98 / 189
豪放磊落
01 水使いの住む村
しおりを挟むなんだかキャットの魔力がごっそり減っていたが、まあ、気にするほどのことでもないか。
遠いのでお子様たちにはキャットバスに乗ってもらう。
大猫になった執事にムギちゃんは驚きながらも飛びついていた。もふもふ毛並みなので気持ちは分かるよ。顔を埋めて足をバタバタさせて喜んでいたのが可愛くて、出発を五分ほど待った。
名前しか分からない相手を探すのだ。苦戦すると思っていたが、キャットが案内してくれるのでその心配は消える。いやー助かるぜ。
休憩を挟み、たどり着いたのはまたもや立派な観光地――ではなかった。
そこそこ大きな、のどかな農村である。
見渡す限り土、緑、山。空気が澄んでおり呼吸が楽しい。
さらさらと底が見えるほど澄んだ川が流れ、子どもたちが魚を捕ったりして遊んでいる。なかには服が濡れないようにお尻丸出しにしている子もいる。ふら~とそちらに歩き出した主人の三角帽子を掴み、ずかずかと村に入っていく。
エイオットのいた村と違ってさびれた感じはしないな。人々も笑顔で、服装も畑仕事で汚れる前提の作業着なのだろうが、生活苦が滲み出てはいない。贅沢は出来ないが心に余裕のある空気で満ちている。
暑いがカラッとしているため苦しさも……
「あ、あふあ、あああ。あ? ふああ」
「ごしゅじんさま! なんかムギちゃんがあふあふ言ってる」
キャットと引きずられている主人が同時に振り返る。酔っ払いのような足取りのムギを、エイオットが支えていた。
顔が真っ赤で焦点が合っていない。極寒暮らしにはきつかったか。
キャットは邪魔な荷物をその辺に投げ捨て、ムギを抱き上げる。
「おい。しっかりしろ。俺が分かるか?」
「ふはあふああふああ」
「駄目だ」
木陰に移動する。
エイオットにムギを任せると、蓋を取って水筒の中身をぶっかけてやった。
「あ」
「いい香り……」
水筒の中身オランジジュースだった。エイオットにジュースが良いとせがまれたので入れ替えたのだ。
「冷たいからいいだろ」
「ムギちゃん。しっかり」
ぺろぺろとエイオットがムギの頬……を伝うオランジジュースを舐める。
「んー。あまーい」
ちゅうちゅうと吸いついていると放り投げた荷物が戻ってきた。
「おうおう。可愛いことしてんな。俺も混ぜろ」
「近寄るな変態」
「うるさい俺も未成年をぺろぺろさせろ」
「近寄るな変態」
「あのー。大丈夫ですか?」
キャットが魔女っ娘をぶん投げようとしたところで声がかけられた。今まさに畑仕事していましたと言わんばかりの身なりの女性だ。目が大きくかなり美しい。美女、だ。『スクリーン(首都にあるギルド)』の受付嬢たちに匹敵する。
女性はほっぺを吸っているエイオットの近くでしゃがむ。
「暑さにやられちゃったのかしら? 近くに井戸があるから、そこでお水をあげるといいわ」
魔女っ娘を後ろ蹴りで蹴飛ばし、女性に頭を下げる。
「助かります」
「案内しますね。さ、こちらへ」
ムギをキャットが抱き上げ、エイオットは執事の背中に掴まりぶら下がる。
「お前は歩けよ」
「なんで?」
「……」
女性の後に続く一行の後ろから、よろよろとゾンビがついてくる。
ゾンビは帽子やローブに付いた泥や小枝、葉っぱを払う。
「お前また蹴っ飛ばしやがって」
「視界に入るな暑い」
「ごめんて」
俺だってローブ脱ぎたい。
キャットは純白のシャツとエイオットを装備しただけの涼しそうな姿だ。ちびっ子たちはおばあちゃんのところから持ってきたフード付きワンピース。色は薄いピンクと黄緑で、汗を良く吸うタオル地で出来ている。ヴァッサーのことはこれから裁縫の神と呼ぼう。
「あらぁ。カリーヌちゃん。えらい男前連れとるやないか」
「おや。そっちの羽の子はどうしたんやね? 暑さにやられたんか」
井戸の近くで野菜を洗っていたのかな? おばあちゃんとおじいちゃんが駆け寄ってくる。
二人が近くにくると、濃い土の香りがした。
「おい。男前。この子どうしたんや」
「暑さにやられてしまったようで」
「ワシの家、近くやから。おいで! 休ませたり!」
「ご好意に甘えさせていただきまちょ、ちょっと」
頭を下げている最中のキャットの服を引っ張りながら、パワフルおじいちゃんは家の戸を開ける。
主人もついていく。
木造の家の中は質素だが、温かさで満ちていた。
風通しの良い部屋で寝かせる。藁ではなくマットが敷かれた木製ベッド。
おじいちゃんが持ってきてくれた水入りのタライにタオルを浸し、キャットが手際よくムギの汗を拭っていく。まったく苦戦しないので俺たちはやることが無い。エイオットと並んで椅子に腰かけ、見守る。
「井戸のお水です。冷たいですよ」
「ありがとうございます」
コップを受け取ると手の甲でムギの頬をぺちぺちと叩く。
「起きろ。水飲めるか?」
言いながらキャットはちびっと水に口をつけた。毒味を無意識で行っている。
「んぅ……?」
のろのろと瞼を開けたムギの背中を支えてやり、木を削ったコップを近づけた。
「飲め」
「はい……」
眠たそうな目付きで、こく、こく、と少しずつ飲んでいく。我慢できなかったのか、エイオットがベッドに飛び乗る。
「ムギちゃん。元気出してね」
「エイオットさま」
エイオットの顔を見ると良い笑顔を浮かべてくれる。主人はそっとエイオットに団扇を渡すと、ムギに向かって頑張って扇ぎ出す。
汗もすっきりして眠くなったのか、飲み干すとムギはすかーっと眠ってしまった。
「もう大丈夫そうだな」
主人も近づくとキャットが「なんとかしろ」と言いたげに見てくる。
「? ああ」
ムギちゃんがしっかりとキャットのシャツを握っているのだ。
「うぷぷ。懐かれちゃって。一緒に寝たら?」
「顔がムカつくから歯を喰いしばれ」
「お姉ちゃんたち! ありがとうございます!」
駄目な大人たちが揉めている間、キャットが家主のおじいちゃんたちに礼を言っていた。なんていい子だ。どこに出しても恥ずかしくない。
お姉さんはクスッと笑う。
「いいのよ」
「でもタダじゃあベッド貸してやらんぞ? きっちり働いてもらおうかのう」
豪快なおじいちゃんが主人とエイオットを小脇に抱えて畑に走って行く。「いやそれなら俺が!」と働きたそうなキャットが言いかけたが、小さな手はシャツを放してくれなかった。
「んぐう……」
今やっと追い付いてきたおばあさんが子ども用の衣類をいくつか置いていってくれた。
「あ、どうも」
「いいえ」
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる