全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

文字の大きさ
70 / 189
惨劇に挑め

24 水晶種の代償

しおりを挟む


「ムギか。どうした?」

 ドアを開けてやると、怯えた表情の赤毛の少年が立っていた。ふむ。この子なら俺の魔法を突破できるのも納得だ。なんたって赤目だしな。
 ボロボロの羽もかなり数が増え、ボリュームが出てきたな。キャットの飯とごっちんのトリートメントマッサージの効果か。
 味見で倒れていたと聞いたが、回復したのか。

 下腹部を押さえているのであまり回復してないように見える。

「あの、エイオットさまのお姿が見えなくて……。不安になってしまって」
「よくベッド抜け出せたね。ごっちんかキャットがついているはずだが?」
「……? いえ。誰も……」

 主人は首を傾げる。なんやかんや面倒見の良いキャットと世話好きなごっちんがまとめていないなど。なにかあったか? たまたまトイレの時間が被ったとかそんなんだろう。
 それにしてもエイオットがいないと不安って、なかなか可愛いことを言うじゃないか。子どもたちが仲良くしていると幸せになる、俺が。

「エイオットならここで寝てるよ。あ、起きてるわ」

 ベッドの方を向くと黒い瞳がぱっちり。まだ枕を抱いて寝転んだままだがしっかりこちらを見ていた。俺と目が合うとふわんと尾が揺れる。何をしてても可愛いな。

「エイオットさま」

 エイオットを見つけ、ほっとしたようだね。

「入りたまえ」
「いいんですか?」
「? ああ」

 廊下と部屋の境目を数秒眺めたあと、えいやっと覚悟を決めて飛び込んでくる。両足ジャンプしちゃうのが可愛い。

「お、お邪魔します」
「はっはっはっ」

 可愛い行動に笑いが漏れる。
 そろそろっと歩き、エイオットに近寄る。

「エイオットさま。エイオットさまは、お腹大丈夫ですか?」
「うん。おれは平気だよ」
「……どうしてエプロンだけなのですか?」

 少年特有の滑らかな肌、腰からお尻にかけてのなだらかな曲線を見て、ムギちゃんが照れたように目を伏せる。……だからその表情はなんなの⁉ おじさんすっごく気になるよ。

 隣で目を真ん丸にしている主人が目に入っていないようで、ムギはゆっくりとエイオットに手を伸ばす。
 触れるか触れないかの力で頬を撫でる。

「エイオットさま。わたしはここにきて、日が浅いのです。エイオットさま。側にいてくださらないと、いやです」

 甘えるような声に、不安に揺れる瞳。
 カチッ。
 エイオットにお兄ちゃんスイッチが入った音がした。がばっと起き上がる。

「ご、ごめんね? おれ、ムギちゃんの近くにいるようにするね?」
「はい。……ありがとうございます。エイオットさま」

 床に跪き、エイオットの手に手を重ねる。見下ろすエイオットと見上げるムギちゃん。あれかな。ムギちゃんもしかしてすげー世渡り上手な子かな? あざといんよね……。里でも散々人の顔色窺ってたんだなーと思うわ。

「じゃ、エイオット。途中だけど看病に戻ってあげなさい。おそらくアクアとファイアも、きみがいないと不安がるだろうから」
「そ、そうかな? そう思う?」
「ああ」

 きっぱりと頷き、エイオットの自尊心や自己肯定感を押し上げてやる。これは生きていくうえでの土台みたいなものだからね。愛し方が分からなくとも、抱きしめて「愛している」や「きみが必要だ」と声をかけるだけでいい。と思っている。俺は育児がうまいわけでも得意なわけでもないからな。これしかできん。
 エイオットはぱさっとエプロンを脱ぐと、いそいそと服を着だす。急に全裸になったエイオットに、ムギはぱっと顔を両手で覆って背を向けている。ムギちゃんの反応も抜群に可愛いし、裸を見せることに抵抗がなくなったエイオットも素晴らしい。ほぼ裸のアラージュ衣装を着せた甲斐がある。

「んー。ちょっとお尻が。ぬるぬるするぅ」

 ぐいぐいとお尻の生地を引っ張っている。途中だったしな。

「拭いてあげようか?」

 ハンカチを手にニコニコ笑顔で近寄るも、ムギが間に入ってきた。

「ん?」
「もしかしたら何かの病気かもしれません! わたしも、お腹を壊したとき、じゅるじゅるの……あ、その……」

 何かを言いかけ、ぼっと顔を赤らめてしまう。

 ほほう。じゅるじゅるのなにがお尻から出たのかね?
 ん? んん? とにやけ切った表情でムギの顔を見ていると、ハンカチだけ取り上げられた。それで遠慮なくお尻を拭き始めるエイオット。『早く戻ってあげなきゃ』という思いで頭いっぱいになっているな。あ、そのハンカチは洗わずに俺にくださいね?

「じゃあね。ごしゅじんさま。行ってくるね?」
「おう。廊下は走らないように。ああそうそう。俺、これから出かけるから。留守番しておいてね」

 お尻がスッキリしたエイオットはお腹を心配するムギを引っ張って部屋から出ていく。うーん。双子にはバニー服として、ムギちゃんには何を着せようかな……ん?
 なぜか戻ってきたエイオットがひょっこっと顔を出す。

「どうした?」

 まさか留守番は嫌とか言い出すんじゃ……

「約束。忘れないでね?」

 それだけ言うとぱたたと走って行く。も、もちろん覚えてるよ。明後日になっちゃってごめんな。本来ならきみたちを一番に優先するんだけど……。
 まだ(陽光知らずの森外では)日が落ちていないのに、主人は変身を解く。背が伸び、髪は結われ、白のローブ姿に。

「……はあ」

 アゲハとデートの約束してるんだよな……。水晶種の代償は大きいぜ。

 白いローブを脱ぎ捨て、デート用の服に着替える。育児の時は外している涙型のイヤリングを耳につけ、ブーツを蹴り飛ばすように脱ぎ捨てる。

「あれ?」

 靴。どこやったけ? おお。あった。
 棚の一番下から靴箱を引っ張り出す。スニーカー。色んな靴を試したが結局故郷の靴に勝てる履物が無くて、知り合いの靴屋に細々とごちゃごちゃ注文を付けてやっと納得のいく一足を作ってもらったのだ。もう来るなと言う顔をしていたが旅人やスポーツをやっている人に売り出したら儲かったので、「また来てね」と手紙が届いた。なんだあいつは。元気でやってんのかな?
 この世界はシンプルな服が一般的だから、あまり着飾らないようにする。俺はデートの時はバシッとスーツで決めたい。
 ぎゅっと紐を結ぶ。

「はああ~~~」

 精霊に例えられる美貌の顔が精神的苦痛に歪む。なんで大人の姿を、着飾らねばならんのだ……。なんだこのセルフ拷問。俺が何したってんだ。ちょっと平和な里を襲っただけじゃないか。

「……行くか」

 窓を開けるとそこから外に飛び出す。すぐに飛んできてくれた三日月君に腰掛ける。目指すは首都『ブルーフェリシア』。

「ああ~。気が重い」

 気が重い青年を乗せた三日月は、夜空の中を駆けた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

処理中です...