拾った子どもが翌朝、イケメンに変わっていた

水無月

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夏の一幕

5 籠城中

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 円盤の噂を聞きつけた人だかりができている。動画でも取るのかスマホ片手に、人が山に入っていくのがちらほら見受けられた。私有地であるというのに、だ。

 近くにある我が家も被害を被っている。早朝から呼び鈴が押されまくっていた。

 「円盤を見ましたか?」「少しお話を」「何か知っていますか?」「変な生き物など目撃しませんでしたか~?」など。夏なのに窓を閉め切って、カーテンまで閉じている。少しでも顔を出すとカメラを向けられるので籠城しているのだ。


「うぜー」


 ベッドにもたれて座っている俺にもたれている可愛斗が盛大にぼやく。俺も同じ気持ちだ。

 スマホの待ち受けをチラ見する。


「母さんに連絡して迎えに……んーでも家帰るのもあれだしなぁ」
「宿でも取って、そこに避難しているのは駄目なのか?」

 ミチが部屋に入ってくる。手には赤い三角の入ったお皿。

 可愛斗が目を輝かす。

「おっ、スイカじゃん!」

 スイカに飛んでいく可愛斗。

 ちゃぶ台に皿を置くと真っ先に食べだす。

「つめてー」

 人数分の麦茶も入れてくれているミチの横に座る。

「一日二日程度ならいいけどさ。何日もとなると、お金が流石に」
「そういうものか。俺も何か、稼げたらいいのだが」

 頬にスイカの種をくっつけた可愛斗が嬉々として茶々を入れてくる。

「その顔面で稼いでこいよ。モデル、とか…………」

 言葉の途中で、俺と可愛斗は顔を見合わせた。この、クソダサ高校ジャージでも眩いほどの輝きを放っているミチに、モデルの服を着せる……?

 スイカ片手に可愛斗が突っかかる。

「やめろお前! イケメンはなるべくダサい服を着て影に生きろという法律を知らんのか!」
「謎の法を作るな。言い出したのはお前だろうが。なんなんだ一体」

 はは、と苦笑する。

「ミチは気にしなくていいよ。貯金ならまだ可愛斗のがあるし」
「そうそう! 俺の貯金が……ってなんでだよ!」
「ナイスノリツッコミ」


 室内プールに行く予定だったが、変更した方が良さげだな。気持ちの良い疲労感で帰ってきて、まだこの人だかりだったら倍疲れる。


 男三人で籠城はキツイ。閉め切っている点が特に。

 俺もスイカに口をつける。

 赤い実が歯に押されしゃりっと崩れた。

「お、このスイカ甘いね」
「そうか」
「イケメン野郎は食わねーの?」

 行儀悪くちゃぶ台に肘をついている可愛斗がミチに話しかける。

「汁だけでいい」
「なんだそれ。あ、種取るのが苦手なんだろ? 冷蔵庫にスイカジュースあったから、持ってきてやるよ!」

 スイカを置くこともせず、台所に走って行く。

「二十歳とは思えんわんぱくさだな」
「……ミチは、可愛斗みたいなやつどう? 苦手? 仲良くなれそう? 無理に仲良くしろとは言わないけど」

 銀の髪を振る。

「お前に危害を加えないというだけで好ましいさ」
「そんな、俺を中心に決めなくていいんだよ?」
「大事な基準だ」

 きっぱり言われ、目線をスイカに移す。

「そう……」

 俺とミチの頬が赤いのは、スイカの色が映っているからかな。


「無かった! そうだった。俺が飲んだんだ昨日!」


 スライディングで戻ってくる。俺も、可愛斗は家のどこに居てもやかましいので嫌いじゃないよ。

「スーパーで買ってくるわ。ほとり。チャリ貸して」

 俺の自転車は前輪が凹んでしまって、平らな道を走っていてもガタガタと揺れる。おまけにハンドルも傾いたので、真っすぐ走ってもどんどん右に曲がっていく。それなのにミチと可愛斗は器用に乗りこなしていた。


「いいよ」
「ついでに何か買ってくっか?」
「買い出しは三人で行こう。量多いし。可愛斗はスイカジュースだけ買っておいで」
「じゃ、アイスも買っちゃお~」


 でででと廊下を走って行く。玄関の扉を開ける音と「お前ら散れ! 邪魔」という声が聞こえた。


「あの人だかりに突っ込んでいけるの羨ましい」
「ほとりは人数多い方が良いんじゃないのか?」
「そうだね。まだ一人になるのが怖いよ。ミチや可愛斗に横に居てほしい。でもそれは、親しい人限定だよ。あの人たちは円盤に夢中で、ミチみたいに俺に気遣ってくれるわけじゃないし」
「そう、だったのか。では散らしてくるか。ほとりの役に立たないのなら鬱陶しいだけだしな」

 よいせと席を立ったジャージを掴む。

「どうした?」
「だから俺中心に……。その前にどうやって散らすのか教えてほしい」
「どうって……こう。暴力で」

 握った拳で空気を殴っている。はい駄目ー。

「迂闊に人を殴っちゃダメ!」
「んむ。ではどうする?」
「……いいよ。放置で。そのうちどこかへ行くさ。人って興味がうつろいやすいし。あ、でも夜になっても騒いでいたら追い払ってほしい」


 ミチは得意そうに腰に手を当てる。


「任せろ。ほとりの役に立てると思うと嬉しいな」
「馬鹿だなー……。ミチはただ、居てくれるだけで、俺は十分だよ……」

 我ながら蚊の鳴くような声量だった。
 
 静寂が降りてくる。


 え? なんで黙るの? 恥ずかしいから喋ってくれ。



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