もろびとこぞりて サブタイトル(現代版西遊記)

鏡子 (きょうこ)

文字の大きさ
72 / 225
第9章 スパイ活動についてまとめてみました。

ソフトバンク社員が機密漏洩、露スパイの巧みな手口

しおりを挟む
   

通商代表部は隠れ蓑、諜報部員から「喰いモノ」にされる日本

2020.1.28(火)

山田 敏弘

※  国際ジャーナリスト



 2019年1月25日、各メディアが一斉に、ロシアのスパイ工作について大々的に報じている。

 警視庁は、日本の通信大手ソフトバンクの社員だった荒木豊容疑者(昨年12月に懲戒解雇)が、社内の情報を持ち出してロシア政府関係者に渡していたとして逮捕した。このロシア政府関係者は、在日ロシア通商代表部の職員と元職員(すでに帰国)の2人だという。


 当局は、ロシア政府にこの2人を出頭させるよう要請したが、まだ日本にいる通商代表部の職員は外交特権を持っているために、これに応じることはないだろう。つまり、事情を聞くことも、罪に問うこともできない。

「通商代表部」職員が関与した事件の数々

 つい先日、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』(講談社+α新書)を出版した筆者の目から見れば、今回の一件は典型的なスパイ工作事案だ。


 今回改めて明らかになったのは、日本はロシアのスパイからも「喰いモノ」にされているという現実だ。では、そもそもロシアの諜報工作とはどういうものなのか。

 在日ロシア通商代表部は、スパイの隠れ蓑になっているケースが少なくない。在日ロシア大使館のホームページによれば、在日ロシア通商代表部は「ロ・日間の貿易経済関連事項やロシアでの駐在事務所開設および合弁会社設立など」に関する情報などを提供する組織で、日本国内でも日ロの経済関係についてのセミナーなどを行っているとされている。彼らの使命は、「国家間の貿易と経済の関係を発展させる」ことだという。

 もちろんロシア通商代表部の関係者がすべてスパイ行為に関与しているわけではない。その一方で、日本では過去にも通商代表部にからんだ数々のスパイ事件が起きているのも事実だ。ある警察庁関係者は、「ロシアの諜報部員は、在日のロシア大使館やロシア通商代表部の職員を装ってスパイ工作を行ってきた」と指摘する。彼ら諜報部員は「日本とロシアの経済交流イベントや企業提携などを介して、ロシア人スパイは協力者を見つけたり、情報収集の活動を行う場合もある」とも言う。


 警察庁の公式サイトには、過去のロシアによる「対日工作」の事例が紹介されている。例えば、ロシア通商代表部員が、レーザー誘導ミサイルや赤外線誘導ミサイルの仕様書を防衛関連会社社長から入手したケース(2002年)や、元ニコン社員からミサイルの制御や誘導に転用できる「VOA素子」を受け取ったケース(2006年)。さらに2005年には、東芝の関連会社の社員が、通商代表部員に半導体関連の情報を提供して書類送検されるという事案もあった。


非常に有能なロシアのスパイ

 こうした活動を続けているロシアのスパイ組織は、世界の情報関係者の間でも、非常に有能な集団だとして知られている。


 CIA(米中央情報局)で防諜部門の幹部として、ロシア人のスパイと対峙していた元スパイは、ロシアのスパイこそ、CIAに次ぐ強力なスパイ活動を行っていると拙著『世界のスパイから喰いモノにされる日本』でも語っている。いわく、「ロシアのスパイたちは米国に次いで最もプロフェッショナルな組織だ。スパイ活動をするのに、最も難しい敵でもある。とてつもないプロで、手強い相手だ。民主主義国家に対するインテリジェンス活動で長い歴史を持ち、それを誇りにして今も活動している。ロシアが現在も存在できている理由は、彼らが冷戦時代から現代まで諜報活動をずっと継続してきたことにある」という。

 ロシアにはソ連時代に、悪名高いKGB(ソ連国家保安委員会)という組織が存在した。KGBは共産党の主導で、1954年に内務省から分離して作られた組織。国内で秘密警察のような監視活動を行いながら、国外では諜報・工作活動を行なった。

 現在、ロシアのトップに君臨するウラジーミル・プーチン大統領も元スパイだ。1970年代にKGBのスパイとなり、1985年から90年まで、東ドイツのドレスデンに勤務していた。KGB時代のプーチンは、有能なスパイとして評価が高かったという。彼の政策は、スパイからの情報が基盤になっているとの話もある。プーチンは毎日、仕事を開始して最初にする日課は、諜報機関が毎日まとめているリポートに目を通すことだという。

 ソ連の崩壊に伴い、KGBは廃止されたが、そこから2つの情報機関に分かれた。国内を担当するFSB(ロシア連邦保安局)と、国外を担当するSVR(ロシア対外情報庁)である。SVRは、KGBの対外諜報を担当していた第一総局が元になっている。

 そして今回の事件で取り沙汰されている在日ロシア通商代表部など、世界中に人を送り込み、スパイ活動を行っている。そうした活動はもちろん日本だけにとどまらない。最近のアメリカでも、摘発されるロシア人スパイは少なくない。名前や国籍を偽って外国で活動する「イリーガル」と呼ばれるロシアの非合法スパイも世界中で暗躍している。

相変わらずスパイに無防備な日本

 そこで今回のソフトバンクのケースだが、これも古典的なスパイ工作の手法によるものだ。

 身分を偽ってターゲットに接近し、一緒に飲み食いする機会を増やすなどし、親密さを増してゆく。その上で、ターゲットが所属する組織に関する軽微な情報の提供を要求する。もちろん金銭的な対価も支払ってだ。そうやって少しずつターゲットの倫理観を麻痺させ、徐々に機密に近い情報を引き出していく――。過去にもこうした段階を経て、日本の安全保障や防衛産業に関する情報が、外国人スパイにかすめ取られてきた。今回の元ソフトバンク社員のケースも、ステップの途上にあったものと考えてよい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...