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組織(ハウス)入団編

ー 3 ー 一次試験①

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-  トウニ地方 原生林  -



ホールのドアを抜けると、そこは紛れもない「」だった。それも古代の原生林だ。

椰子の木みたいに巨大なシダが生い茂り、「ぜんまい」の化け物のような葉なのか茎なのかもわからない植物がニョキニョキと顔を出している。
湿度が高く蒸し暑い。むせるくらいに濃厚な土と緑の匂い。
「ギギギ・・・」「ギャー!ギャー!」
なんだか聞いたこともない虫や動物たちの鳴き声が周囲でこだましている。

「こ、これはどうなってんだ?」「つ、土も木も葉っぱも、全部本物だぜ・・・」
受験者たちから混乱の声が上がる。

「お、おい、見ろ!俺たちが抜けてきたドアが・・・」
振り返ると、空間にぽっかりと「長方形の穴」が空いている。ドアと同じ大きさだ。

「穴」を覗き込むと、先ほどのホールに繋がっている。
(ザワザワ)
受験者たちのざわつきは消えない。

コン太の頭の中
(こ、これは一体どんな仕組みなんだ?
ドアを抜けると、このジャングルに来た!つまり、ように思える。
しかも明らかにだ。
幻覚、催眠、バーチャルリアリティ、その類のものとして考えるのがまずは普通だろうが、ここまでリアリティを持たせられることが可能なのか? げ、現実にしか思えない。
も、もしこれが現実だとするならば、空間を瞬時に行き来できつつ、時空をも大幅に遡るということに・・・
あ、あはは。馬鹿らしい。それは流石に非現実的すぎる!
やはり仕組みはどうあれ、『集団で同じ幻を見せられている』、そう考えるほうが腑に落ちる!
あの不自然なホールに集められていたのが明らかに怪しい。あの待ち時間に何かしらの”催眠工作”があったに
違いない。もしくはあのレコード・ショップ…。始終流れていた店内音楽に”幻覚作用”があったのかもしれない。
薬なのかマインドコントロールなのか、手法はともあれ、まずはその前提で考えてみるか…ブツブツ…)

そこへクロロが近づいてきた。

クロロ「おい、コン太!ボケっとしてないでよ、さっさとアルマ・・・なんだっけ?
あの動物、捕まえにいこうぜ! 」

コン太「いやいやいやいや!おまえ、こんなおかしな状況なんだぜ!?なんとも思わないのかよ!ちょ、ちょっと頭の整理ができてからにしてくれ!」

クロロ「何言ってんだ、オレだって不思議だと思うけどよ、どんだけ考えたって、始まんねえぜ!
このジャングルにいるのは確かだし、とにかく試験をクリアしなきゃいけねえだろ?やることをやるしかねえさ!」

コン太「・・・!!!(クロロ、ただのバカかと思ったが・・・一理ある。ううむ、俯瞰して考えれば、こいつの言うことは確かにその通りだ。催眠だろうが現実だろうが、まずはやることをやるしかない。
しかし、とはいえとんでもない楽天家なのか、肝が座っているのか・・・。いや、一周回ってただのバカかもしれない!
とにかく、他の受験者も混乱している中だからこそ先手を打てるチャンスだ。この状況を無理矢理にでも受け入れるしかなさそうだ・・・)」

(ごそごそ・・・)
コン太はスマートフォンを取り出した。

コン太「・・・!電波もGPSも繋がる!!!」

コン太の頭の中
(つまりは、古代にようだな!うむむ、そして。幻覚や催眠というよりは、巧妙なトリックと考えたほうが良いかもしれない。いつの間にか眠らされていて、全員が異国の地に移動させられたとか。その線か!それなら電波が繋がる点も納得がいく!組織が音速機でも保有していれば数時間での移動も可能だし。
ふふ。謎に見えても、一つ一つ紐解けば解決は可能だ!
よし、そうすると、やはりこの試験は化石発掘!やるべきことは化石発掘だ!
発掘となると、まずはアルマジロウスが生息した場所を特定したほうが良い!そうだ巣だ、どういったところに巣を作っていたか。ネットでとにかく調べまくろう!巣の場所を徹底的に洗えば、試験のミッションである鎧の一つや二つ、きっと埋まっているはずだ。まずは場所を・・・!)

クロロ「おーい、おい、コン太!」

コン太「(ぶつぶつ)なんだ!いま巣の場所を洗い出しているところなんだぞ!」

クロロ「巣を探さなくても・・・・・・!」

コン太「・・・え?」

クロロが指さした向こう、シダの木々の奥から何やら土煙のようなものが舞い上がっている。

メキメキッ!ドッシーン!

樹木が倒れ、潰される音が響く!


モーリー「・・・みなさん、気をつけてくださいね。はいま繁殖期。オス同士が激しく争っています。
巻き込まれないよう、十分注意しながら立ち回ってくださいね。この試験には何の保証もないですから」

黒づくめの少年「・・・」

コン太「あ、あああ・・・!そ、そんな!か、化石発掘じゃなかったのか?やはりここはジュラ紀なの?ど、どうなってんだ!?」

モーリー「・・・ふふふ。まあ、細かい説明は、合格した際にでもお話ししましょう。
ただし、これだけは断言しましょう。いま、あなたたちが対面している状況は全て、です。。受け入れてください。・・・それよりも・・・」



-  アルマジロウス  -



メキメキメキ!
ズズズ・・・ン!

音が近くなってきている!

ゴゴゴゴゴ・・・

大地が震え始めた!そして・・・!

グォーーー!

轟音!

のようなものが、凄まじい速さで目の前を横切る!
生えていた樹木が薙ぎ倒され、衝撃で近くにいた受験者がふっとんだ!

「うわあ!」「ぎゃあ!」

ブオワッ!!!土煙が吹き上がる!

クロロ「ううっ・・・!!!あ、あれは!?」

モーリー「です。猛スピードで見えなかったかもしれませんが、身体を丸めて、無数の鱗のような鎧で地面を掻いて加速し、回転して突進する!これが彼らの争い方です。かなり激しく、繁殖期のピークではというケースもありました」

・・・ドドン・・・ズズン・・・

先ほどの1匹がやってきた方角から、重くて鈍い音がいくつも聞こえる。

モーリー「・・・ふむ、あちらが彼らの縄張りみたいですね。激しく争っているようです。
良かったですね、いっぱいいて!取り放題じゃないですか!」

コン太「あ、あわわわわ」

モーリー「さて、と。もう試験は始まっていますよ。手法は問いません、アルマジロウスの鎧のカケラを手に入れ、先ほどのホールに戻ってきてください。
あ、ちなみに、途中でリタイヤ希望の方も、ホールにから戻ってくださいね」

「お、俺にはついていけん・・・り、リタイヤするぜ」
「お、俺もだ!こ、こんなとんでもない!命のほうが大切だぜ」
数名の受験者がドロップアウトを宣言し、戻っていく。


そこへ一人の女性がモーリーの元に近づいた。

長い黒髪にぱちっとした目。童顔だが、スラっとした8頭身スタイル。タイトな黒のミニワンピースを纏っている。

***「ねえ、リタイヤするときって、記憶を消したりするの?」

モーリー「記憶? いや、さん、そういったことはしません。別に、受験者の方が今日あった出来事を各所にリークしたり、この場所を特定して調査を始めたり、そんなことをしても、我々にとってはから」

ペンネ「あら、そう・・・。記憶消すの、せっかくいい薬があったからオススメしようと思ったのに」

ペンネと呼ばれた女性は、つまらなそうに離れていった。

コン太(せ、セクシー!ご、合格したらあんなコがいっぱいいるのかな・・・わ、わくわく。で、でも何者なんだろうか・・・)


モーリー「そうだ、みなさん言い忘れていました。試験の制限時間です。
えっと、今が11時30分なので・・・13時までです!それまでにホールに戻ってきてください。
時間厳守ですよ、鎧のカケラをゲットできても、戻って来れなかったり、ましてや死んだりすれば不合格ですから・・・」

コン太「し、死ぬって・・・そんな」

クロロ「・・・さっきの見たろ。あんなんに巻き込まれたら一溜まりもないぞ」


メキメキメキ!ズズズ・・・ン!

クロロ・コン太「!!!」

大地を揺るがす振動!
先ほど横切ったアルマジロウスが戻ってきたようだ!

グォーーー!

雷のような轟音が耳をつんざく!

クロロ「コン太!あぶない!」

コン太の目の前をアルマジロウスが駆け抜ける!咄嗟にクロロがコン太の腕を引っ張り、寸前のところで躱す!

コン太「あ、あわわわ。ぼ、ボクもき、棄権しよかな・・・」

クロロ「ばっかやろう!早すぎるだろ!よし、まあ見てな」

クロロは周りを見渡すと、ソフトボール大くらいの石を見つけた。

クロロ「なんか、すんげえ怪獣みたいなやつだけど、ああいうやつほど見掛け倒しの場合もあるからな」

コン太「お、おい何をする気だよ」

クロロ「ものは試しさ!いくぜっ」

クロロは石を持つ手に力をこめて、思いっきり振りかぶった!

クロロ「でらあっっ!!!」

ブンっ!!!

思いっきり石を投げ飛ばした!

グオーーーー!

空気を切り裂き、すざまじい速さでアルマジロウスに向かって飛んでいく!
木の枝や葉を吹っ飛ばしながら、グングンスピードをあげていく!

グググ!
まだまだスピードが上がる!

そして!

ガッツン!!!火花が上がる!

しかし…!

石はアルマジロウスに命中したが、あっさり弾き返されてしまった。

クロロ「あ、あらら。失敗かあ。まあそんなにうまくいくわけないか!あはは!」

コン太「お、おまえ。一体どんなバカ力なんだよ・・・」

クロロ「そりゃよ。にいちゃんに追いつくために、ぴー助といっぱい訓練したからよ」

コン太「ピースケ?なんだそのヘンテコな名前のやつは」

クロロ「ああ、友達さ!ビッグフットキャットの!」

コン太「は?(な、何言ってんだこいつは。ビッグフットキャットは世界一凶暴な動物の一種!うっかり縄張りに踏み入れて年間何人も行方不明になっている。いくら田舎とはいえ、友達はねえよ!だけど、クロロ、こいつがウソ言ってるとも思えない。こ、このやろう、のほほんとしてるが、とんでもないやろうかもしれない・・・ブツブツ)

クロロ「コン太!おい、おーい、コン太よう!」

コン太「(ぶつぶつ・・・)あ?なんだよ?」

クロロ「ごめん、

ギョギョギョ!!!

石を当てられたアルマジロウスが、木々を薙ぎ倒しながら方向転換をした!

コン太「!!!」

クロロ「石をぶつけられて、頭にきたみたいだな・・・。やっぱ、ちゃんと作戦立ててからのほうが良かったね!あはは!」

ズドン!!!

雷が何個も落ちたような轟音を響かせ、受験者たちがいるドア付近を目掛けて突進してきた!

「うわあ!」「に、にげろ!!!」「クソガキ!」「ばかやろー!」

罵倒と悲鳴が上がる!

モーリー「・・・。う、うむ、ちょっと私も身を隠しましょうか・・・。試験の模様はちゃんとみてますからね、安心してください」

受験者が散り散りに逃げだす!

コン太「こ、このばかやろー!は、はやく逃げるぞ!あわわ!」

クロロ「!!! よし! あそこの丘にいこう!」

受験者たちが出てきたドアの右手側、小山程度の丘があった。

丘の上には「」みたいにが聳え立っている。

クロロ「あの高い岩なら、登ってこれないだろ!下の様子もわかるかもしれない!」
クロロが丘に向かって駆ける!

クロロ「コン太!急げ!」

ドドン!
振動で、周りの小石が跳ね上がる!
アルマジロウスがすぐそこに迫ってきている!

コン太「うおおおお!!!」

コン太が全力で駆け出す!
コン太「死にたくないー!」

クロロ「はやっ!!!」

クロロを追い抜き、一瞬で丘の上の尖ったの頂上へ。

コン太「は、はあっ!はあっ!た、助かった」

クロロ「・・・コン太、おまえすげえな。足早すぎ・・・」

クロロとコン太がいる岩の頂上は、この一帯では一番高い場所のようだった。
下の様子が360°見渡せる。

土煙が先ほどいたドア付近から上がっている。アルマジロウスが暴れ回っているようだ、メキメキ、ミシミシと鈍い音がこだまする。

クロロ「ふう、危なかったなぁ。でも、思った通りだ!ここなら安全だし、周りの様子が見えるぜ!よしコン太、作戦考えてくれよ!」

コン太「ばっきゃろう!なにが作戦だ!危ねえことしやがって!し、死ぬかと思ったぜ、本当に!」

クロロ「あ、あはは、ごめんごめん。そんなにギャアギャアわめくなよ~」

コン太「わ、わるびれてないな~このヤロ~! 」

クロロ「あはは・・・!・・・ん!?お、おいコン太!あれは!」


例のが!
ドアのところで立ち止まったままだ!

コン太「お、おい嘘だろ!なんで逃げてないんだ!も、もしかして腰が抜けて逃げ出せなかったとか?」

ドドン!

クロロ・コン太「!!!」

轟音と共に複数の土煙がドアの方へ向かって走っている!

クロロの投石がきっかけで、を呼び寄せてしまったようだ。

コン太「あ、あいつ、やばいぞ!このままだと!2・・・3・・・!さ、3匹も!あいつのほうへ向かってきている!」

ドドドドドド・・・!
3本の土煙が、黒づくめの少年に向かって走る!!!

しかし、少年は腕組みをしたまま、まったく微動だにしない!


クロロ「お、おーい!何をしてんだ!は、はやく逃げるんだー!」

轟音が迫る!

黒づくめの少年は薄く笑みを浮かべ、おもむろに腕組みをほどいた・・・


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