拾った子どもが翌朝、イケメンに変わっていた

水無月

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赤髪編

12 ほとりの癒しグッズ

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〈ほとり視点〉


「ぼああああああ‼ ばがっおまえっ! じんばい、がげやがっでぇえええ……。おれ、俺!」
「あーごめんって。よしよし」

 応援している球団が惨敗したときのように泣いている可愛斗(きゅうと)をあやす。ミチの話では俺がいなくなったことに真っ先に気づき、頑張ってくれたらしい。

 抱きついてくる可愛斗の後ろで、ミチが砕けたスマホをルンバさんに差し込んでいた。


 焼き上がったトーストのようにぽんっとスマホが飛び出てくる。蜘蛛の巣状に入っていたヒビがきれいさっぱりなくなっていた。……え?


 ミチが大泣きしている男の肩をちょんちょんと叩く。

「可愛斗。ほれ。スマホ直ったぞ」
「はあ? 素人に、ずびっ、スマホが直せるわけっ、ないだろ……なんで?」


 手のひらに置かれたスマホはピッカピカだった。壊れる前より輝いている。


「すげぇ‼ でも。ど、どうせデータは消えてんだろ?」

 鼻水を垂らしながらスマホ操作をする。保存したものすべてそのままだった。

「神か! 神なのかお前‼」
「鼻水を拭け」

 タックルの勢いでがしっとミチに抱きつく可愛斗。

 俺は信じられずお掃除ロボットをつつく。

「えー? すごいじゃん。ルンバさん」
『ありがとうございます。ほとり様』

 和気あいあいとする室内。

 平穏に戻れたはずなのに。

 俺は自分の胸を押さえた。

 誘拐されて家に帰ってきてから三日経過しているが、どうにも胸がもやもやする。


「可愛斗。飯作るから、泊ってく?」


 可愛斗が耳を疑いながら振り返ってきた。


「ダニィ⁉ いいのか?」
「うん……。お前がいるとうっせぇし。ちょっと馬鹿みたいに騒いどいてくれないか? なんか、一人になると不安で……。静かなのが、いやだな」




 心の傷はルンバさんでも癒せなかった。俺はすっかり、一人で外出もできなくなっていたのだ。買い物はミチや可愛斗に頼んでいる。




 うつむく俺に、無理に笑顔を作った可愛斗が覗き込んできた。

「カラオケパ(カラオケパーティー)でもする? 夜通し歌っちゃう?」
「そんな元気ないからいい。お願いだから、帰らないで。ここにいて」

 可愛斗とミチの服を掴んで引き寄せると、まとめて抱きしめた。

「「……」」

 引きずられた二人は顔を見合わせると、背中や頭を撫でてくれる。

「お、おう。俺で良ければ、いつまでもここにいるぜ! 三人でよ、布団で雑魚寝でもすっか? 修学旅行みたいに、コイバナしちゃう? 盛り上がろうぜ」
「修学旅行か。可愛斗はどこに行ったんだ? 海か?」
「なんで海? 俺はソールズベリーに行ったって。タコスがうまかったなー」
「ソースベリーでタコ焼き食べたのか? 何県だ?」
「何もかも違う! イケメン野郎。知らないのかよ。イギリスだよイギリス。飛行機で一瞬だったぜ。俺、飛行機無理過ぎて気絶してたから」

 ぐっと親指を立てている。

「自慢げに言えるところに尊敬する」
「馬鹿にしとんのか! 俺は高いところがだなー」

 俺に気遣ってくれているのか、ミチと可愛斗はずっと話し込んでくれていた。


 俺は遠慮なく二人に抱きついてくつろぐ。ミチの膝を枕にして、可愛の腕を抱き締める。俺が放さないせいで可愛斗は辛そうな体勢のままだったが、構わず話続けていた。
 


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