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組織(ハウス)入団編

ー 1 ー 都市サンホン

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-  都市「サンホン」 -  



(わいわい)(ガヤガヤ)

クロロ「ひゃー!すっげえ!村の巨大クヌギよりもどでかいビルがいっぱいだ!」

視界の先まで続く建物郡が、真夏の濃い青を切り取っていた。

クロロ「い、いままで都会に行く用事がなかったから・・・。む、村とは大違いだなあ・・・!」

シルバー、ブラウン、ベージュ。さまざまな色合いのビル肌と、アクセサリのように彩る装飾や看板。
めまぐるしく動きながら電子音を響かせている屋外ビジョン。
むわっとした湿気の中に、鼻腔をくすぐる、ガスと香水と甘いスイーツが入り混じった匂い。

眼前に広がるほとんどが、村にはないものだった。
(当然、クロロには五感を刺激するものの正体が何なのかを持ち合わせていない)


都市サンホンは、ミナの村から山を3つ越えた先にある地方都市だ。
地方都市とは言え、村から出ることがなかったクロロにとっては、まるで異世界。

(ちなみに、ミナの村から比較的近くにあるこの場所が試験会場として選ばれたのは、
「ハウス」幹部となったレノンの働きかけによるものだった)



クロロ「(クラクラ)・・・な、なんだか賑やかすぎて目が回っちまう・・・。
っと、こうしちゃいられないな!試験会場を探さないとな」

(ゴソゴソ)

クロロはレノンの手紙を取り出した。

『・・・ 8月7日。ビッグフットキャットの口髭を3本持って、都市サンホンのレコードショップ
「ストロベリー・フィールズ」へ行ってくれ ・・・』

クロロ「・・・試験会場は、れ、れこーどしょっぷのすとろべりふぃーる? 
そこでぴー助のヒゲを見せればいいんだな。よし、とっとと行くぜ!」


クロロはキョロキョロと周りを見渡し、左手側に立つ建物に目をやった。
五階建ての、こじんまりとした商業ビルだ。

クロロ「・・・し、試験会場はこのビルかな?えーっと…」

クロロは看板を見上げた。

一階 銀のイタリアン
二階 フィットネス ディップナス
三階 金融 フルアイ
四階 アカシヤクリニック
五階 プラチナ歯科

クロロ「う、う~ん、ここじゃなさそうだな。あ、あっちのビルは…?」

右手側にそびえ立つ、先程より一回り大きいビルだ。
なんだかここにある気がする。看板に目をやった。

一階 Live friend bank
二階 ミクドナルド
三階 都きもの学院 (生徒募集中)
四階 カラオケやかた 受付
五階 カラオケやかた
六階 カラオケやかた
七階 居酒屋 辛太郎


クロロ「い、いや、ここもなんだか無さそうだぞ!ど、どこにあるんだ?」

前を向いても後ろを向いても、大小様々な建物が、森のように遥か彼方まで続いていた。

クロロ「・・・・・・。わ、わかんねえ!こんなにいっぱいある中でどうやって探せば・・・!
こ、これも試験のひとつか?だとしたら、レベルが高いぞ・・・!
そ、そうだ!誰かに聞けばいいんだ!」

無数の人が行き交う大都会。さすがに誰かは試験会場を知っているはず!

クロロ「・・・とはいえ、物知りそうな人がいいよな!村長のじっちゃんみたいにな!あの人なら知ってるかな?」
杖をついた老人を見つけ、クロロは駆け出した。

クロロ「あの!」

おじいさん「うひゃっ!な、なんじゃ?(ドキドキ)」

クロロ「あのさ、おじいちゃん、ちょっと道を聞きたいんだけど」

おじいさん「ほらそうか。わしにわかるかいな?」

クロロ「えっと・・・あ、手紙を見せた方が良いかな。ここなんだけど」
クロロはレノンからの手紙を老人に差し出した。

おじいさん「はてな。・・・ふ~ん、ふむふむ。・・・すまんが老眼での。ちょいと字が読めんわい」

クロロ「そっか、ごめんごめん。れこーどしょっぷのすとろべりふぃーる、ってとこなんだけどさ!」

おじいさん「お、おおお。はてはて・・・。う~む・・・。
すまんが、聞いてもわからんかったわ。それは若者の店かいな?
ちょいと年寄りにはようわからん。若い人らに聞いてもらったほうがええ」

クロロ「そっか、わかった!ありがとう!」

老人は杖を片手にヨボヨボと去っていった。クロロは手を振って見送る。

クロロ「う~ん、ミナの村じゃ村長のじっちゃんが一番の物知りだったんだけどな。都会は反対に若いのがものをよく知ってるってことかあ。不思議だな」

その時、威勢の良い声が耳に飛び込んできた。
『お疲れ様でしたっ!ボス!』

声の方を振り返ると、ギラギラした看板がたくさん掲げられている黒っぽいビルから、黒服を纏った
3人の男たちが出てくるところだった。

『ったくよ、どうなってんだ!どこもカツカツじゃねえか。二軒も夜逃げだと?ふざけんじゃねえ!
上へどう報告すんだ、このボケが!』
『へえっ!すみません、ボス』
『すみませんじゃねえ!ああ、むしゃくしゃする!』

ボスと呼ばれた長身の男は、赤い髪をツンツンと逆立てており、耳や指にピカピカの装飾を施していた。
何を言っているのかはよくわからないが、男の一挙一動に周囲がへつらっているのは確かだった。
身なりも派手だし、いかにも偉そうだ。

クロロ「はは~ん、そうかそうか。『ボス』ってことは、都会じゃあいつがなんだな。運がいいぜ!
ボスに聞けばわかるだろう!」

クロロは赤髪の黒服に向かって駆け出した。



- マフィア団『キラーZOO』(下っ端) -



クロロ「ボスっ!」

赤髪の取り巻きA「うわっ!なんだこのガキは!?」

クロロ「オレ、クロロってんだ!あの、ちょっと、こっちのボスに教えてもらいたいことがあって」
そういって、赤髪をビシっと指差した。

取り巻きA「あっ!!こ、こら人様に指差すもんじゃないぞ!!!」

クロロ「あっ、そう?あはは、ごめんごめん。とうちゃんにもおんなじこと言われてたや」

赤髪がギロリとクロロを睨んだ。
赤髪「なんだ、このガキはよお~」

取り巻きB「ぼ、ボス、不愉快なご気分にさせてしまってすみません。すぐに締めときますから」

赤髪「・・・ふん。おまえら、ちと、どけや」
赤髪が取り巻きを下がらせ、ズイっと前へ出た。

赤髪「おい、少年よ。何を教えて欲しいんだって? 俺が知ってることなら教えてやろう」

クロロ「本当?ありがとう!ボス!実は、ちょっと知りたい場所があって・・・」
クロロはレノンの手紙を差し出した。

クロロ「へへへ。オレ、都会は初めてだから、わかんなくってさ。ほら、ボス、ここに書いてある・・・」

ビリビリビリ!

クロロの眼前で手紙が真っ二つに破られた!
クロロ「!!!」

ビリ!ビリ!ビリ!

さらに細かく破られ、ハラハラハラ・・・と紙片が舞った。

クロロ「・・・あ、ああ!ぼ、ボス! な、なんてことをすんだよ!」

赤髪「このおっ!クソガキがあ!!!!!」

赤髪は怒りの形相でクロロに口角泡を飛ばした!

赤髪「このムカついとるときに、何だてめえは!!!!ボスだと?なぜ貴様がボスと呼ぶ?
オレがZOOの人間と知ってのことか?あ?」

そう言って、ズドン!とクロロの腹にパンチを放った!

クロロ「っうげっ!」

赤髪「ははは、ガキが! おまえ、教えて欲しいことがある、と言ったな!!!
どうだ!教えてやったぜ。『俺に関わったらこうなる』ってな!覚えたか?痛い勉強代だったな!!!」

取り巻きA「ひゅー!ボス!かっこいい!!」

取り巻きB「ははは~!泣け泣け!後悔しやがれ!!!」

赤髪「・・・ふん。まあちょっとは気が晴れたからな。俺様のお役に立てて光栄と思うが良い。
おい!おまえら、いくぞ!(ペッ)」

クロロの前に唾をはきかけ、のしのしと去っていった。



暑い風が吹き込み、バラバラになった手紙がどこかへ飛んでいく。

クロロ「・・・、ぼ、ボス」

赤髪「ん?おまえら何か言ったか?」

取り巻きたち「い、いえ・・・」

クロロ「おい!待てよ!このボス!」

赤髪たち「!!!」

左手で腹をおさえながら、クロロが立ち上がっていた。

赤髪「・・・ガキ!」
(え?あれ?立ってる?大人気ないくらい良いパンチが入ったはずなんだが)

クロロ「こ、これはオレの大事な手紙だったんだ!あやまれ!そんでもって、会場がどこか教えろー!」

赤髪「こ、このやろう!一体何を言ってやがる!?おい!おまえら、締め上げてやれ!」

取り巻きたち「へい!ボス!」

取り巻きたちがクロロに向かって駆ける!

取り巻きA「へへへ!悪いなガキよ!ここでしばいて点数かせぎだぜ!」

走った勢いに乗り、右手を大きく振りかぶり、パンチを放つ!
取り巻きA「ははあっっ!!!」
ビッ!!!

クロロ(ひょい)

取り巻きA「なにっ?」
クロロは首を傾け、パンチを避ける!

クロロ「はっ!!!」
クロロが軽くジャンプをし、取り巻きAの顎を蹴り上げる!
取り巻きA「うげえっ!」
顎を押さえて地面に倒れこむ!

取り巻きB「このやろっ!」
取り巻きBがすかさず蹴りを繰り出す!
クロロは左腕でガシっと受け止めると、右の拳を顔面に叩きつける!

取り巻きB「ぶへっ!!!」
パンチの衝撃で、赤髪の足元まで吹っ飛んだ!

赤髪「・・・!!!  こ、このやろう。ただの田舎のガキじゃねえな」

赤髪がジャケットを脱ぎ捨てる!

赤髪「いいだろう!本気でてめえを締めてやる!!!改めて後悔するんだな!ZOOの恐ろしさ、そして都会の怖さを田舎ものに教えてやろう!!!って、え?いない?」

目の前にいたクロロが姿を消している!どこへいった!?

クロロ「ここだぜ・・・」

左脇腹の下で声がする!しゃがんで拳を握りしめたクロロが目を光らせる!

赤髪「う、うそっ!」
クロロ「はっ!」
ぐおっとジャンプをし、クロロのアッパーが炸裂する!
赤髪は宙を舞い、アルファルトに撃沈した。

クロロ「・・・・ふん、都会はとんでもねえところだ。確かに勉強させてもらったぜ。これはそのお礼だ! ・・・ん?」

取り巻きB「ひ、ひいっ!」

ガシっ!
こっそりと逃げようとした取り巻きBの裾を踏みつける。

取り巻きB「わ、わるかった!ゆるしてくれえ!」

クロロ「じゃあ、教えろ!れこーどしょっぷのすとべりふぃるどって、どこにあるんだ!?」

取り巻きB「す、すとろべり?ストロベリー・フィールズですか?そ、それなら、この道をまっすぐに3ブロック行って、右に曲がってください。そ、その路地のすぐ右手側にあります!」

クロロ「なんだと~!」

取り巻きB「ひっ!す、すみません!」

クロロ「近いじゃねえか!そうかそうか、よかった!ありがとう!でもな、むやみやたらに乱暴すんじゃねえぞ!」

取り巻きB「・・・わ、わかりました!!!」

クロロ「じゃあな!ボスも、もうちょっとしたら起きると思うから、安心しなー!」

そう言ってクロロは駆けて行った。

取り巻きB「・・・・・・」



- レコードショップ「ストロベリー・フィールズ」 -



(タッタッタ・・・)

クロロ「え~っと、ここを曲がって・・・、すぐ右側・・・、あっ!あれか?」

クロロが足を止める。

コンビニと同じくらいの大きさのこじんまりとした平家の建物。
真っ白でキューブ型のシンプルな外観。
控えめな木製のドアは開け放ってあり、所狭しとレコードディスクやCDが並ぶ棚が覗いている。

入り口の上の壁面には、ヘルベチカの黒色のフォントで
「strawberry fields - the record shop -」
というロゴが直接描かれており、少し錆びた金属製のレコードディスクのモチーフが掲げられていた。

薬草のような匂いのお香が焚かれ、古いブリティッシュ・ロックの音楽が聞こえてくる。

クロロ「う~ん、レコードって音楽のことだよな?うるさい音が聞こえてるし、ここで間違いなさそうだけど・・・」


店内には数人の客がいて、商品のジャケットを手にとったり、手持ちのプレーヤーで視聴したりしている。
本当にここがハウスの試験会場…?

クロロは恐る恐る足を踏み入れた。


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