全種族の男の子、コンプリートを目指す魔女っ娘♂のお話

水無月

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豪放磊落

01 水使いの住む村

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 なんだかキャットの魔力がごっそり減っていたが、まあ、気にするほどのことでもないか。
 遠いのでお子様たちにはキャットバスに乗ってもらう。
 大猫になった執事にムギちゃんは驚きながらも飛びついていた。もふもふ毛並みなので気持ちは分かるよ。顔を埋めて足をバタバタさせて喜んでいたのが可愛くて、出発を五分ほど待った。

 名前しか分からない相手を探すのだ。苦戦すると思っていたが、キャットが案内してくれるのでその心配は消える。いやー助かるぜ。

 休憩を挟み、たどり着いたのはまたもや立派な観光地――ではなかった。
 そこそこ大きな、のどかな農村である。
 見渡す限り土、緑、山。空気が澄んでおり呼吸が楽しい。
 さらさらと底が見えるほど澄んだ川が流れ、子どもたちが魚を捕ったりして遊んでいる。なかには服が濡れないようにお尻丸出しにしている子もいる。ふら~とそちらに歩き出した主人の三角帽子を掴み、ずかずかと村に入っていく。
 エイオットのいた村と違ってさびれた感じはしないな。人々も笑顔で、服装も畑仕事で汚れる前提の作業着なのだろうが、生活苦が滲み出てはいない。贅沢は出来ないが心に余裕のある空気で満ちている。
 暑いがカラッとしているため苦しさも……

「あ、あふあ、あああ。あ? ふああ」
「ごしゅじんさま! なんかムギちゃんがあふあふ言ってる」

 キャットと引きずられている主人が同時に振り返る。酔っ払いのような足取りのムギを、エイオットが支えていた。
 顔が真っ赤で焦点が合っていない。極寒暮らしにはきつかったか。

 キャットは邪魔な荷物をその辺に投げ捨て、ムギを抱き上げる。

「おい。しっかりしろ。俺が分かるか?」
「ふはあふああふああ」
「駄目だ」

 木陰に移動する。

 エイオットにムギを任せると、蓋を取って水筒の中身をぶっかけてやった。

「あ」
「いい香り……」

 水筒の中身オランジジュースだった。エイオットにジュースが良いとせがまれたので入れ替えたのだ。

「冷たいからいいだろ」
「ムギちゃん。しっかり」

 ぺろぺろとエイオットがムギの頬……を伝うオランジジュースを舐める。

「んー。あまーい」

 ちゅうちゅうと吸いついていると放り投げた荷物が戻ってきた。

「おうおう。可愛いことしてんな。俺も混ぜろ」
「近寄るな変態」
「うるさい俺も未成年をぺろぺろさせろ」
「近寄るな変態」
「あのー。大丈夫ですか?」

 キャットが魔女っ娘をぶん投げようとしたところで声がかけられた。今まさに畑仕事していましたと言わんばかりの身なりの女性だ。目が大きくかなり美しい。美女、だ。『スクリーン(首都にあるギルド)』の受付嬢たちに匹敵する。
 女性はほっぺを吸っているエイオットの近くでしゃがむ。

「暑さにやられちゃったのかしら? 近くに井戸があるから、そこでお水をあげるといいわ」

 魔女っ娘を後ろ蹴りで蹴飛ばし、女性に頭を下げる。

「助かります」
「案内しますね。さ、こちらへ」

 ムギをキャットが抱き上げ、エイオットは執事の背中に掴まりぶら下がる。

「お前は歩けよ」
「なんで?」
「……」

 女性の後に続く一行の後ろから、よろよろとゾンビがついてくる。
 ゾンビは帽子やローブに付いた泥や小枝、葉っぱを払う。

「お前また蹴っ飛ばしやがって」
「視界に入るな暑い」
「ごめんて」

 俺だってローブ脱ぎたい。
 キャットは純白のシャツとエイオットを装備しただけの涼しそうな姿だ。ちびっ子たちはおばあちゃんのところから持ってきたフード付きワンピース。色は薄いピンクと黄緑で、汗を良く吸うタオル地で出来ている。ヴァッサーのことはこれから裁縫の神と呼ぼう。

「あらぁ。カリーヌちゃん。えらい男前連れとるやないか」
「おや。そっちの羽の子はどうしたんやね? 暑さにやられたんか」

 井戸の近くで野菜を洗っていたのかな? おばあちゃんとおじいちゃんが駆け寄ってくる。
 二人が近くにくると、濃い土の香りがした。

「おい。男前。この子どうしたんや」
「暑さにやられてしまったようで」
「ワシの家、近くやから。おいで! 休ませたり!」
「ご好意に甘えさせていただきまちょ、ちょっと」

 頭を下げている最中のキャットの服を引っ張りながら、パワフルおじいちゃんは家の戸を開ける。
 主人もついていく。

 木造の家の中は質素だが、温かさで満ちていた。
 風通しの良い部屋で寝かせる。藁ではなくマットが敷かれた木製ベッド。
 おじいちゃんが持ってきてくれた水入りのタライにタオルを浸し、キャットが手際よくムギの汗を拭っていく。まったく苦戦しないので俺たちはやることが無い。エイオットと並んで椅子に腰かけ、見守る。

「井戸のお水です。冷たいですよ」
「ありがとうございます」

 コップを受け取ると手の甲でムギの頬をぺちぺちと叩く。

「起きろ。水飲めるか?」

 言いながらキャットはちびっと水に口をつけた。毒味を無意識で行っている。

「んぅ……?」

 のろのろと瞼を開けたムギの背中を支えてやり、木を削ったコップを近づけた。

「飲め」
「はい……」

 眠たそうな目付きで、こく、こく、と少しずつ飲んでいく。我慢できなかったのか、エイオットがベッドに飛び乗る。

「ムギちゃん。元気出してね」
「エイオットさま」

 エイオットの顔を見ると良い笑顔を浮かべてくれる。主人はそっとエイオットに団扇を渡すと、ムギに向かって頑張って扇ぎ出す。
 汗もすっきりして眠くなったのか、飲み干すとムギはすかーっと眠ってしまった。

「もう大丈夫そうだな」

 主人も近づくとキャットが「なんとかしろ」と言いたげに見てくる。

「? ああ」

 ムギちゃんがしっかりとキャットのシャツを握っているのだ。

「うぷぷ。懐かれちゃって。一緒に寝たら?」
「顔がムカつくから歯を喰いしばれ」
「お姉ちゃんたち! ありがとうございます!」

 駄目な大人たちが揉めている間、キャットが家主のおじいちゃんたちに礼を言っていた。なんていい子だ。どこに出しても恥ずかしくない。
 お姉さんはクスッと笑う。

「いいのよ」
「でもタダじゃあベッド貸してやらんぞ? きっちり働いてもらおうかのう」

 豪快なおじいちゃんが主人とエイオットを小脇に抱えて畑に走って行く。「いやそれなら俺が!」と働きたそうなキャットが言いかけたが、小さな手はシャツを放してくれなかった。

「んぐう……」

 今やっと追い付いてきたおばあさんが子ども用の衣類をいくつか置いていってくれた。

「あ、どうも」
「いいえ」


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