクターを連発に変えてバースト射撃を行う! 血が跳ね飛び肉が散った。

 どうやら敵の肩にでも当たったらしい、感触がそう言っている。大体の位置はわかった、後は仕留めるだけ。フルオートで弾をどんどんばらまく!

 けたたましい音と共に流れ出ていく鉄の銃弾……だが、――何だと? 地上から氷の壁が生えていき弾を防いでいく! これが相手の能力か……! 僕はメリッサに合図を送ると、茂みの中メリッサが相手に近づいていき、メリッサのほうに矢が放たれていく。だがさっと彼女は優雅にかわす。
 
 僕は慎重かつ冷静に逆回りに相手に近づき、敵を捕らえた。……男か――それを確認したとき横から何かが飛んできた! それは蹴りだった、武装した女の子が必死で僕を敵から離そうと殴りかかる、なんだ、なんだ。
 
「ちょっと待て、ミーナ! そんなことしたら!」

 男がミーナと呼ばれた女の子へと叫んでいる、横からゴゴッと木が倒れ込んできたので、僕が男から離れたところを木が覆い被さった! ズズっと大きな音を立てて男を潰す巨木。それにあわててミーナと言われた娘が叫んだ。

「うわあ、ブライアン! 大丈夫!?」

 木の下から男の手が出て、力なさげに地に突っ伏した。……駄目だこりゃ。

 それから僕たちはブライアンと言われた男、美青年で淡い碧い髪でどこか影のある雰囲気を持っていた、彼をロープで縛った。ミーナは抵抗する気がないらしい、力なさげに体育座りをしていた。

「おーいミーナとやら、ヴァルキュリアが敵のエインヘリャルを攻撃すると因果律がねじ曲がって、パートナーに不幸が起こるって知らなかったのか?」

 メリッサがジト目でミーナをさとしていく。……楽しそうだな。

「だって、あのままじゃあ……ブライアンやられちゃうじゃん……」

 ブツブツ言うミーナにメリッサはさじを投げ、アデルが近づいてくる。

「さて、この男どうしてやろうかね……!」

 何故かにやにやと笑うアデル。別にお前が捕まえたわけじゃないだろ、何もしてないし。ブライアンは動揺した様子だった。

「た、助けてください! 僕は山に登っている最中に敵に襲われて仲間が二人もやられたんです。でも、戦うのはあまり僕は好きじゃないし、命のやりとりなんて僕はできません! 僕は自分の命が惜しくて仕方なく……お願いです、どうか見逃してください!」

「嘘つけこっちを攻撃してきただろ」

 アデルがイヤラシそうに痛いところを突っつく。

「だって、敵が来たら攻撃するしかないじゃないですか! そうじゃないと殺されるし! 第一僕は防御型の能力で、相手のエインヘリャルを攻撃する能力はありません。だから、必死で矢を放って――」

「言い訳だな」
「違います!」

「待った」

 僕がアデルを止める。なんでだと言った様子で「すぐ殺せばいいのによ」と悪態をつくが、僕は気にしない。

「パーティーを組んでいたということは結局のところ戦う意思はあるということだな」

 僕の問いに困った様子のブライアン。茶髪の少女であるミーナは胸を張った。

「ブライアンはね、パーティーでみんなの壁を作って守っていたんだよ」
「ミーナ、余計なことを言わないでくれ!」

 慌てるブライアン。彼を縛っているロープのひもを僕は解く。ブライアンは「えっ」とつぶやき、アデルはチッと舌打ちをした。

 みんなが騒めき始めた。そして、僕が一言。

「うちはね、子ども連れなんだ、壁になってくれる人材はありがたい」 

 それに賛同するメリッサ。

「確かに男手は必要だな、また佑月は中距離から遠距離特化の戦い方が得意だ、壁になれる人材は正直相性がいい」

 珍しく仲間に入れようとする僕に賛同する。守備特化なら寝首かかれる心配もだいぶ減るだろうしね。その状況を理解したブライアンは大喜びをした。

「──本当ですか! このままだと、にっちもさっちもいかないので、仲間になってくださる方を探していたんです! ありがとうございます! 一生懸命働きますんでよろしくお願いします!」

 その言葉にエイミアとナオコがうなずいた。

「まあ、いいんじゃない、佑月が決めたことなら」
「私、ナオコっていうの、よろしくね、お兄ちゃん!」

 自分で決めたことだがつくづく良い仲間に巡り会える運はないらしい。苦笑しながらも、夕食の準備に取りかかった。まあ男手が増えたことで狩りは十分はかどったけど。
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