ヴァルキュリア・サーガ~The End of All Stories~

琉奈川さとし

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マハロブ市街戦

第二百十話 浮気裁判④

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 僕の浮気裁判デスマッチは続く、何と当の浮気相手とされる、クラリーナが証人だって!? 何故だ、何故こうなった!

 事情がみ込めないレイラがクラリーナに不思議そうに尋ねた。

「クラリーナさん、貴女、佑月さんと浮気したと認めるのですか!?」
「違います! 誤解です! 佑月さんは無実です!」

「はい? じゃあなんで、ユリアはクラリーナさんを呼んだの?」
「レイラ、彼女の証言を聞けば、佑月さんは死刑だと貴女にもわかるはずよ、浮気相手の本人による決定的な証言でね……」

 含みのある言い方をユリアはしたのに対し、クラリーナは必死に否定する。

「違います! 私は佑月さんの無実を証明しに来たんです!」

 食い違う主張にエイミアが戸惑った様子で言った。

「なんかよくわからないけど、クラリーナの証言からユリアは佑月が有罪と判断したのね。でも当のクラリーナは無罪だと思っている……。うんなんか面白そう! クラリーナ、証言をお願いね!」

 そんな彼女の言葉にメリッサが怒りで震えていた。

「わかってるな、佑月……? 内容によっては裁判に関係なく、自力救済で私が自ら、お前を死刑にするからな……!」

 ひぃいいいいい──!? これが中世だよ!

 僕が恐怖で縮み上がっている中、しずしずとクラリーナは証言を始めた。

「昨晩は佑月さんは私の屋敷に来ました。私、勘違いしちゃって、佑月さんが私とベッドに入ることを決意したと思って……。

 それで思い切って露出の多いドレス、赤いドレスを着たんです、彼が……殿方に、喜んでいただけるために……。

 私すごい恥ずかしかったけど、彼が喜んでくれるなら良かったんです。結局、私の勘違いでしたけど。佑月さんはロマンチストでした。素敵な夜に愛しの佑月さん……。あ、いえ、なんでもないです! と、とにかく彼は無実です。

 私はその言葉に勝手に酔っていただけです。もちろん佑月さんにはメリッサさんがいらっしゃいます。わたしなんかがとてもとても手を出せない素敵な方です。

 後でただ私と夕食しに来ただけだと、彼が言ってくれました。だから、佑月さんは優しかっただけです! だって、階段からこけそうな私を抱きとめてくれたんですよ!

 ほ、ほら、佑月さんは無実ですよね? 皆さんの誤解なんです!」

 場はそう、シーンとした。えっこれが決定的な証言? なんだ僕への弁護の証言じゃないか、ユリアは何を言ってるんだ? レイラも同じように感じたようで、ユリアに尋ねた。

「ユリア……、やっぱり無罪じゃないですか、佑月さんは?」
「それは、私が彼女をゆさぶってから言ってください、なんてったって彼女は恥ずかしがり屋さんですから」

「はあ……」

 荒れそうな雰囲気に目を輝かしたエイミアは興味津々で言った。

「じゃあ審議再開ね、クラリーナ。さっきの証言に間違いがないなら、もう一度証言してね」
「もちろんです! 佑月さんは無罪ですから!」

 クラリーナは可愛らしくひじを合わせて両手をグーにして、手を顔に持ってきた。うん、いいなあ。いかん、だから浮気を疑われるのだ、僕は無実なのに……たぶん。クラリーナが一度咳払いをした後、審議が再開する。

「昨晩は佑月さんは私の屋敷に来ました。私勘違いしちゃって、佑月さんが私とベッドに入ることを決意したと思って……」
「待った!」

 ユリアが待ったをかける。どういうことだ……。

「佑月さんはクラリーナさん、貴女の屋敷に来たのですね、それは本当ですか?」
「はい、本当です」

 クラリーナはすぐさま答えた、何だ、問題ない……。

「その時の佑月さんはどんな様子でしたか?」
「えっと、とても嬉しそうに、にやついていました」

「ほう、どうしてです?」
「私の姿をじっと上から下まで眺めて、その嬉しそうに……」

 ちょっ、ちょっと待て。しまった、そんなことをしてたんだ、くっ、男のさがが!

「おいおい、見定めてるんじゃねえかよ!」
「最低……!」
「性的に見てるじゃん、確実に」
「私もそんな風見られているしなあ、いやらしい……」

 やばい! 雰囲気が変わり始めた。まずいぞ……! 緊張が走る裁判で、クラリーナは証言をつづけていく。

「それで思い切って露出の多いドレス、赤いドレスを着たんです、彼が……殿方に喜んでいただけるために……」
「まった!」

 彼女の言葉にユリアはすぐさま制止した。

「赤いドレス、佑月さんの証言と一致しますね、それで具体的にどういった露出の高いドレスですか?」
「えっと胸が肩までガバって空いて、胸はギリギリ乳首が見えないくらいに、スカートの足は私の太ももが見えるようにして、刺繍付きですがスケスケで生足が見れるように、私、足がキレイキレイって、みんな言ってくれますから。でも……佑月さんは胸の方をじっと見てましたね──」

「ちなみに貴女のバストサイズは?」
「86リタです……」

「86リタ!?」

 みんながびっくりする。リタってこの世界の単位かな、ここにはヴァルキュリアと現地語がわかるレイラや、ナオコばっかりなので、シェリー以外即座に反応した。どういう意味か理解したメリッサは怒り交じりに僕に言った。

「おい、佑月。86リタはお前の世界で112cmだ」
「えっ112㎝!?」

 僕は想像して顔が赤くなった。

「何、顔赤らめてんだよ、気持ち悪い!」
「巨乳が好きなんだ……うわキモ……」
「うわあ、そりゃあじっくり、たっぷり見るよね、乳がとっても大きいもんね」
「うらやま死刑ね……」

 エイミアは歓喜の様子で、クラリーナに尋ねた。

「ねえねえ! 何でいつも、鎧で隠してるの! すごいじゃん、クラリーナ、おっぱいおっきかったんだ! 全然気づかなかった! ねえ、鎧を外してよ、見たい見たい!」

 その言葉にクラリーナは顔を真っ赤にして頬に両手を当てた。

「駄目ですよ……。だって、恥ずかしいもん……!」

 そこにユリアがすぐさまツッコミを入れる。

「でも、佑月さんには見せたんですよね……! その恥ずかしい巨乳を……」

 瞬間辺りから僕に対して、死ね死ねコールがわき起こった。でも、その中になぜか、レイラも加わっていた。

「何でレイラまで僕をいじめるんだ!」
「だってうらやましいもん! おっぱいだよ、おっぱい! しかも巨乳、ずるいですよ、佑月さん! 私も見たい!」

「と言われても記憶がない……」

「さあ、ここからですよ、クラリーナさん証言をどうぞ……!」

 嬉しそうにユリアは笑いながら言った。やばい! まずい、まずすぎるぞ、これは! ヤられる!

「私すごい、恥ずかしかったけど、彼が喜んでくれるなら良かったんです。私の勘違いでしたけど。佑月さんはロマンチストでした。素敵な夜に愛しの佑月さん……いえ、なんでもないです! と、とにかく彼は無実です。

 私はその言葉に勝手に酔っていただけです。もちろん佑月さんにはメリッサさんがいらっしゃいます。わたしなんかがとてもとても手を出せない素敵な方です」
「待った!」

「はい?」

 ユリアが制止したのではなくレイラが制止した。お、おいまさか……! 彼女は興味津々に聞いていく。

「クラリーナさんロマンチストってどういうことですか! 何故そう思ったんです?」
「だって私の佑月様が甘い言葉をささやいてくれたんです……! そりゃあ、私も罪悪感はありますよ、メリッサさんやナオコさんに悪いって。

 でも……私だって女なんですよ! 素敵な男の方に囁かれたら、私をあげちゃいたいって……、思ってもしかたないじゃないないですか!」

「ああ!? 明らかに口説いてんじゃねえか、ボケが!」
「狙ってる……カラダを……!」
「気持ちわる、おっさんのくせに……!」
「ねえ、シェリー、首、切ってくれない? こいつを」

 ぐああっ!? まずいぞ周りは全員、敵に回った。今まで沈黙していたナオコでさえもにっこりと、「パパ、死んでいいよ」と言った。やばい! 駄目だ、僕……。早くなんとかしないと……!

「さあ、続けましょう、死のカウントダウンを……。クラリーナさん証言お願いします」

 ユリアは嬉しそうだ。やめてくれえ、もうやめて! とっくに僕のライフはゼロだよ!

「後でただ私と夕食しに来ただけだと、彼が言ってくれました。だから、佑月さんは優しかっただけです! だって、階段からこけそうな私を抱きとめてくれたんですよ!」

「待った!」

 ユリアが待ったをかける。おいおい、何が出てくるんだ……。

「クラリーナさん貴女がこけたと言いましたね、階段から……」
「あ、はい……」

「その時佑月さんの手はどこにありましたか……?」
「えっと……その……私の胸に……」

「はい?」
「胸?」
「おいおいまさか」
「ラッキースケベ、いやこれは、スナイピングスケベ……流石はスナイパーね」

 みんながドン引きしている。メリッサからすごいプレッシャーがかかってきた。めっちゃ怒ってる、やば、ここで殺されてもおかしくない……! もうやめてほしいのにさらにユリアは続けていく。

「クラリーナさん、もちろん佑月さんはすぐさま手を離したんですよね?」
「えっと、私の胸を揉んでました……」

「──異議あり! 異議あり! 異議あり!」

 とりあえず僕が叫んだ! いやいや、まてまて、クラリーナそこまで言うなよ、僕には記憶ないんだから、そんな正直に言わなくとも!

 しかし傍聴席からブーイングがどんどん飛んでくる!

「乳をゆさぶったんだろうが! お前がよぉ!!!」
「乳を揉んでおいて……今更見苦しい……」
「しかも巨乳だよ、それをゆさぶったんだよ、許せない……!」
「ゴミ。はっきり言ってゴミ。乳をもんでおいて、今更知らぬ顔とか、汚らわしい……!」

「死刑……、死刑……!」

 女性陣、皆からの死刑コールが始まる。待って! 覚えてないんだもん、許してよ……! 大荒れの裁判状況に、エイミアはにやつきながら言った。

「クラリーナさっき言ったことは本当なの? 嘘なら法廷侮辱罪だけど」
「私は神に仕える敬虔けいけんな信徒です、嘘なんてつきません……! だから、彼は無罪なんです。きっと優しいだけ……!」

「異議あり!」

 当然ユリアがそれを否定する。

「明らかに乳をゆさぶったじゃないですか、刑法第32条、浮気による、お乳をもんだ罪にかかわる条項にひっかかり、死刑です! 彼、池田佑月は死刑です!」

「異議あり!」

 そこにさっそうとレイラが異議を唱えた。良かった弁護してくれるんだ……僕の味方はレイラだけだよ……。良かった。僕は情けなくも彼女に頼るしかない。頼みのつなのレイラは、ユリアにはっきりと断言した。

「ちょっとまってください、クラリーナさんは86リタ、巨乳ですよ! 言葉を返すようで悪いですが、ユリア、そんな、そんな……おっぱいがあったら、貴女、ゆさぶりますよね!?」

「あ……!」

「はっ……!」

 女性陣、皆が真剣に考えこんだ。え、どういうこと、どういう流れ、これ……?

 場が一気にヒートダウンし、レイラは高らかに宣言した!

「目の前に巨大なお乳があって、ゆさぶらないなんて、人間じゃありません! つまり彼がやったことはごくごく自然なこと! すなわち無罪です!」
「ぐっ!?」

 ユリアが衝撃を受ける。な、なにそれ、いや、明らかにそれは……。当たり前の事なんだけど、レイラにユリアが言い返した。

「まちなさい、佑月さんは男ですよ、セクハラよ! それは!」
「異議あり! 男だろうと女だろうと、たわわなお乳があればゆさぶります! つまりジェンダーフリーです!」

「ぐふっ!」
「くはっ!」
「いやあ!」

 女性陣みんな口々に衝撃を受けた。な、何故……? 彼女らは口々に傍聴席で真剣そうに語り始めた。

「そうだね、昔と違うものね。差別はよくないね……」
「私だって、女が好きだしな……。男だけ差別されるのはな……」
「ポリコレの時代、男だけ悪者扱いは遅れてるかも」
「おっぱいはみんなのものだわ……」

 えっ!? いいの、それで! 無論メリッサが異議を唱えてしまう。

「ちょっと待てよ、乳を揉んだんだぞ! 乳をさあ。死刑だろ普通に!」

 だがそれをナオコが諭す。

「ママ、クラリーナさんに嫉妬はよくないよ、自分の胸が小さいからって……」
「おい、ちょっと待て! 私、小さくないぞ、大きい方だぞ!」

 そうだよメリッサは大きいよ。揉んでる僕が言うんだから、ゴフンゴフン。しかし、エイミアは彼女の主張を否定した。

「でもさあ、メリッサ。私の方が胸大きいじゃん」
「はあ!? ケンカ売ってんのか、エイミア!」

「事実を言っただけよ。けしからん巨乳があったら揉むし、揉んでこそ巨乳。つまり佑月のたわわなおっぱいを揉んだ行為は自然だと、私はここに断言します!」

「なにぃいい!?」

 メリッサは衝撃を受けてしまった。いいのかそれで……。事態の急展開になぜか落ち着きを払うユリアは髪を触りながら言った。

「流石ね、レイラ。えっちに関しては貴女には敵わないようね……!」
「当然よ、こなした数が違いますから」

 レイラは胸を張ってるけど、それ、いいのか、君は。君の過去は悲惨だぞ、自慢するの……それ。だからといってユリアはくじけずに、またもや畳みかける。

「でも、レイラ。佑月さんは貴女を上回る変態よ。とてつもないド変態、エロエロおやじよ。今からその事実を目の当たりにして、冷静でいられるかしら?」
「え?」

「クラリーナさん、続きの証言をどうぞ、さあ、佑月さんの最後です!」

 えっ……まさか……? おいおい、何やってたんだ僕……。クラリーナはうっとりして頬を染めながら言った。

「はい……」

 最後に怖ろしい衝撃の夜を僕たちに語られることとなった──。
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