全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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肆意

19 ヒルには代わりに報酬を受け取りに行ってもらっていたんです

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「あなたのせいでロイツが起きてしまったではないですか!」
「そんなっ。尻齧られたら誰だって悲鳴上げますよ!」

 よく分からないがレムナントに抱きしめられ、ご機嫌のロイツくん。

「ふふっ」
「あ、失礼しました」

 忙しい金ランクを放置して尻齧られた人と言い合いをしてしまった。
 もうお別れかと思うと寂しくて。のほほんと眺めている青年に、レムナントはそっと指を伸ばし彼のマントに触れる。
 椅子の上で持ち主の尻に踏まれクシャッとなっているのに、さらさらで気持ちいい。
 汚してはいけないので、本当に指先だけで触る。

(なんのモンスターの素材で出来ているんだろう……)

 もちろん全員に目撃されている。

「レムナント様……。好きな子の持ち物に触れたい初等部男子みたいなことしてますよ?」
「……」

 自覚が無かったのか、ロイツに言われ端正な顔が爆発的な速さで赤くなっていく。つられてアゲハも少し照れたような表情となり、アメンボに頬をつんつんされている。クリアは恨みだけで人を殺せそうな鬼の形相をしている。

 羞恥で麻痺したためずばやく動けず、のろのろと手を引っ込める。

「しゅ、すみません。勝手に」
「いえ。マントで良ければいくらでもどうぞ」
「……はい」

 笑ってくれたがマントよりその肌に、髪に触れたいと思うのは失礼だろうか。
 こうやって会話出来ただけで、満足すべきだ。
 眠気が取れたロイツはやっと見知らぬ人が金ランクだと気づいた様子で、口を開けたまま見つめてしまう。レムナントはロイツの口を手のひらで押さえる。

「このお方の魔力は吸ってはいけませんよ」
「ふごふご……」

 手首を握って剥がされる。

「僕を誰彼構わず魔力を吸う蚊だと思ってます⁉」
「あなたは蚊ではありませんよ」
「そ、そうじゃなくてですね」

 蚊と言っただけで青髪の人がすごく見つめてきた。僕は虫モンスターなんて使役していませんよ。
 虫がいないと分かると眉を八の字にしたが、何かを思い出したのかポンと手を打っている。

「あ、そうだ。レムナント様に渡したいものがあったんですよ」

 レムナントが高速で反応する。
 そわそわとアゲハを見つめるレムナントに、リーダーを取られたような気分のトゥームメンバーはムッと膨れる。

 アゲハが腰につけるポーチ型の収納鞄から、紫の布を取り出す。

「これを。良ければどうぞ」

 五秒ほどかけてから受け取り広げると、鳥の羽に似た模様が入った服だった。インナーのように薄いが、手触りが良い。色もきれいだ。

「これは?」
「俺の虫ちゃんたちの糸で編んだ服です。うっすいですけど、鎧代わりになるんですよ」
「……? おいくらで?」

 すでにぎゅっともらった服を抱きしめている。

「お気になさらず。これでも金ランクとして新人の面倒は見ているつもりなのです。全員ではありませんが、護石や薬草を見つけると新人に渡すようにしているんですよー。レムナント様だけ贔屓にしているわけではありませんので、ご安心を」

 大きいアメンボを銀の首飾りにしまうと、すっと腰を上げる。
 行ってしまわれる、と思い、焦って言葉を紡ぐ。

「アゲハさん。ギルドが発表してましたが、魔族は貴方が担当になったというのは本当ですか?」
「ええ。見つけ次第、俺が殺すので、レムナント様はもう忘れなさい」

 どうでも良さげな笑顔にずいっと詰め寄る。アゲハはわずかにのけ反った。

「そのことなのですが! 私も連れて行ってくれませんか。魔族の討伐に!」

 静寂が下りる。
 ロイツと、尻を摩っているクリアも目を丸くして固まっていた。
 アゲハもぱちぱちと瞬きする。

「えっと……」

 頬を掻いたアゲハが何か言いかけた時、「ぷっ」と声が聞こえたと思うと、ドッと笑い声が響いた。

「ギャハハハハ! 聞いたかよ今の」
「おふ……はははははは。腹いてー。ばっかじゃねぇの? 黒ランク如きが、ひひひひっ。金とパーティーを組めるわけねえだろ」
「とんだお馬鹿さんだぜ」

 聞き耳を立てていたらしい両隣部屋のハンターたちが、腹を抱えて笑っていた。
 キョトンとするリーダーに、クリアはやれやれと肩をすくめる。ロイツは笑っている者たちを見てむすっと半眼になっていた。

「レムナント様。お気持ちは分かるのですが」

 アゲハが何か言いかけるも、大きな声にかき消される。

「いるんだよ。ランクアップした途端、調子に乗る奴が!」
「ほほお。可愛いじゃねぇの。これは身体に教えてやらないといけないか?」

 レムナントとロイツを舐め回すように見つめてくる。金ランクがいるおかげで近づいては来ないが、落ち着かない。ロイツはレムナントを守るように抱きつく。
 クリアだけは無言で大口を開けていた。
 何故ならその視線の先に、人と同じサイズのヒルのような生き物が。静かに階段を上がってくる、のだ。
 ヒルは笑っているハンターの後ろから近づくと、頭からとぅるんっと丸呑みにした。
 二階だけ恐ろしいほどの静寂に落ちる。
 隣にいた相方がヒルに包まれたハンターは、眼球だけ横に向けて凍りついている。
 全員が固まる中。唯一レムナントが丸呑みにされたハンターを助けようと人差し指を突きつけるが、アゲハにさっと指を掴まれた。

「きゃっ」
「え?」
「……」

 アゲハの体温につい、乙女のような悲鳴を上げてしまった。犬も食わない顔で見上げてくるロイツに、レムナントはばっと口を押える。
 羞恥から泣きそうになるレムナントに、アゲハは聞かなかったことにしてくれた。

「大丈夫です。俺の虫ちゃんですから」

 何も大丈夫じゃなかった。
 アゲハは人差し指を立てると、唇にくっつける。

「俺が喋っているのにうるさいですよ。お静かに。でないと同じ目に合うよ」

 ぺっと吐き出されたハンターは装備を全て溶かされ、全裸だった。野次馬の女性ハンターたちが顔をしかめて去っていく。
 ハンターたちは熊と遭遇した時のように、後退りでそれぞれの個室に引っ込んでいく。
 全裸の人は、悲壮な顔の相方が引きずって行った。
 一仕事終えたヒルはアゲハにすり寄る。

「変なもの食べさせてすみませんでしたね」
『むきゅきゅ』
「こらこら」

 アゲハの頬をぺろぺろすると首飾りに消えて行く。

「……何ですか今の規格外にでかいヒルは。あんなのモンスターでもいませんよ?」

 青ざめているクリアに、アゲハは目を細める。

「可愛いでしょ?」
「え?」
「……」
「あっ可愛いです」
「そうでしょう? 奥地にしかいないモンスターなので、知られていないのも無理ないですかね……」
(そんなもん外に出すなって)

 怖いので口には出さない。

「レムナント様。邪魔が入りましたが、貴方は連れて行けません。危険だからね」
「しょ、承知の上です! 私はあの魔族が」

 人差し指が、レムナントの唇をふにっと押す。はちみつのにおいがした。

「……アゲハ、さん」
「聞き分けてください」

 見つめているとクリアの背中が間に入ってきて、ロイツがシャーッとアゲハを威嚇している。

「ふふっ。あなた方のリーダーにちょっかいかけてすみませんでしたね。それでは」

 忘れ物が無いか確認してから去ろうとするアゲハに、レムナントはクリアを押しのける。

「もう行かれるんですか? 私は、魔族をどうしても」
「もともとギルドには報酬をもらいに来ただけなので。……そんな顔しないでくださいよ」

 困ったように笑い、レムナントの緑の護石を指で軽く撫でる。

「ちゃんとレムナント様を守ってくださいね」

 誰に向けての台詞だったのか。レムナント自身か、トゥームの皆にか。……。

 それだけ言うと、身を翻し去っていった。
 青い三つ編みを見送っていると、両肩に手を置いたロイツが後ろから覗き込んでくる。

「どんなのもらったんです? 見せてくださいよ。ていうか、僕には何もくれないんですか! あの虫の人ぉ! 僕だって新人なんですけどっ」
「これ……。口を慎みなさい」

 ぷんっと膨れるロイツに注意しながら桃色髪を撫でると、気持ち良さげにごろごろと懐いてくる。
 緊張が解けたのか、クリアが「どっこいしょー」とソファーに腰掛けた。

「あー怖かった。いやあしかし。すごいのもらったな。それを装備すると、防御力は今のところレムナント様がぶっちぎりになるな」
「そうなのですか。それならもし皆さんが危なくなった時、私が盾になれますね!」

 ぱあっと嬉しそうな顔になるレムナントから、ふたりは顔を見合わせると紫の服を引っ手繰った。息の合った動きだった。

「なぜ⁉」
「正気ですかレムナント様! そんなことされたら僕がラーベナ様に『不良品が』と始末されますよ」
「レムナント様の顔に傷が残ったらどうするんです! その考えを改めない限り、これは返さねぇからな!」
「ちょ!」

 二人は服を持ってダッシュするが、レムナントが人差し指を突きつけ黒い球を生み出す。「吸引」によりクリアたちは掃除機に吸い込まれるようにレムナントの元まで戻ってきた。
 吸引力を消すとばたばたと倒れる。

「器用に吸引だけ使わないでください!」
「返しなさい」
「これが……愛の引力? レムナント様とは離れられないってこと? やだ、運命感じちゃう」
「死になさい!」

 何かほざいている青年をどかっと蹴とばし、少年から服を奪い返す。
 きれいに畳み、鞄の中に仕舞う。

「なんだよ~。面白くねぇなあ。大事にしちゃってぇ。レムナント様はああいう線の細い中性タイプが好みなのかよ」
「好っ⁉ ばばっば馬鹿じゃないですか⁉ 私は普段お茶らけているけど仕事は真面目にする人が……何を言わせるんですか!」
「ほほーう。つまり俺か」

 ロイツを引きずり、無視して依頼をこなしに行った。

「待って!」


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