拾った子どもが翌朝、イケメンに変わっていた

水無月

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12 感情が伝わってくる

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 俺を見下ろすミチの目は、対等な他者に向けるものではなく、愛玩動物でも見ている眼差しだった。

「やだ……」

 ぶるっと震え、鳥肌が立つ。


 気まぐれに、ミチの指が離れた。満足したのかもう興味を無くしたように、画面を眺めている。


「……」

 急に放置され、怒りが羞恥と湧いた。

「なんだお前は!」
「ミチです」
「くすぐったいだろうが」
「何故怒っている⁉」

 押し倒してやると、思ったより簡単に倒れた。開きっぱなしのパソコンを片手で死守しているところから、精密機械なのは理解しているようだ。

 可愛斗に聞こえないように囁く。

「人前で変身するな、力も使うな。いいな?」
「喉か? 首を触られるのが嫌なのか? どこならいいんだ?」


 ミチの指が耳に触れる。

 パソコンを引っ手繰って逃げた。

「触るな!」










 ミチに触れられただけで、どうして俺はあんなに取り乱しているのだろうか。


 パソコンをテーブルに置き、台所で頭を抱える。イケメンだからか? 可愛斗が言っていたようにイケメンだからなのか。


「ほとり。不快にさせたか? 怒っている理由を教えてくれ」
「ほとり~。構ってくれよぉ」

 台所の入り口から、銀髪と人間が顔を覗かせていた。その表情は飼い主を怒らせたわんこのようで、垂れ下がっている耳の幻覚が見える。

 つい苦笑してしまう。

「あ……んでもないよ。カッとなっちゃって。俺の方こそごめん」
「ほとりが謝る事あったか?」
「そうだぜ。ほとりも反省しろよ。ほとりの飯のせいで体重二キロも落ちて、女の子に声かけられるようになったのに。急に放り出しやがって。最後まで俺の面倒見」

 ピシャン! とあほは締め出して、ミチと二人で話す。



 雨音がトタンを叩く音が響く。


「ミチの正体がバレないか、ピリピリしちゃって」
「そうだったのか。それなのに俺は、あまり気にしていなかった。すまんな。お前は寄り添ってくれたのに」


 やめてくれ。俺が騒ぎになられると嫌だからやったことなんだ。違うんだ。そんな顔させたかったんじゃない。


 スライムを肘でつつく。

「てかさ、ミチ。お前が一番、正体バレを気にしろよ」
「うーん。いやまあ、そうなのだろうけど。どうせ地球人は気づかないフリしてくれると思ってな……」

 ま、まあ。絶対マジックの類か何かだと思うだろうけども。

「それと言っておくけど。俺は、触られるのはあまり好きじゃない。念動力まで使って」
「? 俺のほっぺはあれだけ……」
「それはごめん‼ お、俺も、ほっぺ触って良いから!」


 自分でびよーんと顔を伸ばすと、ミチが指を近づけてくる。そっと頬に触れた。


「ほとりは、姿は変わらないんだろう?」
「年老いてはいくけどな……」
「鳥になったり魚になったりはしないんだろ?」
「うん」
「これがお前の本当の姿か……」


 額を額にくっつけてくる。

 ち、近い……。逆に何も見えん。

「な、何?」

 わずかにのけ反って距離を取る。

「ほとりに触れていると、お前の感情が少しだけ伝わってくるんだ」

 それは俺も、感じていた。

「お前に触れるのは、駄目か?」
「っ……ま、あ。手とかなら、いいよ」
「ほっぺは?」
「あ、どうぞ」

 項に手を添えると、頬と頬をくっつけてくる。ちょちょちょ、近い! とんでもなく近いっ‼ 息がかかってしま……


「くぅんくぅん」


 ミチと振り向くと、すりガラスの向こうに泣いている奴がぼやけて映る。雨の日に、外に出されたわんこのように扉をカリカリ掻いていた。

 ――鍵閉まってないから入ってくればいいのに。かまってちゃんがよぉ……。

「いいのか?」
「ほっとこう。何かあれば入ってくるだろ」

 腕を組んでいると、ミチが手の甲に触れてくる。

「え?」
「人間はぬるいな。ぬるま湯のような温度だ。俺とは違う」
「ミチは、あったかくも冷たくもないな。不思議な感じだ」

 にこにこ笑っている。肌に直接触れているからか、機嫌がいいことは伝わってくる。

「でも、海。見終わったら帰っちゃうんだろ? 寂しいな」

 悲しいことに同年代の友人がすりガラスの向こうのあほしかいないのだ。可愛斗より話の通じるミチと別れるのは物凄く、寂しい。


「あ、いや、その! 帰るなって言ってるわけじゃなくて!」

 湿っぽい空気にしてしまったと顔を上げるが、ミチはにぱっと笑った。

「また来るって。三千年後くらいに」


 彼はあんまり寂しくなさそうだった。


「……多分、人類滅んでると思う」
「そりゃ残念だ」


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