全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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惨劇に挑め

14 ハートエプロン

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 キャットがムギに料理を教えることになると、アクアとファイアもやりたいと言い出した。アクアはオーシャンドームを模して作ったスープがいたく気に入った様子。アクアがやりたいと言うとファイアもセットでやってきた。

「おれは一度デザートを作ったことがあるんだよ」

 と、自慢げに言いながら混ざって行った。……エイオットも。
 上達してくれることを切に願う。

「さて」

 子どもたちがうまい具合にキャットのとこに行ってくれたので。

「俺は稼いでくるわ。ごっちん。何か買ってきてほしい物はあるかい?」

 ごっちんは腕を組む。

「子どもたちに一言言っていかないのか?」
「すぐ帰ってくる。子どもらに聞かれたら出かけていると言っておいてくれ」
「一言ないと寂しがるんじゃないか?」
「今声をかけてもしついてくると言い出したら長いからね」
「出発する前には顔を見せるものだろう?」
「置手紙でもしていくから」
「まだろくに読み書きできないのにか?」

 主人はとぼとぼと厨房へ向かう。

 厨房には子どもたちが全員集合しており、エプロンに着替えているところだった。

「あ、テメェ」

 キャットが目ざとく俺を見つけ近寄ってくる。

「おい。ガキ共のエプロンはこれしかないのか?」
「ない」
「……ああそう」

 針でチクチク一週間かけて(一枚)作ったハートフリルエプロンだ。身体の大きさに合うようにS・M・L・LLを用意したぞ。

「妙に可愛らしいが。ドスケベ衣装よりかはマシか……」
「なんだい? キャット君もこういうエプロンが良いのかい? しゃーねーな。用意してやろう。3Lサイズ。肉球柄でいいか?」
「……」
「閉めんな閉めんな」

 厨房の扉を閉めて締め出されそうになった。

「ごしゅじんさま! 見てこれ。可愛いでしょ?」

 赤いハートに白いフリルのエプロンを装備したエイオットが駆け寄ってくる。

「ど、どうして服を着たままエプロンを着けているんだ⁉」

 オタマで殴られた。
 エイオットは気にせずくるんと一回転サービスをしてくれる。

「どおどお? 似合う?」
「似合うぞ。愛らしすぎて愛らしい以外言葉が出ないほどだ。赤い色も似合うな」
「えへへー。でしょー?」

 むぎゅうと抱きついてくる。俺も抱きしめ返す。
 キャットは真面目に心配するように眉を下げ、エイオットの肩に手を置く。

「よせ。それに不用意に抱きつくな。腹を壊すぞ」

 因果関係を説明しろ。

「そんなことないよ。ねえ、ごしゅじんさま。ごしゅじんさまもドームスープ作りに来たんでしょ? 一緒にやろ?」

 笑顔で腕を引っ張ってくる。(楽園の)仲間に入れようとしてくれている。んああああんもおおおん。だからさっと出かけたかったんだよおおお。これを断らないといけないとか、一億ギルをドブに捨てるより辛い。

 主人は引きずられながらも首を横に振った。

「いんや。俺は今から出稼ぎに行ってくるから。きみたちはキャットの言うことをよく聞いて、火傷や怪我をしないように料理するんだよ?」
「っ」

 火傷と言う言葉に、ファイアが反射的にアクアの青いハートエプロンを握りしめる。
 気づいたアクアは体の向きを変えるとしっかりと片割れを抱きしめた。

「怖いなら、無理すんな」
「でも……」
「俺の後ろにいろ」
「……うん」

 ピンクハートエプロンのファイアもしっかりしがみつき、頷く。将来アクアがモテそうで楽しみだ。

「ごしゅじんさま。また誰か連れて帰ってくるの?」

 口を3の形にしたエイオットが後ろで腕を組む。なんだその可愛い口は。

「いや。今回は金を稼いでくるだけだ」
「……早く、帰ってきてよ?」
「約束しよう」

 前みたいについて行くと言わなくなったな。仲間が増えたからだろう。
 抱きついてくるエイオットをくっつけたまま、主人はムギを振り返る。彼は唯一、フリフリハートエプロンに対して恥ずかしそうにしていた。赤い髪が映える緑色エプロンがイスにかけてある。

「ムーギちゃん。料理の際はエプロン着けようね?」
「可愛すぎるので、ちょっと……。執事のお兄様もエプロン着けていませんし」

 そりゃ単純にキャットのエプロンを用意してなかっただけだよ。俺が。

「ほら見ろ。お前がネジの外れたエプロンしか用意してないから」
「うるせーぞ執事! ハートエプロンはエプロン界の重鎮だろうが! 料理は愛情! ならばエプロンがハートの形をしているのは自然なことなんだよ」
「料理はレシピ通りに作れば出来るだろうが。愛情とかなくても」
「あんだテメーは! 『萌え抽入』というメイド喫茶文化を知らんのか⁉ あれマジで美味くなるんだぞ」

 なんじゃそりゃ……みたいな呆れた台詞が聞こえたが、主人は執事に背を向けてムギを説得する。

「ムギちゃん! 絶対似合うから。着てみよう? 一回着てみよう? 着る前から嫌がるなんて。一週間の努力を無駄にする気かい?」
「お前の努力とか雲の形くらいどうでもいいわ」
「しゃしゃんな! 俺がムギちゃんと会話してんだろがい」

 キャットは駄目だこりゃ……と、材料の準備をしていく。

「うう……」

 泣きそうに眉を下げて下唇を噛むムギを庇ったのは、エイオットだった。アリクイ威嚇を連想するポーズで俺の前に立つ。

「ごしゅじんさま! いじめちゃ駄目だよ」
「エイオットさま」

 ムギが驚いたような顔をエイオットの背に向けている。

 おおおおお。さっきまでギスってたのに。流石はエイオット。優しく清らかな心の持ち主だ。

「そうだな。俺が悪かった。エプロンは跳ねる油や火から保護する意味もある。出来れば着けてくれると嬉しい。では俺は行ってくる」

 背を向けるとアクアとファイアが寄ってきた。

「お土産買ってこいよ!」
「おや。何が良いかね?」
「あの、バスケットの中で食ったやつ!」
「……?」

 ん?
 ああ。
 テナス(鰻モドキ)か。

 キャットに買ってある? と目線で聞くが、首を横に振られた。水路の街では売ってなかったっけ? 無かったのなら仕方ない。

「オーケーオーケー。分かったよ。ファイアは? 何か欲しい?」

 両手で彼の頬を挟み込み、たぷたぷと弾力を味わう。うほほ。肉だ。肉がついてきた。そろそろだな。バニー服デビューも。

 ファイアの頬を堪能しているとアクアに引き剥がされる。

「こりゃ! ファイアが泣いたらどうすんだ!」
「その時はきみが泣き止ませてあげてね」

 子どもたちが元気だ。ご飯を食べてエネルギー補充をしたのもあるが、厨房にいるからだろう。ここから地下の冷凍倉庫には、階段で一直線だ。そのため漏れ出た冷気で厨房が一番冷やされる。ようは涼しくて快適。

 厨房は火を使うから、飯を作る人が熱中症になってはいけないと思ってね。……心配いらなさすぎる奴が飯炊きになっちゃったけど。

 アクアはファイアにちゅっちゅしている。……猫が、飼い主が撫でたところを舐めるアレに似ている。

「ぼくは、特にないでしゅ……」

 満ち足りた顔しているな。心が満ちていると物欲が湧き辛いか。

「うむ。では行ってくる」
「ごしゅじんさま。悲しんでない?」

 おずおずとエイオットが声をかけてくる。
 俺がどうして悲しむのだ? いま、世界で何か起こったか?

「おれが威嚇しちゃったから……」

 思わず鼻で笑いそうになった。
 可愛さいっぱいのエイオット威嚇か。

「いいや。悲しくはない。だが、なかなかの迫力だったぞ?」
「! 本当? えへへ」

 キャットが甘やかすなと言う目線を向けてくる。いやー。きみの殺人威嚇と比べりゃなんでも可愛く映るだろ。
 では、今度こそ行ってくる。

「さらばだ」

 手を振り、すたたーっと厨房から消えて行く。うお。暑い。厨房から出るとあっつい。

 ――保護する意味もある。

「……」

 ムギはこっそりとエプロンのリボンを背中で結んでいた。



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