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2 怖い……
しおりを挟むニュースでは、山に不時着したと思しき円盤が回収されていく映像が流れる。
「俺の円盤が……」
お茶を飲みながらテレビを眺めている生き物に声をかけた。
「おーい。飯運ぶから、机の上のものどけて」
湯呑をずらしてくれた。
ちゃぶ台にトレイを置くついでにテレビに目を遣る。
「ああ。あの円盤か。取り返しに行くの?」
水銀髪の男は左右に首を振った。
「いや。いい……。どうせ俺以外が触っても反応せん」
「そう?」
手を合わせると、卵焼きを口に運ぶ。うんまい。
隣の青年はミチ。どうやら不時着(本当に不時着したらしい)した際に翻訳機が壊れ、意思疎通出来なかったかららしい。子どものフリをしていたのは、ミチも俺がどんな生物か分からずに戸惑っていたから。ひとまず弱いフリをしていたようなのだが、可愛かったからまたあの姿に戻ってくれないかな。
「でも帰るために、必要なんじゃないの? あの円盤」
「気にするな。どうせ地球をぶらついていく予定だ」
なんで青年になっているのか聞いたら、俺(ほとり)に合わせたって……
俺より背ぇ高いし俺よりイケメンだし俺よりいい声なのに? どこを合わせたんだ言ってみろ。あとで眼科でも連れて行くべきか。
顔面が日本人離れしている銀髪の男。雑誌から抜け出してきたようなスタイルだが、着ている服はジャージ。体格良すぎて、俺の服がこれしか入らなかったのだ。
下半身蛇男はちゃぶ台に頬杖をつく。
「しかし遠くの景色がリアルタイムで表示されるとは。この箱は優秀だな」
蛇の尾が感心したようにぺしぺしと床を叩く。穴開けないでね。
「テレビの事か? お前、宇宙人でしょ? 宇宙人って大概、人間より科学力ぶち抜いているもんじゃないの?」
ミチは不思議そうな顔をする。
「ん……? そんな頻繁に宇宙人がやってくるのか? ここ(地球)は」
「あ、いや。なんとなく。ほら、宇宙空間を移動するって、高い技術力と化学力が必要だろ?」
ずずっと味噌汁をすする。熱い。
「なんとなく感じていたが、宇宙を理解できている時点で君たち人間も相当だな」
「でもミチの方が、文明進んでるんだろ? な? そうなんだろ?」
「……なんだか、そうであってほしそうな物言いだな」
だって! 宇宙人が地球より進んでるってロマンじゃん! やだよ俺。地球より科学進んでない宇宙人なんて。
自分勝手な思いと共にずいっと詰め寄ると、ミチは呆れたような苦笑を滲ませる。元が良いからか、困ったような表情でも抜群に魅力的だ。思わずまじまじと見てしまう。
頬杖を解くと、ミチは顎を掴んできた。
「え?」
「なんだ? 好戦的なのだな」
背中を冷や汗が滑り落ちた。ミチの瞳が蛇のそれに変化する。刺激しないよう、クマと遭遇したような慎重さで元の位置まで下がった。
「あ……」
「ん? 怯えているのか? ああすまない。見つめられるというのは、俺たちからすれば喧嘩を売っているのと同じだ。つい殺気立ってしまった。謝罪しよう」
日本で生きていれば滅多に感じない恐怖。トラックが突っ込んできた衝撃に近かった。でもそうだよな。こいつはこの星の生物ですらないんだ。言葉が通じるからどこか、自分たちと同じだと油断した。
手が、震える。
「……」
「もう怒ってない。すまない。そんなに怖がるとは思わなかったんだ」
ミチは無理に近寄ってこなかった。無害を示すように両手を上げて、申し訳なさそうな笑みを浮かべる。
「子ウサギのように怯えて。随分、可愛いんだな。ほとり。地球にいる間、俺が飼ってやろうか?」
ミチの口から蛇の舌がちろりと覗く。俺の本能が警鐘を鳴らしまくる。さっさとこの場から逃げろと。人間の姿を真似ているだけで、目の前の生き物は何もかもが自分たちとは違う。表情も、俺には笑っているように見えるけど、こいつは笑ってないかもしれないのだ、
「うわっ!」
咄嗟に部屋を飛び出した。怖い。今まで普通に横にいたのが信じられない。
裸足のまま廊下を走る。
とにかく逃げて、警察に――
靴も履かずに飛び出そうとして、ドアノブを掴もうとした手が止まった。
「?」
動かない。それどころか足も。指一本動かせない。
「……な、なんで……」
「どこへ行く。ほとり。出かけるのなら、俺も連れてってくれ」
背後から、蛇が這う音がする。
「ミ、ミチ?」
首だけでも動かして振り返ろうとしたが、やはり無理だった。
後ろから、そっと抱きしめられる。
「先ほどの質問に答えておこうか。期待に添えなくて申し訳ないが、俺に突き抜けた化学力はない。君たちとそう変わらないだろう。だが俺にはこの力がある。地球人風に言えば念動力……といえば分かるか?」
ミチの右手が首に添えられる。
「俺の前では、生きている限り自由に動けない。例えどんなことをされても」
左手が腹を撫でた。吸血鬼のような、鋭い爪の手で。
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