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鏡子 (きょうこ)

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なぜ民間人が加害者になったのか

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なぜ民間人が加害者になったのか

その事件の真相はいまだにミステリーである。しかし、それにもまして奇妙なのは、それ以降の経緯である。6人の将軍を殺害した行動部隊を粉砕したことで、事件そのものは解決したはずにも関わらず、1965年10月末から1967年頃までの間にインドネシア各地で共産主義者と見なされた人々に対する攻撃が続き、前述のような大虐殺が行われたのである。

軍隊が直接手を下したのではなく、軍隊の支持を受けた民間人がかかわった。それまで同じ町の、同じ村の、あるいは同じ職場や学舎の仲間だった人々を、たとえイデオロギー的に相いれないからと言って実際殺害することなどできるものだろうか? 私はまずこの大きな疑問から、スハルト体制の崩壊とほぼ時を同じくして加害者・被害者双方から聞き取りを始めた。

その中でわかって来た一つのことは、治安当局から、「お前たちが共産党の殺害者名簿に入っていた。あいつらを殺さなければお前たちが殺されるぞ」と言って不安を掻き立てられたということである。

多くの場合まず治安当局がそれぞれの地区の共産党事務所を襲撃し、そこで殺害者名簿が見つかったと公表した。そこにはその地方の名士たちの名が連ねられており、彼らを護るためにその取り巻きの者たちが駆り出されたのである。

それと同時に、共産主義者は神を信じない輩で、不道徳で、性的にも乱れているというイメージ作りがメディアによってなされた。これは周到に用意されていたプロパガンダであったようである。

9・30事件で襲われた6人の将軍たちは、射殺されたのち、あるいは生きたまま身柄を連れ去られのちに殺されたのであるが、その遺体には、目玉をえぐり取られたり、性器を切り刻まれるなど残虐かつ性的な拷問の跡があったと報道された。

ずっと後になってから、その時遺体検証に当たった医師たちは、そのような拷問の事実はなかったことを発表するのであるが、その時はそのような話が、活字や電波に乗って大々的に語られたのである。メディアは、事件発生と同時に一部の御用新聞を除いてすべて発禁にされ、厳しい統制下に置かれていたためそのようなことが可能だったのである。

当時のインドネシア駐在アメリカ大使は本省への報告のなかで、「インドネシア共産党の罪、裏切り、残虐性についての物語を流布する秘密の宣伝活動こそが、今一番必要とされている(インドネシアへの)緊急援助だ」と述べており、自分たちも共産党についてのネガティブな噂を流布させることに協力していたようである。こういったメディアの報道を多くのインドネシア人は鵜呑みにし、共産主義者への憎しみを募らせていったのだった。

こうして、主としてもともと共産主義者に反感を持っていたイスラーム組織のメンバー、あるいは、日本の暴力団にも似た、プレマンと呼ばれる、チンピラ集団が実際の殺戮に手を染めた。その殺し方は、目をえぐったり、耳を刃物で削いだり、体を切り刻んだり、信じられないような苦痛を与えることが多かったという。

いったん治安当局が逮捕した者たちを、拘束先から連れ出して集団殺戮を行うというケースもあった。これらの行為は国軍や警察に黙認されていた、というより奨励されていた。

1965年12月にバリに視察に行った日本の領事は、「軍警は・・・これら国民党系分子の行動に対しては傍観的というより好意的支援を与えているかの観がある」と本省へ報告している。

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